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「サイエンススクール」で話題の、大田区立清水窪小学校とは?

「サイエンススクール」で話題の、大田区立清水窪小学校とは?

子どもたちの「理科離れ」が問題化している日本。世界的に理数系教育を強化する傾向が強まる中、2020年に小学校でのプログラミング教育の必修化が検討されるなど、ようやく日本でも本腰を入れた対策がはじまろうとしています。

一方、公立小学校の中には、いち早く理数教育の重要性に注目し、独自の取り組みを続けている学校もあります。

そこで今回は、東京工業大学との連携による充実した科学教育で知られる大田区立清水窪小学校に注目。校長先生と副校長先生にお話を伺ってきました!

日経DUAL記事

小1から科学教育が始まる「おおたサイエンススクール」とは?

閑静な住宅街が広がる東京大田区北千束。大岡山駅から徒歩5分、小高い丘の上に建つ大田区立清水窪小学校には、「おおたサイエンススクール」と書かれた大きな看板が掲げられています。

大田区教育委員会の理科教育研究推進校の指定を受けた清水窪小学校では、平成23年より「おおたサイエンススクール」という取り組みをスタートしました。学区内に立地する理系の名門・東京工業大学と連携しながら、「科学大好きな子どもを育てる」をテーマに実践的な科学教育を行っています

平成25年には、文部科学省の「教育課程特例校」(※)としても指定。これまでの取り組みを発展させる形で「サイエンスコミュニケーション科」(SC科)を新設しています。

※ 教育課程特例校とは、学習指導要領によらない独自のカリキュラム編成・実施を許された学校のこと。特例校の指定を受けるには文科省による審査を受ける必要がある。

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「おおたサイエンススクールは、地域人材との連携、そして科学を通じた子どもたちの人間力の育成を目指してスタートしました。現在、全学年で年間35時間をSC科の授業に充てています。だいたい週1回のペースですね。

通常、理科の授業は3年生からですが、本校のSC科は1年生から始めて、実験や調べ学習、ポスター発表などに取り組んでいます」

そう話すのは、校長の加藤康弘先生。なんと清水窪小学校では、1年生からサイエンスコミュニケーション科の授業を受け、調べ学習をしているのです!

しかし、まだ小学生になったばかりの子どもたちが、本当に「調べ学習」をできるものなのでしょうか……?

「子どもたちはみな、『知りたい』と思う気持ちを持っています。高度な調べ学習はできなくても、『なぜ?』『どうして?』という問題意識を持ち、自分なりの仮説を立て、実際に調べながら問題を解決していくことが重要です。そうやって目的意識を持って授業に取り組む子どもたちの理解力には、教員たちが驚かされることもしばしばです」(加藤校長)

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そこで、子どもたちが作った調べ学習発表のポスターを1年生の教室で見せてもらうことに。

1年生の学習テーマは『ぞうさんはかせになろう』。教室の壁には等身大のゾウの絵や、ゾウに関する調査結果があちこちに掲示されていました。10月には、実際に上野動物園まで見学に行き、ゾウの生態について学んできたそうです。

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「SC科のカリキュラムは、パートナーである東工大の協力を得ながら、本校の教員たちが作成しています。3年生からは、東工大の研究室訪問を毎年実施。ロボット研究や宇宙開発など最先端の科学に触れる機会を提供しています

また、土曜日や夏休みには、東工大の有志のみなさんにワークショップを開催していただくなど、さまざまな形で子どもたちの科学教育をサポートしてもらっています」

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そう語るのは、SC科の運用を中心となって担う副校長の西田香先生です。西田先生が見せてくれた年間指導計画表には、実験やSC科見学、模型作りからプログラミング学習まで、充実のプログラムがズラリ。子どもたちが楽しみながら授業に取り組めるよう、発達段階に合わせて内容にもさまざまな工夫が見られます。

SC科については、いわゆるテストや三段階評価はしていません。なぜなら、サイエンスコミュニケーションとは教科ではなく経験だからです。SC科では、スコアよりも自主的な姿勢や学びの質を重視しています」(西田副校長)

SC科の授業は、子どもたちにも大好評。みんな科学が大好きで、授業にも非常に意欲的です。実際、問題解決のプロセスや科学的思考を早いうちから身につける清水窪小学校の子どもたちは、他校の小学生たちに比べ、さまざまな教科で力を発揮する姿が増えているそうです。

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例えば、小学校6年生に実施される全国学力・学習状況調査。清水窪小学校で科学教育を受けた子どもたちの理科の正答率は、平成27年度の全国平均を13.1ポイントも上回ったのです。また、同意識調査でも、「理科の勉強は大切だ」と答えた生徒が9割を超えるなど、着実に理科や科学の重要性に対する認識は高まっています。

そんな清水窪小学校には今、幼い子を持つ親たちからも注目が集まっています。清水窪小では、学区外からの児童を受け入れていますが、なんと1〜3年生では児童のおよそ半数が学区外からの児童となっているそうです。

「本校は、学区が小さいためもともと児童数が少なく、1学年1クラスの単級編成が続いていました。ところが、おおたサイエンススクールが始まって以降、学区外からの入学希望が増え、児童数は右肩上がり。今では教室が足りなくて困っているぐらいです」(西田副校長)

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清水窪小学校の新1年生の児童受け入れ定員は、現在65名。なお今後、学区域内の児童数を除いた受け入れ可能な人数の範囲に、学区外からの入学希望者が増えて定員を超えた場合は、抽選による受け入れとなるとのこと

清水窪小(おおたサイエンススクール)の入学手続きなどの情報は、大田区教育委員会の「ホームページ」「区報」に掲載されるそうなので、大田区にお住まいで指定校変更等を検討されている方は、こまめにチェックしましょう! また詳しくは、教育委員会の学務課に問い合わせるとよいでしょう。

「SC科のカリキュラムは、全体の設計の見直しなど、毎年少しずつアップデートしています。なぜなら、授業を担当する現場の教員たちが、自ら『ここをこう改善したい』と提案してくるからです。

正直、彼らも大変だと思いますが、本当に意欲的に、熱心に取り組んでくれています。教員自らが高い技術力を身につけ、より良い授業ができるよう、今後もカリキュラムを進化させていく予定です」(加藤校長)

 

いかがでしたか? 公立小学校で、このように本格的な科学教育を実施している学校は、数えるほどしかありません。リソースが限られる中、教員と地域が一丸となって子どもたちの科学教育に取り組む様子に、新しい学びの形の可能性を感じました。

自ら考える力を育む清水窪小学校のような公立校が、もっともっと増えていくことを切に願います!

著者プロフィール

ライター/親子留学アドバイザー。インタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で活躍後、フィリピン・セブ島へ移住。2012〜2015年まで3年間、親子留学を経験。現在はライター業の傍ら、早期英語教育プログラムの開発・研究にも携わる。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。

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