怒らない親に育てられた子はどうなる?

怒らない親に育てられた子はどうなる?

子育てにおいて、“怒ること”の難しさは多くの方が感じています。強い力のイメージがあるためか、中には「怒らない子育て」をモットーにしている方もいるようです。そこで今回は、そのような子育てが子どもに与える影響を一緒に見ていきたいと思います。

日経DUAL記事

怒る方がいいのか、怒らない方がいいのか

「怒らない親に育てられた子」というキーワードが頻繁にウェブで検索されているそうです。現在子育てをしているパパやママが、「怒らなければ子どもはどう育つのか」「怒ってばかりだとどうなるのか」などと、「怒る、怒らない」で日々悩んでいる様子が伺えます。

そもそもこれは、「怒る方がいいのか」「怒らない方がいいのか」と0か100か的に考えることができないテーマだと思います。子育てをしていれば、怒ることが必要な場面はありますし、でもなんでも怒ればいいかというとそうではありません。むしろ、どのように怒るかというのが一番のポイントであり、それさえ間違わなければ、王道は外さないと考えています。

「怒らない親」が問題になるとすれば、単純に言葉通りに「ただ怒らなければいいのだ」と解釈してしまっているケースです。「(必要なときは適切に怒るけれど、感情的には)怒らない親」のカッコ部分が抜けてしまい、あらゆることを「いいよ、いいよ」と大目に見てしまうタイプです。この場合、のちのち問題になることが多いというのは、私の相談室の事例を通して感じています。

怒らないことを選択する心理

「怒らない親」と言っても、適切な導きのおかげで結果的に怒ることが少ないのと、言葉通りにただただ怒らないで育てるのでは中身が大きく異なるので、ここでは子どもに影響が出ることの多い後者について見ていきたいと思います。

言葉通りの「怒らない子育て」を実践している場合の親側の共通する心理としては、次のようなものが挙げられます。

・ 子どものやりたい気持ちを大事にしたい
・ 子どもには子どもの意志がある
・ 怒ることで子どもの自己肯定感を傷つけたくない
・ 子どもは自分で学ぶ力を持っているから大丈夫

どれもわが子を大切に思う気持ちがあるからこその心理ですし、子育てについても熱心な様子が伺えます。
多くの場合、「怒る=子どもの心を傷つける」と感じており、そこで怒ることへの抵抗感が出てしまうようです。
このように考えてしまう背景には、自分が育てられた境遇が関係していることもよくあります。

一昔前までは、子どもを頭ごなしに怒ることも多く、中には親に叩かれたり、押し入れに入れられたりする経験をした方もいるでしょう(今は家庭内の体罰は法で禁じられています)。それにより、自分と親との関係性に悩んだり、自己肯定感自体が傷ついたり……。そんな自分自身の幼少期のつらい経験が、子どもを怒ることの抵抗感につながっているケースは、私の相談室でもよく見らます。

怒らないことで子どもにどんな影響がある?

しかし、社会で生きていくためには、「何をどこまでやっていいのか」というルールを学んでいくことは必要です。自分が子ども時代にいやな怒られ方をしたから、「じゃあ怒らない方がいいよね」と結論づけてしまうと、大事なことも取りこぼしてしまうので、ここは自己流で解釈しない方が賢明です。

とくに子どもへの影響は大きいと考えていて、もし親が、「子どものやりたい気持ちを大事にしたい」を優先させ、本来怒るべき場面をも大目に受け入れてしまうような場合、

☑︎ がまんができない
☑︎ 言うことを聞かない
☑︎ 気持ちの切り替えが苦手
☑︎ 否定に弱い
☑︎ やってあげるより、やってもらう気持ちが強い
☑︎ 人間関係でのトラブルが多い

などの影響が出てくることが多いと考えられます。はじめの3つは、自制に関するものですが、これは4歳くらいで顕著になることが多い印象です。このくらいになってくると、周りの子が落ち着いてきつつあるので、「どうしてうちの子だけ……」と制御がきかない我が子に悩んでしまうのです。

そして後ろの3つについては、もう少し大きくなってから目立ってくることが多いかと思います。「少し注意しただけでへそを曲げる」「やってもらうのが当たり前で威張っている」など、親が子どもに振り回されたり、ものすごく気を遣っていたりという様子を見聞きします。

心理学的に望ましい「怒る」とは「知らないことを教えていく」こと

言葉通りの怒らない子育てをしているご家庭は、4~5歳くらいで怒ってばかりの子育てに変容してしまうことが多いので、お子さんのためにも、自分のためにも、方針を変えていくことをおすすめします。

