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パパの謎な発言や行動を心理学的で紐解く!『パパのトリセツ2.0』著者 おおたとしまささんにインタビュー

パパの謎な発言や行動を心理学的で紐解く!『パパのトリセツ2.0』著者 おおたとしまささんにインタビュー

「子どもと一緒に過ごせる週末は人生の1%である」と気づいて脱サラし、現在は育児・教育ジャーナリストとして活躍されている、おおたとしまささん。今回は、新刊『パパのトリセツ2.0』(ディスカヴァー21)の発売を記念してお話を伺いました。心理カウンセラーとしての経験もあるおおたさんならではの、この10年間で変化したパパのお悩みや、パパの「手伝おうか」が出てしまう心理、さらになぜ夫婦喧嘩が起きてしまうのかといった考察は必見です!

日経DUAL記事

子どもと一緒に過ごせる週末は人生の1%である

__おおたさん自身、「こどもがパパ~と抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する!」と㈱リクルートを脱サラされたそうですが、そのときの心情の変化を詳しく教えてください。

会社員時代は、子どもが生まれてからも、夕食時に家に帰ることは月に1回あるかないかくらいでした。徹夜続きで疲れ果て、土曜はほとんど寝ていて、夕方に起きたと思ったらムスッとしているなんてことも多々……。「たまにしかいないのに、なんでムスっとしてるの!」と妻に怒られても、はじめのうちは「なんで疲れているときにそんなことを言うのだろう⁉」と思ったんですけど、たしかにそうだよなと気づきまして。外では“人当たりのいい人”でやっているのに、家の中では“ムスっとした人”になっているのは逆だなと思うようになったんです(笑)。当時「これは優先順位を変えなきゃ!」と思ったのをよく覚えています。

独身のときは、残業をして、成果が上がって、評価も上がってとなれば、遅くまで仕事することが苦ではありませんでした。でも、子どもがいて、妻は仕事を辞めて家で待ってくれているとなった場合、僕が1時間帰るのが遅くなったら、妻や子どもが僕と過ごす時間も1時間ずつ減ってしまうんですよね。「自分だけの時間ではないんだ」と思いまして。今までは自分さえ満足していればよかったのですが、そうではなくなった。時間の損益分岐点が変わったんです。

ただ、だからと言って会社の中で働き方を変え、自分だけ定時に帰るなどは想像ができなくて。でもこんなことをしていたら、子どもが成長していくのをまったく見られないぞと危機感を覚え、週末は意地でも休んで、日曜日には子どもとべったりしました。そんなとき、ふとこんな時間はあとどのくらいあるのだろうと計算してみると、“人生の1%しかない!”ということに気づいたんです。人生の一番大切な時間を仕事で犠牲にするのは愚かだと感じ、会社を辞めることを決意しました。

この10年で変化したパパたちの悩みとは?

__おおたさんは、これまでパパ向けの心理カウンセラーを10年されてきたそうですが、パパたちの悩みに変化はありましたか?

ちょうどイクメンという言葉が流行語大賞をとったくらいから、パパ向けのカウンセリングルームを始めました。始めた当初は「妻からの八つ当たりに耐えられない」、炭酸飲料を飲ませてよいか、スマホを見せてもよいのかなど「妻との子育ての意見が食い違う」、自分では育児をすごくやっているつもりなのに「やってもやっても妻に認められない」という3つの悩みにほぼ集約されていました。

それから5~6年が経つと、イクメンという言葉に段々と手垢がつき始めた雰囲気になりまして。そんな時期から増え始めたのが、「本当はもっと子育てがしたいけど、やらせてもらない」という悩みです。“男性にも育児をどんどんやらせましょう”という社会の潮流がありつつも、専業主婦として子育てをしている人にとっては、“そこを奪われたら私の存在価値がなくなるかも”と無意識のバリアが働き、「もういいから」というようなパパへの声が増えたのがその頃からだと思います。パパたちが育児に進出したからこその悩みに変わってきたと言えるでしょう。

