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ユネスコ認定!人権をベースにした話題の性教育絵本 『女の子のからだえほん』監修者 艮香織さんにインタビュー!

ユネスコ認定!人権をベースにした話題の性教育絵本 『女の子のからだえほん』監修者 艮香織さんにインタビュー!

あるフランス人の女の子の母親がクラウドファンディングで制作した性教育絵本『女の子のからだえほん』(パイ インターナショナル)。からだの構造だけでなく、人間関係や社会とのつながりまで幅広い内容を扱った公益性が認められ、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の認定マークを獲得した話題の絵本です。

今回は、この絵本の日本語監修を務められた、宇都宮大学で性教育と人権教育を研究されている、艮香織先生にお話を伺いました。世界と日本の性教育事情はもちろん、家庭で性教育をする上でのアドバイスは必見です!

艮(うしとら)香織先生
宇都宮大学教員。専門は性教育と人権教育。 “人間と性” 教育研究協議会幹事、同「乳幼児の性と性教育サークル」運営委員。著書に『教科書に見る世界の性教育』(共著、かもがわ出版)、『性教育はどうして必要なんだろう?』(共編著、大月書店)、訳書に『
国際セクシュアリティ教育ガイダンス[改訂版]』(共訳、明石書店)、『人間と性の絵本(5巻シリーズ)』(4,5巻担当、大月書店)などがある

ユネスコ認定マークを獲得した性教育の絵本とは?

___この本の見どころについて教えていただけますでしょうか

まず一番は表紙のインパクトです。女性の外性器を表紙にしている絵本は日本ではほとんどないのではないでしょうか。フランスでは1970年代から公的に性教育が根付いている国です。そんな性教育の歴史があるフランスだからこそ、人権やプライバシーを押さえた上でポジティブに見せようとしているのかなと感じました。


さらに、ユネスコの国際認定マーク(「性の健康と人権」マーク)を獲得した性教育の絵本というのも初めて見ました。

それはつまり、ユネスコが作った性教育の手引き書「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の基準を満たしたということ。子ども向けの絵本が認められたのはとても興味深いです。

この絵本は、性がとても広い内容であることがわかります。また、皮膚の色やからだの違い、養子縁組や障害、自分の性をどうとらえるかや誰を好きになるかといったことまで、あらゆる多様性を織り込みながら、かつ分かりやすい言葉で表現されています。つまりは内容の柱に「人権」があることがわかります。

また、「あらえる布ナプキン」や「月経カップ」なども登場しており、月経用品をセルフケアを大切にしながらも、同時に“地球にやさしい”という視点で描いているのも面白いですよね。

そして出産のところでも、日本では母親への感謝の気持ちを中心に描かれることも少なくありませんが、この絵本では母親も赤ちゃんも頑張って生まれてきたという、両方の視点で描かれているのもいいですね。他にも見どころはたくさんありますが、クリトリスのところでは、「快楽」としての性も、包み隠さずに書いてあるというのもいいですね。自分を知るために、自分の性器をかがみで見るというページがあるのも素敵です。大人が読んでもたくさんの学びがある本だと思います。

日本と世界の性教育はどうちがうのか

__「日本の性教育は遅れている」と言われますが、具体的に世界とはどんなところが違うのでしょうか?

一言で言うと世界の性教育は扱う内容が広いのが一番の違いです。日本の性教育は、出産や子育てなど「生殖の性」か、月経や射精など「思春期の性」など扱う時期が限定的なのに対し、海外では一生を通じて学んで行くものという認識があります。

さらに、人間関係や文化の中での性も含まれます。たとえば人間関係では思いやりややさしさのような抽象的なものではなく、人にはそれぞれバウンダリー(境界)があって、それを許可なく超えることは暴力行為にもなるので、察するのではなく言葉で相手に伝えながらその関係を築いていくというコミュニケーションの基本も含まれているのは日本の性教育と異なると感じますね。

そもそも性教育自体の捉え方や質が日本とは全然違っていて、たとえば、オランダでは理科の教科書に多様な性に関わる記述があったり、学校でも教科を横断した性教育が行われています。日本でも学校によっては性教育の取り組みはありますが、中学3年生で年間3時間程度という調査もあり、相当少ないですよね。さらに、世界では学校だけではなく地域や民間団体、メディアなどが連携しながら、性教育を人権をベースに考え、社会全体で保障していこうという認識なのに対し、日本は学校や意識的な教員に性教育を押し付けているという点も、日本の性教育が進まない原因のひとつと言えます。

性教育=人権教育の一部が世界のスタンダード

こうした、からだとこころ、人間関係、社会とのつながりなどいろんな角度から幅広く学ぶ性教育をユネスコでは「包括的性教育」と呼んでいます。

ちなみに、ユネスコが定めている「国際セクシュアリティ教育ガイダンスのキーコンセプト」は以下の通りです。(※ガイダンスの翻訳版はユネスコのホームページから無料で見ることができます。また明石書店からも出版されています。興味のある方はぜひチェックしてみてください)

