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インターネットを超える衝撃!?ものづくりの概念を覆す「デジタルファブリケーション」とは?

インターネットを超える衝撃!?ものづくりの概念を覆す「デジタルファブリケーション」とは?

2015年12月12日・13日の2日間にわたり、次世代型ものづくりにおける教育のあり方を考える国際会議『ファブラーンアジア2015』が横浜で開催されました。
「子どもの未来を耕し、育て、伸ばす」をミッションに掲げる SHINGA FARM にとって、次世代型ものづくり教育はぜひとも紹介したいトピック。

今回は“インターネット以来の衝撃”とも言われるデジタルファブリケーション技術の台頭と世界のものづくり教育の最前線について、ライター・庄司里紗がレポートします!

日経DUAL記事

そもそも「デジタルファブリケーション」って何?

デジタルファブリケーションとは、端的に言えば、

3次元のデジタルデータをもとに、コンピュータと接続されたデジタル工作機械(3Dプリンターやレーザーカッターなど)を使って、木材、アクリル、樹脂などさまざまな素材を切り出したり出力したりして立体物を造り出す技術

ということができます。

近年こうしたデジタル工作機械の小型化・低価格化が進み、個人の所有が可能になったことで、デジタルファブリケーション技術を使った個人によるものづくり(=パーソナルファブリケーション)が注目を集めるようになりました。
なぜなら、これまで誰かがデザインし、どこかの工場で大量生産されたモノを購入するしかなかった私たちが、自ら欲しいモノをデザインし、必要な分だけつくることができるようになるからです。
それは一方で、ものづくりの産業構造そのものの大変革を意味しています。

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3Dプリンターが亀のオブジェをプリンティングしている様子。
Photo by Keith Kissel

デジタルファブリケーションと教育、いったいどんな関係があるの?

さて、前置きが長くなりましたが今回のイベントは「デジタルファブリケーションと教育の未来」をテーマにしています。
かつてインターネットは、誰でも簡単に情報発信することを容易にし、個人の可能性を大きく広げました。
それと同じように、デジタルファブリケーション技術も、私たち一人ひとりが生み出すモノの可能性を拡張するはずです。
そのような時代の変化に応じて、デジタルファブリケーション技術を使いこなすスキルや知識を教えるための教育も変革を迫られるでしょう

『ファブラーンアジア2015』は、そんな転機を迎えつつある教育の未来について、国内外の専門家によるさまざまな先進事例の紹介とともに、多彩な参加型ワークショップを通じて理解を深めるために開催されました。

基調講演を行ったスタンフォード大学准教授パウロ・ブリクスタイン氏は、自身が世界各地で推進するものづくり教育の成果を紹介。

プロダクトそのものよりも、ものづくりというプロセスこそが重要である」というメッセージが印象に残りました。「私立や公立を問わず、すべての子どもたちにこのような教育の機会を平等に与えることが大切」と訴えるブリクスタイン氏に、会場からは大きな拍手がわき起りました。

はじめてのパーソナルファブリケーション体験ができる多彩なワークショップ

ランチ後は、両日ともに3Dプリンターやレーザーカッターを使ったさまざまな「ものづくりワークショップ」が開かれました。

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身の回りの物を使ったロボット制作ワークショップ。
© FabLearn Asia 2015 Committee

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ハートや香水びん型など、まるでジュエリーのようなLED制作に挑戦するユニークなワークショップ。
© FabLearn Asia 2015 Committee

なかでも興味を引いたのは、ソニーが開発したブロック状の電子タグ「MESH」を使ったワークショップです。

今回のテーマは、動きを検知したり、さまざまな色に光るなど多彩な機能を持った「MESH」タグを身の回りのものに貼付け、アプリと連携させていろいろな動作を可能にする、というもの。
例えば、ギター型にくりぬいた木版に「MESH」タグを取り付け、ギターを弾くような動作をすると、iPadからギターの音が鳴る、といった作品をつくることもできます。

専門的なプログラミングの知識がなくても楽しめるので、ぜひ我が家の6歳の息子にも体験させてみたいと思いました。

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↑ ソニーでMESHの開発に携わった萩原丈博さんが使い方をレクチャーしてくれました。

日本の公立小学校でも、いち早くプログラミング教育を導入したところも!