第三者的なメタ視点で家族をとらえてみよう

__『パパのトリセツ2.0』を執筆されることになった経緯を教えてください。

『パパのトリセツ』が発売されたのが2012年。その時点ではまだイクメンという言葉は輝きを失っておらず、ポジティブな意味でたくさん使われていました。しかし月日が流れ、手垢がついた言葉になってしまった感があるので、今回はイクメンという言葉はすべて削りました。前作では、“ママの方が一枚上手になってあげて、手の平でパパを操縦してあげてください”という建てつけでおもしろおかしく書いたつもりでした。ただ2021年の今読むと、ジェンダーロールの問題や、“子どもだけじゃなくてパパも育てなきゃいけないの?”とママにプレッシャーをかける文脈にも読めてしまうんですよね。時代にそぐわない部分も出てきてしまい気になっていたので、そのあたりが「パパのトリセツ2.0」でアップデートできてよかったなと思っています。

__著書には、パパスイッチを上手にオンにするためのHOW TOがたくさん書かれてありましたが、ママはパパを操る策士であれということでしょうか?

策士であるべきかと問われれば答えはNOですね。パパを思い通りに動かすHOW TOというよりは、どうやったら相手が動いてくれるかを考えましょうということ。相手の立場になって、相手の気持ちを想像して、どういう声かけをしてもらったら前向きになれるかなど、丁寧なコミュニケーションを夫婦の中でも心掛けてもらえればと思っています。自分に対してのパパを“第三者的な立場から”、また“自分も含めてメタな視点から”、人間関係を構造的に考えてみましょうということを、「交流分析」や「アサーション」といった心理学の論理や裏付けにのっとって書いています。

__パパから、言われてムカつく言葉1位の「手伝おうか」が出てしまう心理について教えてください!

これは、たとえばすでにママがお皿洗いをやっている状況で、洗い終わった食器の片付けをパパが「手伝うよ」と言うのは日本語的には仕方がない部分があると思うんです。ただ、家事はママとパパのどちらか一方がやるものではないので、家事全般に対して「手伝う」という使い方はおかしい。同じ言葉なのですが、違う次元で使われるとボタンのかけ違いが生じます。前提の違いを無視して言葉尻をとらえるのはあまり建設的ではないかなという感じがする一方で、パパたちに向けては「そういうところに無意識があらわれるともいえるので、使うのはやめようね」と、言葉選びの話として幾度となくメッセージしています。

上手な夫婦ゲンカは子どもに見せていい!

__著書にあった「上手な夫婦ゲンカの3か条」(「勝とうとしない」「仲直りまでがケンカ」「無理にまとめようとしない」)がとても印象的でした。夫婦ゲンカはしない方がいいとガマンしているママたちは多いと思うのですが……。

夫婦ゲンカの原因は、夫婦の数だけあると思いますが、想像力の欠如や自分の中にできてしまっている思い込みなどが起因していることが多いと思います。思い込みは、心理学では「非理性的信念」といいまして、“こうあるべき”“こうに違いない”と思い込んでしまっていることは誰しも持っていて、それがぶつかってしまうと夫婦ゲンカになるんです。また、「相互理解」とは何かということを理解していない人が世の中に多いということも関係していると思います。相互理解というのは、ただ単に“相手はこういう考え方をしている”ということを理解していればいいんです。それに同意したり、迎合したりする必要はありません。「この人はこういう理屈でこう言っているのね。私はそう思わないけど」でいいんです。無理に相手に合わせようとしたり、相手を変えようと思ったり、どこかで折り合いをつけようと思うからストレスに感じてしまうのです。

