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国の保障と選択の自由が学力を育てる オランダのリアル教育事情

国の保障と選択の自由が学力を育てる オランダのリアル教育事情

「オランダの教育は自由だ!」そんな印象をもつ人もいるのではないでしょうか。

学校ごとに自由な裁量が認められているオランダですが、実際には日本よりも厳しい側面もあります。何が自由で、何が厳しいのか、日本の報道では伝えきれていない、オランダ教育事情の実態をお伝えします。

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世界中の人が集まる国「オランダ」

伝統に固執せずオルタナティブ教育も選択可能

オランダの教育を語るうえで、まず欠かせないのが多様な教育機関(学校)です。オランダも日本と同じく、公立と私立があります。

私立学校の母体となる団体は、大きくわけて3分類あり、まずは、カトリックやプロテスタントなどの宗教によるもの、次に「日本人学校」というように言語や国籍に基づくもの。そして、最後が、オランダ教育の代表例として日本の報道でも取りあげられやすいオルタナティブ教育によるものです。

オルタナティブ教育とは、主流や伝統とは異なる教育、学習法のこと。日本でも幼児教育で耳にすることの多い「イエナプラン」「モンテッソーリ」「シュタイナー」などです。オランダでは、これらオルタナティブ教育が正式に認可されているため、公立学校と同じく公費負担を使って運営されています。

冒頭の文章で「オランダの教育は自由」と書きましたが、そのような印象を抱いている方は、このオルタナティブ教育のイメージでしょう。実際、学校を選択する自由の幅は日本に比べて広いかもしれません。

しかし、オルタナティブ教育機関は、実は全体の10%ほど。オランダでも決して一般的だとはいえません。

学費の心配がなく学習のペースも個人主義でOK

100校あれば100通りの教育方針があると言われるように、使用する教科書や教育哲学は学校ごとに全く異なります。厳しくお勉強主義の学校もあれば、情操教育に重きを置く学校もあります。

オランダ語を中心に学ぶ私立校は、公立校と同じように学校運営費の多くは公費で負担されます。そのため、大半の学校で学費を心配する必要がなく、子どもにあった学校を選ぶことが可能です。実際に、私学を選択する家庭が多く、その場合でも年間の学費は60ユーロから。教材費などもほとんどかかりません。

年度途中の転校や子どもの状況による進級や学び直しが可能という点もオランダの学校が自由だといわれる理由のひとつだと感じます。

出欠状況により罰金・呼び出し、保護者にはつらい面も

オランダの教育制度で徹底をしているのは、「子どもが教育を受ける権利を確保する」ということ。上記のように、学校を選択する自由がある反面、ホームスクーリングは基本的に認められていません。

遅刻や欠席について厳しく管理されており、病気や親族の不幸などでの欠席は認められますが、学校長に正式な書類を書いてもらい許可をもらう必要があります。ただし、「親の都合で子どもの教育機会が失われてはいけない」という信念で教育委員会が管理を行っているため、許可が下りないというケースもあります。

また、遅刻や欠席が多い場合、教育委員会への呼び出しと罰金が保護者に課せられることもあり、学校生活は親子が二人三脚で営むものといえるでしょう。

また、小学校の間から統一テストがあり、小学校卒業の段階で、将来なりたいものを決めて「大学進学準備コース」「一般中等教育コース」「職業中等教育コース」のなかから選択して進学します。

中学校以降、進路途中での変更も可能ですが、それには成績が伴わなければならず、親の希望、子どもの希望、そして学力の一致が不可欠です。オランダの教育は夢ではなく現実を見据えています。

なぜ、ここまで厳しいのかといえば、前述のようにさまざまなスタイルの学校があるからです。教育を受ける権利の保障をするため、政府が学校を束ね、子どもを社会の一員に育てあげていこうとする国家の意志があるのです。

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小学校中学年までは宿題もあまりなく、のんびりした学校が多い印象。

意外にもコネが大事なオランダ社会。幼い頃からの人付き合いも重要

オランダのビジネスシーンで耳にするのは「小学校からの幼なじみ」というキーワード。オランダでは、幼なじみがビジネスパートナーというスタイルがまだまだ現役です。

オランダは、学校への入学も、誰かの口利きがあったほうが有利なコネ社会。ホッケー、サッカー、乗馬、バレエなど人気の習い事は、子どもの経験や才能を伸ばすという目的だけでなく、親同士、子ども同士のつながりを作るため、という話もよく聞きます。

人気の高いサッカークラブは、入会も紹介制で、いちげんさんお断りなんてこともあります。

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放課後、土曜日はスポーツの習い事が人気。

まとめ

「子どもが教育を受ける権利(費用)を国が保障」「個性ある学校」「家庭ごとに方針を選べる自由」「子ども自身の希望と努力(学力)」の4つで成り立つオランダの教育。それぞれの家族がどんな教育・将来を望むかという個人的な思想と国による建設的な取り組みがあり、その受け皿として学校があるという姿が見えます。

オランダの教育を魅力的に語るならば、多彩な選択肢や自由な教育法だけではなく、根底に「未来の国家を支えるのは子どもたち」という考え方があることを忘れてはいけません。

国、学校、親が教育の必要性を共通認識して真摯に取り組むことは、国を発展させるための現実的な方法だといえます。子どもの未来設計がおざなりになっている日本でも、ぜひ参考にしてほしいものですね。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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