イベントでは、日本国内で先進的なSTEM教育※に取り組む実践校によるプレゼンテーションも行われました。

※新しいものづくりの時代に必要な「サイエンス(Science)」「テクノロジー(Technology)」「エンジニアリング(Engineering)」「数学(Math)」に重点を置いた教育政策は、それぞれの頭文字を取って「STEM」と呼ばれています。

個人的に衝撃だったのは、義務教育課程を通じてプログラミング教育に取り組む古河第五小学校のケースです。

教科教育の壁や教師たちの意識の壁、コストの壁を知恵で乗り切り、普通の公立校をICT教育の先進校に導いた元校長・平井聡一郎氏(現・古河市教育委員会参事兼指導課長)の取り組みは、日本におけるSTEM教育の普及のためにとても参考になる事例だと感じました。

また、福岡雙葉高等学校(福岡県)のプレゼンには、文科省が推進する平成27年度「スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)」に認定されたことを受けて先駆的な取組みを進めるGC(グローバルコミュニケーション)コースに通う女子生徒たちが登壇。

夏休みに実施したボストンでのMITメディアラボ視察やファブラボ国際会議参加や国内での研修など、1年間の活動報告を完璧な英語でやり切った彼女たちには、会場から大きな拍手が送られました。

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流暢な英語でプレゼンをやり遂げた福岡雙葉高等学校の生徒たち。
© FabLearn Asia 2015 Committee

福岡雙葉高等学校の生徒たちは、2日目のワークショップでも大活躍。
カッティングマシンを使ったオリジナルステッカー作りを指南する講座は大盛況で、ほぼ先生たちのサポートなしに生徒たちだけでマシンを操り、海外からの参加者への通訳もこなす姿には、参加者から感嘆の声が上がっていました。

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「もしもJKがものづくりを始めたら」というタイトルにもセンスを感じます。
© FabLearn Asia 2015 Committee

広尾学園の革新的な取り組み

2日目に登場した広尾学園のプレゼンテーションも印象的でした。8年前の経営危機をきっかけに、革新的な進学コースやICT教育、プログラミング講座を導入した同校。
とくに興味深いのが「世界でまだ誰も分かっていないこと」をテーマに、イノベーティブな研究を生徒たちに挑戦させる医進・サイエンスコースの教育方針です。

生徒たちは研究のため英語の論文を読み解いたり、MITがネット上に公開しているコンテンツを日本語に翻訳するなど、研究をきっかけに自発的な学びのサイクルが生まれているとのこと。

こうした先進的な取り組みがきっかけとなり、Google社の会長エリック・シュミット氏やカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の教授陣が広尾学園を訪問するなど、日本のみならず世界からも注目を集める存在へと飛躍をつづけています。

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© FabLearn Asia 2015 Committee

プレゼンには、在学中の高校生も登壇。
学内イベントで3Dプリンターの可能性を力説し、学校に導入してICTルームを設立するまでの経緯をまとめたプレゼンは、ところどころ笑えるポイントを用意するなど、大人顔負けの内容でした。

次世代型教育のカギは「LEARN」「MAKE」「SHARE」「MOVE」

今回のカンファレンスを通じ、日本におけるデジタルファブリケーションの第一人者である田中浩也氏は、次世代型教育のカギとなる4要素として「LEARN(学ぶ)」「MAKE(つくる)」「SHARE(わかちあう)」「MOVE(心が動く/社会を動かす)」を挙げ、これらをバランス良く身につける教育の大切さを強調していました。

そのため田中氏は、これまで教室で行っていた講義を自宅でオンライン受講できるようにし、教室ではものづくりを含むインタラクティブな体験型学習を行う「反転授業」にも力を入れています。
また、ネットで海外のファブラボなどと積極的につながる一方、大学の教室を開放し、年齢や世代を超えた交流も大切にしているそうです。

「“ものづくり(パーソナルファブリケーション)”は“ものがたり(パーソナルストーリー)”と同じ」と言う田中氏。つくることと学ぶことが一体化することで、一人ひとりの中に「自分は何を求めているのか?」という疑問が生まれ、その問いはやがて社会課題の解決など世の中をよい方向に変えていく——。田中氏の言葉に、そんな未来への明るい期待を感じました。

2日間にわたって延べ約400名が参加し、熱気とともに幕を閉じた「ファブラーンアジア2015」。
まだまだ一般的には馴染みのない「デジタルファブリケーション」という概念をいかに広め、より多くの人に興味を持ってもらうのか。そして「ものづくり教育の目指す未来」をどうわかりやすく示していけるのか。
このあたりに今後の課題が見え隠れしている気がします。
日本のデジタルファブリケーション・カルチャーがこれからどのように進展していくのか、今後も引き続き注視していきたいと思います!

それにしても、デジタルファブリケーションやプログラミングをすでに取り入れて実践している学校が国内にこんなにたくさんあるとはまったく知りませんでした。
同じ公立でも、学校の方針によって先端教育が受けられる子どもたちと受けられない子どもたちがいるという現状に、なんだか複雑な気持ちになりました。
小さな子どもを持つ母親としては、ブリクスタイン氏が言っていたように、すべての子どもたちがこのような教育を平等に受けられる環境をできるだけ早く整えてほしいと思いました。日本の教育改革に期待です!

2日間にわたるイベントのより詳しいレポートは、こちらのブログをご覧ください!
http://risashoji.net/special/2016/01/fab-learn-asia-2015-01.html

著者プロフィール

ライター/親子留学アドバイザー。インタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で活躍後、フィリピン・セブ島へ移住。2012〜2015年まで3年間、親子留学を経験。現在はライター業の傍ら、早期英語教育プログラムの開発・研究にも携わる。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。

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