__ガマンはしない方がいいのですか?

ケンカをガマンしている夫婦は、ケンカ=悪いことと小さいころから刷り込まれてきたのではないでしょうか。これもひとつの非理性的信念ですよね。ケンカは、相手に自分を理解してほしいという思いの表れだから、相手に関心がなければケンカにはならないんです。親や本当の親友でないとケンカって実はできません。ケンカができる相手は人生において数人しかいないはずで、これってすごい財産なんです。ぜひポジティブな意味でとらえてほしいです。意思表示は決して悪いことではないのです。

__「夫婦ゲンカを子どもに見せた方がいい」というのも意外でした。ケンカの仕方を知らない子も多いと聞きますし、大切なことなのでしょうか?

意見が食い違ったらそこでおしまい。そういう子が増えているようですね。そうならないためにも、人間同士の葛藤というのは親が教材になってあげるべきだと思います。意見は違っていいし、ぶつかっても仲直りはできる。ケンカをしても人間関係は修復できるというのを幼いころから肌感覚で知っていることは非常に大切だと思います。ケンカは子育てにおいても実は大切なものなんです。

魔法の言葉「ありがとう」で家族は変わる!?

__配偶者から言われたい言葉は「ありがとう」が大差をつけての1位。それが分かっていても「ありがとう」が言えなくなってしまった夫婦はどうすればいいでしょうか?

ありがたいことを当たり前と思ってしまっている場合が多いかもしれません。「ありがとう」を言えるようになるのはすごく簡単で、気持ちを込めなければいいんです。ただ棒読みで「ありがとう」の5文字を言うんです。

__気持ちを込めなくていいのですか?

はい。心理学に「行動療法」という考え方があるのですが、要するに、行動を変えることによって、あとから気持ちがついてくるってことなんです。なので、本当は言いたくなくても、悪いと思っていなくても、言うべきタイミングで言葉にすることが大切です。1%だけ悪いかなと思ったら、1%分でかまいません。言われたほうも、「何、その言い方は!?」と思うかもしれませんが、そこは追及するのはやめましょう。ときには謝っているんだからいいかというゆるさも必要かもしれません。

夫婦円満のコツはビジネスの理論を生活に持ち込まないこと

__子育てや家事、仕事に頑張るSHINGA FARM読者のママ&パパたちへメッセージをお願いします。

ビジネスマンとして活躍されているママやパパも多いと思いますが、ビジネスの理論と生活の理論って全然違うんです。1日の大半をビジネスの理論で過ごしていると、生活までビジネスの理論で片付けようとしちゃうんですよ。“原因は何?”“どうやって、いつまでに解決する?”といった感じです。でも人生って、そんなものじゃないんです。ビジネスには明確な目的があって、それを達成するまでに一番効率的な道を選び、進んでいくと思います。でも、生活や人生は目的のない散歩みたいなものなんです。ムダやダメな自分、回り道を楽しんでみてください。道を間違えたからこそ見える景色もあったりします。「ケンカをして3日間、口を聞きませんでした」というのはビジネス的にはムダな時間かもしれない。でもお互いを考えて愛情が深まる場合もある。これはエビデンスの取りようがないんです。最短距離で行くだけではなく、ときに3歩進んで2歩下がる。いろんなムダも含めて、さまざまなものが堆積したもの。それが人生の宝物になるので、ぜひビジネスでの成功体験を家庭には持ち込まず、自分たちの生活を楽しんでみてください。


おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌の監修・企画・執筆を担当。心理カウンセラーとして、父親を対象にしたオンラインカウンセリングサイトを10年間にわたり運営した経験も。現在は主に書籍執筆や新聞・雑誌・web媒体への寄稿を行う。メディア出演や講演活動も多数。著書は『ルポ塾歴社会』『名門校とは何か?』『受験と進学の新常識』など60冊以上。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。Twitter(https://twitter.com/toshimasaota
著者プロフィール

女性誌やママ雑誌などを中心に活動するフリーランスのエディター&ライター。育児系の記事から美容企画、タレント取材まで幅広く手がける。6歳・4歳・2歳の三姉妹の母。

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