博物館や美術館が入場無料のロンドン、STEM教育に特化したプログラムも用意

博物館や美術館が入場無料のロンドン、STEM教育に特化したプログラムも用意

イギリス政府は世界からの観光客を誘致するために、2001年からロンドンの博物館や美術館の入場を無料にしました。さらにこれらの施設で、子ども向けに無料のイベントやアクティビティを提供しています。今回は、小規模で専門的なため観光客にあまり知られていない、STEM教育に特化した特別プログラムが用意されている科学博物館などを紹介します。

日経DUAL記事

■英国王室の支援で運営されている王立研究所

電磁気学の実験もできる「ファラデー・ミュージアム」

「王立研究所(Royal Society)」はロンドンのピカデリーに位置し、歴史ある高級なリッツ・ホテルの近くにあります。1660年に設立されたイギリスの科学団体で、自然科学の分野で研究を行い、その成果を広く社会に伝えることを目的としています。英国王室からの支援を受け、王室の認可を得て運営されています。

ノーベル賞の受賞者など世界中の優れた科学者が会員として所属し、科学界でのリーダーとしての活動。科学に関する報告書や出版物の発行、セミナーや会議の開催、研究資金の提供などを通じて、公共利益を目指す科学界の発展に貢献しています。イギリスの化学者・物理学者のハンフリー・デイビーが、塩素やヨウ素、マグネシウムなどの元素を発見した場でもあります。

「ファラデー・ミュージアム(The Faraday Museum)」は、デイビーの弟子だった物理学者で電磁気学創始者のマイケル・ファラデーに捧げられています。ロウソクの燃焼時に起こるさまざまな物理・化学現象を多面的に解説した「ロウソクの科学」で著名な人物で、彼の実験や研究に関する展示があります。

ファラデーの研究室を再現した展示では、電気と磁気について学べます。また、電磁気学の基本的な原理を理解するための実験もできるなど、子どもから大人まで楽しめるようになっています。王立研究所内にある小さなミュージアムですが、科学の歴史と発展に関心がある人にとってはとても魅力的な場所といえるでしょう。

(写真はイメージ)

「クリスマスレクチャー」で子どもに科学の面白さを伝える

「クリスマスレクチャー(Christmas Lectures)」は王立研究所で行われるイベントで、子どもたちを対象にした科学教育のための講演会です。毎年イギリスの科学者たちがさまざまな科学テーマについて講演し、実験やデモンストレーションを交えて子どもたちに科学の面白さを伝えることを目的としています。

1825年にマイケル・ファラデーが初めて開催し、それ以来多くの有名な科学者が担当。物理学、化学、生物学、天文学、数学など、さまざまな分野のテーマが取り上げられています。

また、クリスマスレクチャーはテレビ中継やインターネットライブストリーミングを通じて世界中の子どもが見られるようになっており、科学教育の一環として広く認知されています。毎年テーマに合わせた教材やアクティビティが作成され、子どもたちが自宅で科学実験を楽しむことができるようになっています。

(写真はイメージ)

■英国王立外科医師学会内の「ハンタリアン・ミュージアム」

ロンドンの広場では最大の面積を誇るリンカーンズ・イン・フィールズにある1745年設立の「英国王立外科医師学会(The Royal College of Surgeons of England)」は医師のための専門団体で、外科医師への教育と訓練を手がける機関。外科医療の発展と品質の向上を目指した活動も行っています。

その建物内にある「ハンタリアン・ミュージアム(The Hunterian Museum)」は、病理学者ジョン・ハンターのコレクションを展示しています。ハンターは18世紀に活躍した医学者であり、解剖学や病理学の分野で多大な貢献をしました。

生涯にわたってさまざまな動物や人体を解剖し、独自の研究成果を蓄積しました。彼の収集したあっと驚くほどのホルマリン標本コレクションが、このミュージアムの見どころです。とくに、人体の解剖学的な標本は詳しく展示されており、医学生や医師、研究者にとっては貴重な学習資料となっています。手術の歴史に関する面白い資料や、手術道具などもたくさんあります。

改修工事のためにここ数年間は閉まっていましたが、2023年5月からまた一般公開が始まる予定です。定期的に子どもに向けた専門的なイベントも開催していて、小学生向けには自分の口内の細胞を顕微鏡で見るワークショップなどを提供。誰でも参加が可能ですが、人気があるため予約が難しいことで知られています。

まとめ

マイケル・ファラデーもジョン・ハンターもスコットランド出身です。多くのスコットランド人が実績を残した背景には、英国の上流階級のジェントルマンが彼らのスポンサーをしていたことがあります。

この2つの小さい博物館には、そういった歴史と彼らの実績が大切に保存されています。子どもへの教育活動も行いながら、大規模なミュージアムとは一味違うひっそりとした雰囲気のなかに歴史と英知が感じられる、とてもお勧めの場所といえます。

<参考URL>

https://www.rigb.org/visit/faraday-museum
https://hunterianmuseum.org/

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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