“子どもの自然遊び”がフランスで再注目!非認知能力の成長にもつながる施策とは?

近年、フランスでは子どもたちを自然の中で遊ばせる取り組みに注目が集まっています。その背景には、屋外活動の著しい減少という深刻な現状があります。では、実際にどのような形で自然とのかかわりを日常に取り入れているのでしょうか。保育・教育現場や家庭、さらに国家政策の動きにも着目しながら、フランスで進む「子どもと自然のふれあい」施策を紹介します。
大幅に減少した子どもの外遊び
日本と同様にフランスでも子どもがスマートフォンやタブレットに夢中になる傾向が強まり、家庭や学校においても室内で過ごす時間が長くなっています。実際、3〜10歳の約40%の子どもが平日に一切外遊びをしておらず、自然の中で過ごす時間は30年前のわずか10分の1にまで減少。
そのため「もっと五感を使って自然の中で学んで欲しい」と願う親が増えており、子どもと自然とのかかわりが改めて重視されているのです。
自然との触れ合いが子どもの心とからだに良い影響をもたらすことは、近年の研究でも明らかになってきました。
たとえば、自然の中で20分過ごすだけで、ストレスホルモン「コルチゾール」の分泌が大きく低下することが確認されています。森を歩いたり、公園を散策したりするだけで、心と体に抗炎症作用が生まれるのです。
さらに、自然とのふれあいは情緒面や身体面だけでなく、脳の発達にも良い影響があると専門家は語ります。記憶力や注意力の向上、情報処理能力の発達、さらには共感力や社会性といった非認知能力の成長にもつながるといわれています。
こうした知見を踏まえ、フランスは2021年に策定された「幼児保育に関する国家憲章」に自然と接触する重要性を明記。2025年には超党派の議員により、野外授業の推進を目的とした法案も提出されています。
(パリにある公園の脇道には意図的に密な植生が施され、生物多様性の宝庫に)
「スカウト活動」が再注目され参加者が急増
国の政策だけでなく、家庭においても、自然との関係を見直す動きの1つとして「スカウト活動」が改めて注目されています。6歳頃から参加できるこの活動では大人の指導のもと、少人数の子どもたちがチームを組み、自然の中でキャンプやハイキング、火起こしや料理、工作や野外ゲームなどを体験します。
スカウトは20世紀初頭から続く伝統ある青少年活動ですが、近年に再び注目され始めたのは2010年代以降のことです。特に2020年のロックダウンをきっかけに、「スクリーンのない環境で本物の冒険をして欲しい」と考える親が増え、参加希望者が急増しました。
この活動では、単にアウトドアスキルを学ぶだけではありません。年齢の異なる子どもたちが協力しながら活動することで、責任感や共感力、協調性、市民意識といった非認知能力が自然と育まれていくのです。
スカウト活動には、カトリック系の「スカウト・エ・ギッド・ド・フランス」をはじめ、プロテスタント、ユダヤ教、イスラム教、さらに無宗教の団体まで、さまざまな背景を持つ組織が参加。宗教や文化に関係なく、誰でも参加しやすいことが大きな魅力です。
さらに、参加費も比較的手ごろで、年会費は家庭の収入に応じて24〜140ユーロ(約4,130〜24,080円)となります。週末の短期活動や季節ごとのキャンプは数ユーロから参加可能で、1週間のサマーキャンプでも100ユーロ(約17,200円)前後と、家庭の事情に応じた柔軟な仕組みが整っています。
スカウト活動以外にも、自然キャンプやスポーツ体験などの催しが数多く開催されます。フランスの学校は6〜7週間ごとに約2週間の休暇があり、その間に子どもだけで参加できる「コロニー・ド・バカンス」と呼ばれる集団キャンプは大人気。例えば2023〜2024年に宿泊を伴う子ども向けキャンプなどに参加した子ども・青少年は約134万人にのぼり、コロナ直前となる2019〜2020年の約67万人からほぼ倍増しました。
※1ユーロ=171.99円で換算(2025年8月2日時点)
(ボーイスカウトのハイキング風景)
学校も自然とつながる場所へと変化
学校も、自然とつながる空間へと変化を遂げています。たとえばパリ市が取り組む「オアシス校庭」プロジェクトでは、従来のアスファルト中心だった校庭を緑豊かで水のある空間へと改造。2017年の開始以来、すでに165校以上が自然に囲まれた快適な環境へと生まれ変わりました。
この取り組みは単なる教育改革にとどまらず、都市における気候変動への適応策としても注目されています。そしてフランス国立科学研究センターの研究者は、「たとえ雨の日でも、毎日10分間、子どもと一緒に生命のある空間で過ごすこと」の意義を訴えています。並木道や広場、荒れ地、公園など、身近な自然の中で過ごす時間が、心の安定や社会性の基盤につながると考えられているのです。
まとめ
日本ではフランスほどスカウト活動が広く浸透しているとは言えませんが、1997年に環境省が設立した「自然大好きクラブ」や、地域で行われているエコツーリズム活動など、子どもが自然を体験できる機会や場所は各地にあります。
自然の中で過ごす時間は、子どもの心とからだとのバランス感覚を育む大切なひとときです。忙しい毎日の中でも、まずは「毎日10分だけ自然に触れる時間」を意識して取り入れてみてはいかがでしょうか。ベランダから空を眺める、近くの公園を一緒に歩くなど、それだけでも小さな一歩ではないかと思います。
<参照URL>
屋外授業の効果的な実施について
https://www.banquedesterritoires.fr/une-proposition-de-loi-pour-la-classe-dehors-pour-garantir-aux-eleves-un-acces-regulier-la-nature
若者の精神的および心理社会的幸福のための自然について
https://www.sportsdenature.gouv.fr/sante-sport-et-nature?utm_source=chatgpt.com
スカウト活動について
https://www.lemonde.fr/societe/article/2018/08/14/le-scoutisme-veut-rester-a-la-mode-au-nom-de-ses-valeurs_5342206_3224.html
https://www.parents.fr/enfant/culture-et-loisirs/sorties/scoutisme-a-partir-de-quel-age-quels-sont-ses-atouts-1023087#:~:text=Les%20Scouts%20et%20Guides%20de,domicile%20sur%20la%20carte%20interactive
パリの学校や大学の校庭がオアシスへ
https://www.paris.fr/pages/les-cours-oasis-7389
https://savoirs.unistra.fr/societe/les-bienfaits-du-contact-avec-la-nature-pour-les-enfants-ne-sont-plus-a-demontrer?utm_source=chatgpt.com
環境省「自然大好きクラブ」
https://www.env.go.jp/nature/nats/index.html
https://www.env.go.jp/nature/nats/wht/index.html

【公認心理師監修】外遊びの効果とは?子どもに必要な理由と習慣化のコツ
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。