① 人間関係
② 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
③ ジェンダーの理解
④ 暴力と安全確保
⑤ 健康と幸福のためのスキル
⑥ 人間のからだと発達
⑦ セクシュアリティと性的行動
⑧ 性と生殖に関する健康

世界では①~⑧の広範囲にわたる「人権」に関わる項目を含めて性教育と呼ぶのに対し、日本では多くが④と⑥がメインになっているといってもよいでしょう。④と⑥も十分に学ぶ権利が保障されているとは言えません。その理由としては、日本ではまだまだ、社会全体で性を人権として学んだ経験のある大人が少ないため、「性=エロ」という視点が根強く、性教育を性交を教える教育だと誤解していることもあります。また、学校教育では「はどめ規定」があり、詳細まで踏み込んだ性教育が進めづらいことも関係しています。

日本の性教育に必要なのは「大人の学び直し」

ここ数年で性教育に関する本や子ども向け絵本もかなり増えてきましたし、10~20代の若者はLGBTヘの理解も深い子が多いように感じます。すっぽり抜け落ちているのが、私たち30~40歳以上の世代なのです。「性教育を学んでこなかった世代」ですが、私はむしろ「性の学習権を奪われてきた世代」なのではないかと考えます。だからといって、手遅れではありません。大人も子どもも性は誰もが当事者ですし、性は生まれてから亡くなるまで深く関わりますから。

大人になってから性について学んでいくと、自分がずいぶんと「女性らしく」「男性らしく」などといった偏った性の考え方にとらわれていたなと感じる方が多いです。例えば性のハラスメント被害は女性だけではありません。男性社会でも性に関する同調圧力やプレッシャーが強い組織などではNOと言えず苦しい思いをしてきた人がいるはずです。

特に今の社会の中枢を担う40代半ば以上の男性は、性教育だけでなく、学校では家庭科を習っていなかったりする時代で育ってきたのです。私はそんな大人の男性にこそ、性や人権について学び直しをしてほしいと思っています。

私が関わっている社会人向けの研修では、80歳のおじいさんも参加してくださることがあります。「孫のために学びたい」と参加されたのですが、妻との会話の無さをどう考えればいいかというようなことにもつながって、性のテーマは自分事でもあることに気づいたという感想をよせてくださったこともありました。性の学び直しに年齢制限はありません。ぜひお子さんと一緒に学んでみてください。

家庭で行う性教育のアドバイス

__わが子に性教育をと考えるお母さんにアドバイスをお願いします

まずは、性教育=教えるのではなく「環境を整える」と考えてみてください。

「いつも100点の答えをしなきゃ」と思わずに、大人にだってお母さんにだって分からないことはたくさんありますから、絵本を活用しながら「一緒に勉強しようね」でいいんです。

そして、お子さんが何か性に関する質問をしてきたら、まずは「そんなことに関心がもてるようになってすごいね!」とポジティブに捉えましょう。

このとき「あなたの年齢でそんなことに興味を持つなんて!」などと怖い顔をしてはいけません。子どもは親の反応を見て「こんな話をしてはいけないんだ」と考えてしまいます。

子どもの疑問には「どうしてそう思ったの?」とひとつひとつ絵本などを見ながら解消していき、答えられないことは無理に答えず「一緒に調べてみようね」でOK。

性教育は日々のそうした積み重ねです。親子で性について話題に出せる環境づくりからはじめてみてください。

それから、「親にだってプライベートな部分はある」ということもお子さんに伝えましょう。

隠し事はしないことがオープンな性教育という考えもありますが、性は人権ですから、私は「親だって聞かれて言いたくないことをわが子に全てさらけ出さなくていいし、子どもに触られて嫌なときはNOと言ってもいい」という考え方です。

幼稚園などで4歳児の複数を対象に性のお話をすることがあります。そうした時、自分のお父さんお母さんの身体の特徴を言い出す子どもがいたりします。性に関心があることは素敵なことですが、プライバシーのことも合わせて伝えることも大切だなと感じています。「それ(人のからだの特徴)を言うのはブーだよ」「プライバシーは大人にもあんだよ」と伝えるとちゃんと理解してくれます。もちろん一回だけでは無理で、継続して人権としての性を意識した取り組みを続けてもらいたいですね。そんな時、この絵本『女の子のからだ絵本』はとても大きな力になってくれる一冊だと思います。他にも国内外でいろいろな絵本が出されていますから、楽しみながら探してみてくださいね。

著者プロフィール

ライター・エディター。出版社にて女性誌の編集を経て、現在はフリーランスで女性誌やライフスタイル誌、ママ向けのweb媒体などで執筆やディレクションを手がけている。1児の母。2015年に保育士資格取得。

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