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理想と現実の狭間で…忙しい時代の「子育て理想論」との付き合い方

理想と現実の狭間で…忙しい時代の「子育て理想論」との付き合い方

育児情報が豊富な今、子育ての理想論と現実との狭間で悩んでいる方は非常に多いものです。働いているママや子どもを2人、3人と育てているママは、育児の「こうあるべき」という理想はわかっていても、実際にはできず、理想があるばかりに、自分を責めてしまっているケースが見受けられます。

なぜ苦しくなるのか、忙しい時代の理想論との付き合い方はどうすればいいのか、一緒に見ていきましょう。

日経DUAL記事

ママを苦しめる要因その1 根強い3歳児神話

ママにプレッシャーを与える最たるものが“3歳児神話”でしょう。

3歳児神話とは、「子どもが3歳になるまでは、母親が子育てに専念すべきであり、さもないと成長に悪影響を及ぼす」という考え方のことです。実際には、1998年に厚生白書が、「合理的な根拠は認められない」としているのですが、未だに根強く残っています。

社会全体から3歳児神話が抜けきっていないため、なにかあると、「しっかり母親がついていないからだ」と突かれるのが今の日本。ママは社会から偏った理想論を突きつけられているとも言えるのです。

そもそも3歳児神話は、イギリスの精神科医・ボルビー博士が唱えた「アタッチメント理論」が、湾曲しながら発展したものとされています。この理論でボルビー博士が主張しているのは、

「子どもが社会的にも精神的にも正常に発達するためには、少なくとも1人の養育者との親密な絆を維持しなければならない。それが欠如すると、子どもは社会的、心理的な問題を抱えるようになる」

ということ。

強い精神的な絆を意味するアタッチメントが “最低でも1つは必要”と言っているのであって、母親は子育てに専念すべきと唱えているわけではありません。もしそうだとしたら、第一子出産後、80%以上のママが仕事に復帰するフランスでは、多くの子どもたちが問題を抱えることになってしまいます。

しかし実際はそんなことはありません。この点で、日本の3歳児神話は、非常に狭義なのです。日本は、ママが理想論に追われやすい温床があるといっても過言ではないでしょう。

ママを苦しめる要因その2 ネットにあふれる育児情報

そういう圧迫もあり、なにか気になることがあると、ネットであらゆる育児情報を調べてしまうものです。たしかに便利ですが、それがママを苦しめてしまうこともよくあります。解放されたくて調べるのに、逆に悩まされてしまうのです。

検索エンジンで悩みをサーチすると、それに合致する情報が何千、何万と出てきます。

たとえば、「完全母乳 メリット」と入力すれば、出てくるのは、完母をすることでのメリットばかり。引き寄せたいキーワードを入れているので、当然と言えば当然なのですが、完全母乳をしているママやしようとしているママだけがその言葉をサーチするわけではなく、実際には「完母は難しいな。ミルクにしようかな」と思っているママも検索していることが多いものです。

Aの選択肢を取ろうとしているママでも、Bのことを調べておく、育児情報のネットサーチではよくあることです。

発信する側は、色々な立場の人が読むことを踏まえて発信するべきなのですが、ネットの性質上、検索されて読まれるために、誇張されていたり、キャッチーな見出しがついていることもよくあります。「絶対○○すべき5の理由」みたいな記事、見かけたことありますよね。

でも、ミルクを選択しようとしているママが、「絶対完母にすべき5つの理由」という記事を読んだらどう思うでしょうか。自分の決断に迷いが生じてしまいます。

信頼できる情報を見分けるコツ

合理的な根拠のない3歳児神話が社会全体に刷り込まれているように、育児ではそうだと思いこんでいることが実は必ずしもそうではないということはあるものです。

世にある“理想論”だって、もしかしたら理想ではないのかもしれない、情報があふれている時代だからこそ、本当に信頼できる情報を見分けていく必要があると言えます。

ただ、今はだれでもネットに情報を流せる時代なので、書かれていることの信ぴょう性は自分で判断せざるをえないことが多いものです。

そんなときの判断基準はどうしたらいいのか。まず1つは書き手がだれか、執筆者や監修者をチェックすることは大事でしょう。そのページのどこかに書いてあるはずです。執筆者が実名を出していること、かつ、その道の専門家であること、これは記事への信頼性の目星になるでしょう。

ネット記事の中には、どこかからコピペしてきたような記事も実際には見られますし、語調が強すぎて、ママが「やらないと大変だ」と焦らされるようなタイトルもよく見かけます。

ただ概して、専門家であれば、「絶対○○!」のようなタイトルづけはしないものです。育児には“絶対”はないことがほとんどだからです。

理想論から今の自分へ1本の線路を敷いてみよう

私は心理学が専門なので、子どもの心理発達やママのストレス管理など、育児におけるココロの部分に特化した記事を書いていますが、その経験を通して感じるのは、育児情報は伝わる人にはすごく伝わるけれど、伝わらない人には全く伝わっていないという響き方の違いです

一般的に、理想論の狭間で揺れるママというのは、向学心がある方がほとんどです。育児に対して真摯だからこそ、調べて行動しようと思うのです。

逆に、世の中で問題(虐待など)を起こしてしまっているようなご家庭は、子育ての知識に関心を持ってくれていません。育児情報を得ることで改善することはたくさんあるのに、興味がないためにその場しのぎの対応をしてしまうのです。

学ぶママはさらに学び、学ばないママはとことん学ばない、これが現実です。

今、この記事を読んでくださっている方は、色々と情報を取り過ぎてしまって何を選ぶべきかで悩んでいたり、理想は分かっているけれど忙しい毎日で実現できていない、そういう方だと思います。

そんな方向けの理想論との付き合い方としておすすめなのは、

・根拠のある信頼できる情報を軸にすること
・それを方位磁針のように使うこと

という2点です。

方位磁針は道に迷ったときに、どちらが北でどちらが南かを教えてくれますが、それと同じ感覚で、自分が進みたい方向を確認するために理想論を据え置くのがおすすめです。

上にも書きましたが、知識を持たずに、直観や我流で子育てをしてしまうとその場しのぎの対応になりがちなので、育児の知識や正しい理想論は持っているに越したことはありません。

ただ、実際はできる範囲しかできない、それが現実です。ですので、理想論から、今の自分に1本の線路を敷いて、そこの上にいればOKとします。そして、

・前に進めればしめたもの
・脱線はちゃんと気づけばそれでよし
・たまに後ずさりすることも想定内

と理想論を「やらなくちゃだめなこと」と課すのではなく、方位磁針として道案内に使うのが、今できる現実的な活用法だと思います。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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