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日本の20年先を行く! シンガポールのSTEM教育とは?【後編】シンガポールのSTEM教育の実状

日本の20年先を行く! シンガポールのSTEM教育とは?【後編】シンガポールのSTEM教育の実状

国家戦略として理数教育を推進するシンガポール。後編では、政府が全面バックアップして進めるSTEM教育の最新動向をお伝えします。

▼前編はこちら
日本の20年先を行く!シンガポールのSTEM教育とは?【前編】理数教育を重視してきたシンガポールの国家戦略!

引き続き、アジア圏を中心に活動するSTEM教育のプロフェッショナル・石原正雄さんと、シンガポールにおけるパートナー・ステムワイズ社のクリスさんにお話をうかがいます!

石原正雄(いしはら・まさお)
米国・アジア圏を中心に、ブロック等を使ったハンズオンによるSTEM教育、LEGOシリアスプレイによる社会人研修などを展開する教育のプロフェッショナル。
米国タフツ大学のものづくり教育研究機関CEEO(Center for Engineering Education and Outreach)アドバイザリー(2012−2015年)。国際基督教大学、米国ボストン大学大学院卒。
Kris Tay(クリス・テイ)
シンガポールのSTEM教育専門企業STEMwise(ステムワイズ)の設立メンバー。シンガポール国内やASEAN圏内の学校やアフタースクール向けのSTEM教育導入のための支援、コンサルティングを専門としている。
国立シンガポール大学卒。

 

シンガポールのSTEM教育は具体的にどのように行われているのか?

シンガポールのSTEM教育は、サイエンスセンターが中心になって進められています。サイエンスセンターは、シンガポール最大の科学館であると同時に、次世代の理系人材の育成を担う機関でもあります。

サイエンスセンターは2014年、シンガポール政府の協力のもと、中学校の全ての生徒たちにSTEMプログラムを提供するための組織・ステムインク(STEM Inc)を立ち上げました。

ステムインクがサポートするSTEMプログラムは、工学&ロボット工学、コーディング&プログラミング、食品生産科学、環境科学&持続可能な生活、健康科学&テクノロジーなどの8領域。

ステムインクには、STEM関連領域で修士号・博士号を持つカリキュラムスペシャリストやSTEM講師が所属しています。彼らは各学校に派遣され、教師とともにさまざまな授業を展開します。

授業では学習用ブロックやアルドゥイーノ(初心者向けマイコンボード)などのキットを使う場合もありますが、ツールにはそれほどこだわりません。日本ではSTEM教育というとロボット作りやスクラッチといったツールが大人気ですが、シンガポールではむしろツールは何でもいい。ハンズオンをベースに、身の回りのモノや題材からSTEM的な課題に取り組み、仮説を立てながら検証を繰り返す、といった傾向が高いですね。

STEMプログラム導入の動きは、小学校にも広がっています。小学校の中には、すでにSTEM教育を試験的に取り入れているところも少なくありません。STEMのさらなる普及に貢献するため、私たちもスチューデント・ケア・センター(日本の学童保育に相当)などへのSTEMプログラムの提供を積極的に行っていく予定です。

シンガポールのSTEM教育の最大の特徴とは?

STEMの知識を「数学」や「サイエンス」という縦割りの構造の中で学ぶのではなく、社会での使われ方に則したカテゴリ分けの中で学べることです。つまり学習の目的と結果がわかりやすく結びついているんですね。

例えば、健康科学&テクノロジーのプログラム。生徒たちは基礎電子工学、コンピュータープログラミング、マイコン技術を学んだ後、実際に脈拍数のデータを収集・分析するデジタル心拍センサーを制作します。この過程で、学んだ知識や技術がどのように実社会に貢献するのかを、身を以て理解することができるのです。

だから生徒たちは、自分たちが学んでいることの意味を意識しながら学習できる。このように「何のためにSTEMを学ぶのか?」「身につけた知識は社会の中でどのように活きるのか?」をハッキリさせることは、学習に対するモチベーションにつながると思います。

また、シンガポールでは親たちもSTEM教育に対して関心が高く、子どもたちを全面的にサポートする姿勢がある点も特徴的です。そのため、子どもたちに理数教育専門の家庭教師をつけることも珍しいことではありません。政府や産業界からのスポンサーシップによる数学コンテストやサイエンスフェア、STEMプロジェクトなどの取り組みも盛んで、毎年多くの子どもたちが参加しています。

このようにシンガポールでは、STEM教育を身近なものとして自然に学べる環境が整っています。もちろん、その背景には長年の理数重視の教育と、その高い教育効果というエビデンスがあってこそ。試行錯誤しながら、さまざまな教育プログラムを取り入れ、本当に効果が高いものを取捨選択していく。シンガポールのSTEM教育は、そんな政府の柔軟な姿勢に支えられているのです。

 

いかがでしたか? 日本とは比較にならないほど柔軟で進歩的なシンガポールのSTEM 教育に、インタビュー中ずっと驚きの連続でした。

シンガポールの子どもたちは公教育で英語とSTEMの知識を身につけるため、高校(ポスト・セカンダリー)を出た後の大学の選択肢が広がる、というメリットもあるそうです。ちなみに、クリスさんの娘さんは、現在オーストラリアの大学で獣医学を勉強中だとか。

とにかく、STEM教育や英語教育は国が「国策」として推進することが成功のカギと言えそうです。今回の取材で、教育サポートの手厚いシンガポールに住んでみたくなりました(笑)。

STEMについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの動画を見てみてください!

著者プロフィール

ライター/親子留学アドバイザー。インタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で活躍後、フィリピン・セブ島へ移住。2012〜2015年まで3年間、親子留学を経験。現在はライター業の傍ら、早期英語教育プログラムの開発・研究にも携わる。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。

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