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バイリンガル教育の権威に聞く! 【前編】日本人がバイリンガルになるために必要なこととは?

バイリンガル教育の権威に聞く! 【前編】日本人がバイリンガルになるために必要なこととは?

グローバル化が進む昨今、近い将来には「英語が話せて当たり前」の時代が来ると言われています。
一方、大学と義務教育を合わせれば10年以上も英語学習に費やすにもかかわらず、私たち日本人はなかなか英語を話せるようになりません。なぜ多くの日本人はバイリンガルになれないのでしょうか?

今回は『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』(アルク)の著者で、トロント大学名誉教授を務める言語教育専門家・中島和子先生に「日本人がバイリンガルになるためには?」というテーマで、幅広くお話をうかがいました。

中島和子(トロント大学名誉教授)
国際基督教大学・大学院、トロント大学大学院卒業。トロント大学教授を経て名古屋外国語大学教授。現職はトロント大学名誉教授。専門はバイリンガル教育、継承語教育、日本語教育学。
『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』(アルク)、『マルチリンガル教育への招待―言語資源としての外国人・日本人年少者』(ひつじ書房)、『言葉と教育』(海外子女教育振興財団)など著書多数。
日経DUAL記事

日本人は、10年以上も英語教育を受けているのに、なぜ英語が話せないのか

そもそも言葉というものは、幼い頃から自然な形でその言語に触れながら、長い時間をかけて習得していくものです。今、私たちが自由に日本語を話すことができるのも、日本語に囲まれて育ち、さまざまなことを日本語で学習してきたからですよね? 英語が話せるようになるプロセスも、基本的には同じです。

そう考えると、日本人が英語を話せない最大の理由は「自然な形で英語に親しむ環境が日本にない」ということだといえます。だからこそ、本来は国が言語政策としてしっかり英語教育に取り組み、人為的にでも「英語に親しむ環境」を作る必要があるのですが……。残念ながら日本の英語教育にはその視点が決定的に欠けているように思えます。

問題だらけの日本の英語教育の現状

具体的な英語教育の問題点を見ていきましょう。

まず、授業の内容が「文法」や「語彙」に偏りすぎています。本来、言葉はコミュニケーションの手段ですから、子どもは教師や他の生徒とのインタラクティブなやりとりから英語を学んでいくのが学習環境として自然です。
一方、受け身で暗記中心の英語教育はどう考えても不自然ですよね。このようなやり方では、実際に英語を使うための会話力、文意を汲みながら英文を読み書きするリテラシーは身につきません。

また、長期的な視点が見えない点も問題です。言葉の発達にはおおむね10~15年という時間がかかります。日本人はふだんの生活で英語に触れる機会がないわけですから、学齢期に入ったらすぐにバイリンガルで学べる環境を用意し、日本語と英語の接触量をコントロールしながら2つの言語を同時に高めていく視点が必要です。

ところが、日本では小学5年生でやっと「外国語活動」が始まり、教科として英語を学ぶのは中学1年生(12歳)からです。これは外国語教育を始めるタイミングとしては遅すぎるでしょう。幼少期から始めても10年以上の時間が必要なのに、中学生から週に数回、英語の授業を受けるだけで英語が話せるようになるわけがないのです。

2歳から14、15歳までに正しい環境が整えば日本でもバイリンガルに育つ!

早期英語教育には賛否両論がありますが、私自身は基本的に賛成です。言葉を使いながら自然に習得できる2歳から14、15歳までの言語形成期に、多言語に触れる環境が整えば、子どもがバイリンガル、マルチリンガルに育つ可能性が高まるのは事実ですから。人間の脳は思ったよりも柔軟で、本来5つぐらいの言語を使い分けられるようにできているんですよ。

一方、日本でも2018年度に小学3年生からの英語必修化、5年生からの教科化を目指すなど英語教育の早期化がはじまりつつあり、その姿勢自体は評価できます。ただし、今と同じやり方でスタート年齢だけ早めるのでは意味がありません。早期英語教育では、自然な言語環境と動機付けがとても大事だからです。

幼い子どもは必要性を感じなければ言葉を覚えようとも使おうともしません!

ここで注意しておきたいのが、幼い子どもたちは大人とちがって、必要性を感じなければ言葉を覚えようとも使おうともしないということ。そんな子どもたちに、意味なく単語を覚えさせるようなつまらない授業をしたら、どうなるかはわかりますよね(笑)。

早期英語教育には「英語を話すことが楽しい」「英語が話せるようになりたい」といった動機付けと、「英語ができないと具体的な支障が出て困る」というさしせまったニーズが必要です。だからこそ「教科として英語を学ぶ」のではなく「英語で教科を学ぶ」体制を整え、子どもが自然に英語を使う機会を増やすべきなんです。

正しいバイリンガル教育を「教育のプロが行う」ことが重要!

とはいえ、子どもたちが「英語で教科を学ぶ」には、まず英語で教えられる先生の育成が必要です。最も大事なポイントは、正しいバイリンガル教育を「教育のプロが行う」ということ。
英語が流ちょうなだけではなく、高い専門性や教授力をあわせ持つ教師、さらには数学やサイエンスを英語で教えられる教師が正しく授業をすすめていくのが理想的なのです。

ところが、今の日本ではそういった人材の育成がほとんどできていないのが実情でしょう。質の高い英語教師の確保と育成は、日本が早急に取り組むべき課題だと思います。

 

いかがでしたか? 中島先生のお話をうかがい、そもそも言葉の習得には時間がかかること、そして英語環境のない日本で子どもをバイリンガルにすることはとても大変なことなのだと改めて認識できました…。

次回のインタビュー後編では、そんな日本でのバイリンガル子育てに役立つヒントをご紹介します。ご期待ください!

▼後編はこちら
バイリンガル教育の権威に聞く! 【後編】バイリンガル先進国カナダに見る最新英語教育法とは?

著者プロフィール

ライター/親子留学アドバイザー。インタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で活躍後、フィリピン・セブ島へ移住。2012〜2015年まで3年間、親子留学を経験。現在はライター業の傍ら、早期英語教育プログラムの開発・研究にも携わる。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。

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