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子育て

赤ちゃん期の「後追い」の心理学的な意味と対処法

赤ちゃん期の「後追い」の心理学的な意味と対処法

生後6ヵ月頃から1歳代で起こるママの「後追い」。その後も2歳、3歳と続くお子さんもいます。激しくても悩み、なくても悩むというお声を聞くように、気になっているママが多いのが後追いの実態です。そこで今回は心理学的な見地から、後追いの時期や発達上の意味合い、対処のヒントなどをまとめていきます。

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後追いとは? いつからいつまで続くもの?

後追いとは、赤ちゃんがいつもそばにいてくれる人を追いかけ続けることを言います。典型的な例としては、ハイハイができるようになった8ヵ月の赤ちゃんが、ママがトイレに行くときにも、必死になって後を追いかける、そんな光景です。一般的には0歳後半からよく見られるようになります。

後追いと言うと、一般的にはこの時期のことをイメージする人が多いかもしれませんが、実際には程度の違いこそあれ、その後も続く傾向があります。そして3歳くらいになると、だんだんとママと離れた状況に耐えられるようになってくることが多いとされています。

後追いが起こる3つの理由

では、なぜ後追いは起こるのでしょうか? ここで後追いが起こる理由について、体の発達と心の発達の両面から見ていきたいと思います。

【体の発達】
その1 動けるようになるため

後追いがなぜ0歳後半になると見られるのかと言えば、そのくらいから“自分で移動すること”が可能になるからです。0歳前半ではまだ追いかけたくても追いかけられないので、泣いて欲求を訴えようとするのですね。よって、後追いはハイハイなどの追いかける術があるからこそ実現できるので、成長の表れとも言えるのです。

その2 記憶力が上がるため

また、記憶力の発達も後追いに絡んでいると言えます。0歳の後半には記憶を保持する力がだいぶ発達してきており、「よく知っている顔」と「記憶にない顔」を見分けられるようになります。いつも近くにいるママの顔がより特別な存在になるわけです。それにより、「ママじゃないとダメ」という人見知りが起こり、ハイハイを使って追いかけるようになります。

【心の発達】
その3 物理的な距離が不安をもたらすため

子どもたちは、ハイハイをしたり、歩き出したりすることで、自分が物理的にママから離れた存在であることを認識しますが、それは冒険への一歩でもあり、不安をもたらす要因にもなります。ここで思い出すのが、ハンガリーの精神科医であるマーラー博士が提唱した分離・個体化理論です。これは、赤ちゃんがどのような過程を経て、母親と離れていくかを表した理論になります。

生まれてしばらくの間、赤ちゃんは「自分とママは一体だ」という感覚を持っているのですが、実際にハイハイなどで2人の間に距離ができれば、自分とママは別の存在だということがだんだんとわかってきます。自ら動けるようになったことは、喜びや興奮をもたらしますが、その一方でママとの距離が不安をも生じさせます。いわゆる、分離不安です。後追いのみならず、ちょっと遊んではママのところに戻ったり、目線で追うことで自分を安心させるという行為は、この時期の子どもにとてもよく見られます。

そしてその後もママの後を追う傾向は続きます。マーラーの言う“rapprochement”という発達過程です。これは日本語では「再接近期」と訳されているようですが、端的に言えばつかず離れずの時期のこと。時期的には15ヵ月あたりから2歳半くらいまでを指します。

2歳前後の子どもと言えば、思い出すのがイヤイヤ期。この時期の子どもたちは、自我を成長させたい思いに駆られています。しかし、まだまだ1人でいられるわけではありません。自立したいけれど、1人だと不安、そんなアンビバレントな状態です。自分が夢中になって遊んでいるときはママと離れることもできてくる一方、ふと不安がこみ上げると、ママを追い回す子もいるでしょう。ママを目で追ったり、直に触れたりすることで気持ちを安堵させている状態と言えます。

このように見ると、後追いは体の成長と心の成長が関係し合って引き起こされているのがわかります。自分で動ける身体的な成長は喜びをもたらす一方で、ママとの物理的な距離を作ることになります。体は離れられる、でも心はまだ離れられない、だから追いかけてしまおう、これが後追いなのですね。このように見ると、体の発達の方が心よりも少し先を行っているようにも見えます。「もう歩けるよ。でも離れると不安になっちゃう」というのが子どもたちの心の声と言えるでしょう。

後追いの後に大事な「情緒的対象恒常性」とは?