ポイントは、怒るか怒らないかではなく、どのように怒るかです。

昔の子育てでは、子どもに対し、怒鳴ったり、時には叩いたり、外に出したりと、罰を加えることで言うことを聞かせようとするしつけが多かったものです。心理学で言うところの、“正の弱化”と呼ばれるメカニズムですが、要は、苦痛刺激を与えることで望ましくない行動を減らそうという試みです。

しかし、これは望ましくないだけでなく、効果もありません。罰を与えると、その時は言うことを聞くかもしれませんが、それはその罰がいやだからです。「○○した方がいい」と望ましい行動を学んでいるわけではないので、また別のときに繰り返すことになります。

怒るのをよくないことと考えている方の多くは、怒る=上記のようなことをイメージしているため、抵抗感があるのだと思いますが、心理学的に望ましい怒り方はこのようなものではありません。

「子どもがまだ知らないことを教えていく」という感覚が近いです。

「怒る」という言葉は、そもそも“感情的な行為”として取り扱われることがほとんどで、「怒る」と「叱る」を区別することもよくあります。「怒る=親が子どもへの不満を感情的にぶつけること」というのは、叱ることと区別する際によく用いられる定義です。しかし、言ってしまえば、“怒る”とか、“叱る”とかの言葉の選び方はさほど重要なことではないと思います。いずれにしても、子どもに質のいい教えができているかどうかがポイントになるからです。

成長過程にある子どもたちはまだまだたくさん知らないことがあります。それを教えてあげることが親の役目です。今回述べてきた「怒らないことをモットーにしている子育て」では、教えるべきことを取りこぼすことが多いので、その点は留意が必要です。

親の感情をぶつけない形で、社会的にいいこと、ダメなことを教えられているのであれば、これも周りから見れば、怒らない子育てに映ると思います。この場合は、適切な導きですので、自己肯定感も高く、社会に順応できる力の備わった子に成長するでしょう。「怒らない親に育てられた子」と言っても、その中身によって子どもへの影響はさまざまですので、実践する場合には、

・ 必要なときは適切に怒るけれど、
・ 感情的には怒らない

を意識し、「結果的に怒らない日が増えた!」を目指すのが望ましいと思います。

幼児教室で実践している「上手な叱り方」とは?

最後に、幼児教室で多くのお子さんを指導されている伸芽会の麻生先生に、幼児教室で実践している叱り方についてお話を伺いました。

__怒らない・叱らない子育てをすると、どのような子になりますか?
お教室に通われている保護者様には以下のような「上手な叱り方」のお話をするので、叱らない子育てをされる方は少ないと思いますが、一部「子どもに嫌われたくない」という理由から叱るのをためらうご家庭や「わが子を他人に叱ってほしくない」という方もいらっしゃいます。そういうご家庭は、親御さんが「泣かないように、機嫌が悪くならないように」育てていますから、
「人のせいにする」
「言い訳をする」
「何か取られたらやりかえす」
「親の前だけいい子になる」
というケースがあります。また、親御さんも小学校に入って何かトラブルがあった際に「うちの子が加害者になるはずがない」と客観視できないモンスターペアレントにもなりかねません。

__お教室では、親御さんたちに怒る(叱る)についてどのようなアドバイスをされているのでしょうか?
やはり、叱るor叱らなないではなくて「叱り方」が大事だとお伝えしています。
まずは、各ご家庭の目安となる「譲れない柱」を持つことです。
叱る目安としては
・危険なことをしたとき
・人に迷惑をかけたとき
・不快なことをしてしまったとき
・不衛生なことをしたとき(とくに2~3歳はしつけとして!)
があると思います。これにご家庭によって具体的な基準を設けるのがおすすめです。
また、「家だと叱られるけど外だと叱られない」など基準がぶれると子どもは混乱してしまいますから、その場合はきちんと理由を伝えてあげることも大切です。

さらに、叱るタイミングも重要です。「さっきの〇〇はよくなかったよ」ではなくて、その場で叱るようにしましょう。なによりお伝えしたいのは、子どもたちは褒められた経験があるからこそ叱られたときに響くのです。いつも叱られていてはBGMになるだけ。そこもぜひ注意したいですね。

__わが子を上手に叱るポイントはありますか?
まずは、その子の人格を否定するのではなく、行為を否定するよう心がけましょう。
さらに
・病院の待合室で「さわがない」→「静かに待つところよ」
・「廊下はしらない」→「歩きましょう」
など、肯定的に叱ると親も叱る際のパワーが少なく子どもにもどうすべきか伝わりやすいはずです。

いかがでしたか? 叱られずに自由奔放に育って我慢できずトラブルが多い子と、家庭のぶれない軸で褒め&叱られる経験をして分別のある子、わが子をどちらにしたいですか?

SHINGA FARM編集部

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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