イタリア流「自然遊び」で子どもの自主性や感性を育む方法とは?

イタリアでは、子どもが自然のなかでのびのびと遊ぶ時間をとても大切にしています。都市部の公園や広場から地方の畑や森、ビーチまで、家族と過ごすアウトドア活動は生活に根付いた習慣です。
自然との触れ合い方や親のかかわり方、背景にあるイタリアの文化や教育理念、日本でも取り入れやすい自然体験のヒントなどを紹介します。
都市部にある整備された公共広場“ピアッツァ”
都市部には安全に遊べるように整備された公園や車両を制限した公共広場があり、自転車やボール遊びが人気。とくにピアッツァと呼ばれる広場は、子どもが放課後や週末に友だちと集まり交流する「地域の社交場」として機能します。
イタリアのほとんどの街に、必ず1つはピアッツァが整備され、小さな集落にも当たり前のように存在します。首都ローマには、2,000以上のピアッツァがあるといわれ、多くは自治体が整備・管理し、歩いてアクセスしやすい場所に配置されています。
ハイキングから農場体験まで家族で楽しむ自然遊び
一方、地方では畑や森、果樹園、ビーチなど自然そのものが舞台となり、木登りや虫取り、森探検など、広大な環境を生かした遊びが日常です。トスカーナやアルプス周辺では丘を駆け回り、海沿いでは砂遊びや水遊びを楽しむ子どもたちの姿が見られます。
イタリアの家庭では、週末や休暇に自然が楽しめる場所へ出かけるのが一般的です。春から初夏はハイキングやトレッキング、夏はビーチで泳ぐなど、季節ごとの楽しみがあります。
なかでも特徴的なのが農場体験(アグリツーリズモ)です。農業を営む家族が宿泊や食事を提供しながら、訪れる人に農業や自然と触れ合う機会を提供するもので、特に教育的プログラムを備えた施設が「教育農場」と呼ばれます。ここでは動物の世話や乳搾り、チーズやバター作り、果物の収穫やジャム作りなどを体験でき、五感を通して食や自然の循環を学べます。
多くの施設には芝生や遊具が整備され、子どもは自由に走り回り、親は地元食材を使った料理やワインを楽しめます。
宿泊施設を備えるところでは、星空の下で過ごす夜や、朝の搾りたて牛乳での朝食など、都市生活では味わえない時間を過ごせます。都市部の子どもにとってこうした体験は、自然との距離を縮める貴重な場です。
幼児と小学生で内容が変わるアウトドア体験
成長段階に合わせて子どもの遊び方も変わりますが、どの段階でも重視されるのが下記のような「外で自由に過ごす時間」です。
●幼児期(3〜6歳)
砂や水、木の枝、落ち葉など自然素材を使った遊びが中心。教育農場では動物とのふれあいや収穫体験が盛んで、五感の発達や命の大切さを学ぶきっかけになります。
●小学生(7〜12歳)
自転車での遠出、川や湖での釣り、軽いトレッキングなど冒険性のある活動が増えます。南チロルやトスカーナでは山道を歩き、村や自然保護区を巡る体験も一般的。体力や協調性、問題解決力を養う場となります。
幼児期の「感覚を育む遊び」から小学生期の「挑戦と自立」への移行が、豊かなアウトドア環境のなかで自然に進んでいきます。
自然を“学びの場”と考える教育法が浸透
イタリアの多くの親は、「自然のなかで遊ぶことは心身の健やかな成長に欠かせない」と考えています。その価値観の背景には、親自身が幼少期に自然で遊んだ体験があります。
たとえば、夏のサマーキャンプやスカウト活動、学校や地域の遠足や自然観察イベントなど、子ども時代に自然に親しむ機会が豊富だったのです。さらに、長期の休暇が多く、家庭や地域で自然と向き合う時間が確保されていることも大きな特徴です。
こうした文化のなかで広まったのが、イタリア発の教育法「レッジョ・エミリア・アプローチ」。
子どもを「主体的な学び手」として尊重し、自然や街、公共空間を“第三の教師”として活用するという考え方です。森での工作や畑での観察、土や水、光を使った自由な遊びを通じて、観察力や想像力、問題解決能力、協力する力を育みます。
自然の遊び場を“学びの場”に変える点が、この教育法の大きな特徴です。そのような背景から、都市部でも地方でも公園や広場が生活圏に整備され、日常的に自然に触れられる環境が整えられているのです。
真似してみたい!イタリア流“自然遊び”
イタリア流自然遊びの魅力は、特別な施設や広い自然がなくても、日常のなかで自然を楽しむ工夫があることです。たとえば以下のような習慣があります。
・パセッジャータ(散歩)
夕方、家族や友だちとおしゃべりしながら街を歩く時間。道端の花を見つけたり、風の匂いを感じたり、「今日はどんな発見があるかな?」と探検気分で楽しみます。
・スカンパニャータ(ピクニック)
休日はお弁当を持って近くの公園やちょっとした郊外へ。自然のなかで寝転んだり、葉っぱや木の実で遊んだり、ゆったりとした時間が心地よいリフレッシュになります。
・オルト(家庭菜園)
庭やベランダで野菜やハーブを育てる遊び。芽が出た瞬間のワクワクや、収穫した野菜を食べる喜びは、子どもにとっても大人にとっても特別な体験です。
夕方の散歩を小さな冒険にしてみたり、近所の公園で自然観察ピクニックをしたり、ベランダにミニ菜園を作ってみたり――そんな自然遊びを始めてみるのも面白いかもしれません。
まとめ
イタリアの自然遊びには、子どもの自主性や感性を育むヒントがたくさん隠れています。広場や森、畑を遊び場に変え、自然を暮らしのなかに取り入れる習慣は、特別な準備や広い自然がなくても楽しめるものばかりです。
イタリアの親たちが大切にしているのは、「自然を通じて家族の時間を分かち合うこと」。そんなシンプルな考え方をヒントに、日常のなかに自然とつながるひとときを加えてみるのも素敵ですね。
執筆者:フェレッティ

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