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子育て

日本の父親は「知識なし、経験なし、支援なし」 「父子手帳」で産前意識改革へ!

日本の父親は「知識なし、経験なし、支援なし」 「父子手帳」で産前意識改革へ!

令和5年、育休取得の制度が創設され、男性も育児をするのが当たり前になりつつあります。しかし、日本における父親は「知識なし、経験なし、支援なし」の三重苦状態。結果的に「何をやっても怒られる→いないほうがマシ」となったり、仕事との両立がうまくできず、産後うつになってしまうパパもいます。

医師でジャーナリストの平野翔大さんは、そんな父親の育児環境支援や情報不足を補うために発足した「Daddy Support協会」の代表理事でもあります。今回は、あまり知られていない子育てにおける日本の父親を取り巻く課題や解決策について詳しくお話を伺います。


プロフィール

平野翔大さん 

(一社) Daddy Support協会代表理事、産業医・産婦人科医・医療ジャーナリスト。「医療とヘルスケアの間を埋める」を掲げ、医師の垣根を超えた“越境”活動医として幅広い分野で活躍中。
Note(https://note.com/waterfall27fly/n/n5e0654972ae3)著書に『ポストイクメンの男性育児-妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ791)がある。

育休の法制度は進んだものの、企業や社会は「女性が育児をする」という価値観のまま。その結果、「取るだけ育休」といった問題や「イクメン嫌い」という現象も起きています。

男性も育児に参加すべきだけれど、イクメンには否定的という現状……。

産業医という立場からこれまで多くの父親たちと関わってきました。その中で彼らが今抱える悩みとその原因についてお伝えしたいと思います。

日経DUAL記事

パパの悩み① 子育ての「何がわからないか」がわからない

日本は、長年男性を育児から排除してきたことによる、深刻な「知識不足」に陥っています。このため、父親たちは「育児をやりたくても、何がわからないかわからない」→「何をやっても怒られる」という悪循環になってしまっているのです。

女性は妊娠してから定期的に産婦人科医や助産師と話す機会や、母親学級でのコミュニティ作りの機会があります。何より体の変化があるため、妊娠が“自分事”になっていきますが、男性は基本的に何も変わらず、育児の専門職の方たちと接する機会も少ないのが大半です。母親は「妊娠・出産・育児に関する知識」について、40週かけて知れますが、父親はこの機会がほとんどありません。新生児のイメージすら上手くつかめず、母親が赤ちゃん中心の生活に切り替わる中で、父親は自分とパートナ―中心の生活のままということも。このため、産後からではなく、産前の父親支援に注力する必要があると考えました。

パパの悩み② 母親との「認識の差」が埋まりにくい

最近では育児に積極的に関わりたいと考える父親は増えています。しかし育休を取りやすい会社はまだ多くなく、取れても数日というところも少なくありません。結局、十分な育児準備期間もなく、父親が育児をできるのも土日中心になってしまいます。

「知識なし」「経験なし」の状態で、妊娠期間中の準備も不十分だと、どうしても子どもが生まれた時点で知識量・認識ともに母親と大きな差ができてしまっています。結果として、何をやっても上手く噛み合わず、「いないほうがまし」などと戦力外通告をされてしまうことも少なくありません。

ではどうすればいいか。私は「最低限のラインをクリアする」というのと、「夫婦で可能な形を事前に探っておく」ことが大事と考えています。

たとえば土日しか育児に関われないのであれば、「土曜は父親と遊ぶ日にして外に連れ出し、母親の一人時間を作る」も一つの形です。両親が全く同じことができる必要はなく、大事なのは子どもの親として夫婦二人の育児の役割分担を話し合い、お互いを支えられる存在になれるかどうかなのです。

しかしこの時に、全く子どもの世話ができない、もはや遊んだことで怪我させたり危険に晒してしまうと、母親にとって「この人に子どもを任せることができない」となってしまいます。こうならないための「最低限の知識」はもっと学ぶべきですし、そういう場所が増える必要があると活動しています。

パパの悩み③ 10人に1人がメンタル不調に悩んでいる

子育てには「親が心身ともに健康であること」が何より大切です。ですが、日本では「母親だから子どものそばにいなきゃ」はもちろん、「一家の大黒柱として妻と子を養わないと」と、自分を過剰に追い込んでしまう「昔ながらの親像」に縛られてしまい、結果メンタルに不調をきたすことも少なくありません。

最近ではようやく父親の産後うつにも注目されるようになってきましたが、

・育児と仕事のキャパオーバーによる適応障害
・長期育休による社会との断絶
・転職してもっと稼いで家も買おう!など過度な責任感による自滅

が主な原因だと考えています。特に3つ目の「過度な責任」は「有害な男らしさ」のような考え方が背景にあり、予め準備することで防げます。

他の2つも、事前の知識で防げることが多く、私たちはそうした父親の情報不足を支援していきたいと考えています。

パパの産前意識改革として「父子手帳」を制作中!

ジャーナリストとして父親を取り巻く問題について記事を発信する中で、私の意見に賛同してくれる育児当事者たち、そして同じ医師、保育士、助産師などの専門職たちと一緒に立ち上げたのが「Daddy Support協会」です。

これまで父親は「母親を支援する人」とされてきました。しかし我々はそうではなく、「父親を支援」することが「家族を守る」ことにつながる、という想いで活動しています。そのためには、まず親が精神的・身体的に良いコンディションでなければいけないですし、妊娠期に父親も育児の土台作りをしておくとさまざまな問題の予防になると考えています。

そこで考えたのが、「父子手帳」です(クラウドファウンディングで目標額達成!)。妊娠が分かる=妊娠届を出すタイミングで、父親にも当事者意識を持たせるフックになればと思っています。

内容としては、前半で妊娠・出産・育児について重要、かつ正確な情報を、後半では困ったときに父親が活用できる地域の支援先やツールなどを掲載する予定です。

たとえば自治体が開催する「父親教室」などもそう。大事な情報ながらも父親たちに届いていないという現状を打破する役割も果たします。自治体により異なるため、まずは第一弾として、取り組みに賛同していただいた自治体と支援スキームを進めつつ、具体的な父子手帳の形に落とし込んでいるところです。

日本は男性育児のインフラから変える必要がある

ちなみに、母子手帳を廃止したいと思っているわけではありません。母子手帳は母子の健康を守るために母子保健法に基づいて配布された手帳であり、日本発の文化です。WHOもその素晴らしさを認めていますし、世界多くの国に日本の母子手帳が輸出されるほどです。母子手帳は妊娠・出産の管理という意味で、絶対に不可欠なツールですが、父親にはまた別のツールが必要だと考えているからこそ、「親子手帳」ではなくて「父子手帳」なのです。

しかし父子手帳だけを作っても不十分だと思っています。例えば、育児でしんどくなってしまい、父子手帳に掲載されていた行政の相談窓口に行ったら、「お父さん、もっと頑張って!」と言われてしまった。これでは本末転倒ですよね……。

だからこそ行政が、会社が、社会が男性育児の「インフラ」から変えていく必要があると思い、活動しています。

フランスなどでは、夫婦一緒に産前に子どもを取り巻く窒息や事故死などについて勉強する場所があります。たとえば父親が母子手帳を持つことが、小児科にわが子を受診させることが、当たり前な世の中になるために、尽力していきたいと思っています。

著者プロフィール

ライター・エディター。出版社にて女性誌の編集を経て、現在はフリーランスで女性誌やライフスタイル誌、ママ向けのweb媒体などで執筆やディレクションを手がけている。1児の母。2015年に保育士資格取得。

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