そんな分離不安の時期を超えると、後追いの頻度が下がり、だんだんとママがその場にいなくても耐えられるようになってきます。なぜそれが可能になるかというと、心の中でママの顔を思い起こし、自らを安心させることができるようになるからです。この心のイメージをマーラーは「情緒的対象恒常性」と名づけました。

漢字ばかりで複雑に見える心理用語ですが、わかりやすく言えば、「心の中に思い浮かべる大切な人の存在」のことで、3歳くらいでできあがるとマーラーは言っています。

これが確立されると、それまでは“実物のママ”でしか満たせなかった心の不安が、自らの心のお守りで解消しやすくなり、その子の自立が進みます。3歳くらいになると社交性や社会性が増してくるのも、この「心のお守り」が機能している証とも言えます。

そしてこの心のお守りが機能するのは、子ども時代だけではありません。むしろ親から離れる時間が増えるほどに、その重要度は増してくると言っても過言ではないでしょう。私のカウンセリングの事例を見ても、中高生で荒れてしまっている場合、心のお守りでほっこりするどころか、親が怒りの対象になってしまっていますし、親御さんご自身の悩み相談の場合、掘り下げると、安心をもたらす親の像が持てていないことがとても多いです。つまり、「親が自分を守ってくれている」という実感がないことは、生涯に渡って心に影響を及ぼしかねないのです。

今日からできる! 後追いに効果的な5つの対策

話が後追いから脱線しましたが、「情緒的対象恒常性」のことを頭に入れた上で、後追いへの対処法を考えていくことはとても大事だと考えています。なぜなら、追いたくなる心理を無視した対処をしてしまい、仮に心のお守りが築けなかったら、逆に後追いを加速させてしまいかねないからです。

マーラーは、子どもの自立したい気持ちと甘えたい気持ちの両方をくみ取り、バランスを取ることを推奨しています。ここから、それに沿った後追い対策をいくつかご紹介します。

後追い対策その1 「気分をそらす工夫をする」

・何かに夢中になっているときにママが席を外す
・ママが動くタイミングで魅力的なものを手渡す
・後追いされた後でもいいので、そこで子どもの気が紛れる工夫をする

など、子どもの気持ちを上手にそらすことは後追い対策で取り入れたい方法です。

基本的に後追いが起こる時期というのは、100%密着の状態からは抜け出していて、外の世界にも興味を持っています。こっそりいたずらをしているときなどがその典型ですが、その子の1日を見渡せば、離れて何かをしていることは意外とあるものです。ママから離れることができているタイミングに何をして楽しんでいるのかを観察してみましょう。たとえば、大好きなおもちゃ、音楽、絵本などを後追い対策用に取っておいて、そのときだけ使うようにすれば、気持ちがそれやすくなるかもしれません。

後追い対策その2 「少しだけハードルを高める」

「トイレくらいゆっくり入りたい」というママも多いと思います。そんなときはトイレのドアを閉めてコミュニケーションを取ってみるというのもおすすめです。たとえば、ドアを閉じる前に、「もしもしごっこしよう」などと伝え、ドア越しに「もしもし○○ちゃんですか」と電話っぽい会話をします。あとは、「お歌を歌って待ってて」などと伝え、ドアの外で待っている時間に歌を聞かせてもらえたらいいですね。これはママが視覚的に見えなくなる分、ハードルが高いですので、少しずつ段階的に取り入れるのがいいでしょう。

後追い対策その3 「自立行動をほめる」

後追いは、「自立したい、でもまだ不安……」という心理から来るものなので、日頃からお子さんの自立した行動に気づいて、「がんばったね」とほめていくことは、結果的に後追い対策になるでしょう。自立行動と言っても、「お着替えが1人でできた!」というようなすごい行動ばかりではありません。3歳までの子で言うなら、「使ったティッシュをゴミ箱に入れた」「ボタンを1つとめられた」などの具体的な行動や、「ちょっと待てた」「泣かずにできた」などの気持ちのコントロールなどが適切でしょう。大きな達成ばかりがほめの対象ではないので、「昨日よりちょっといいかも」と思ったら、そこに気づいてフィードバックしてあげてほしいと思います。

後追い対策その4 「追いかけてきてもいいと捉え直す」

物事をどう捉えるかによって感情は大きく変わります。常に追われていると「まただ」「気が休まらない」とイライラしてしまうこともあると思いますが、長い人生において、ここまで追いかけられる経験はなかなかできるものではありません。「今しかできない経験だわ~」「あと数年経ったら追われなくなっちゃう」「お好きなだけどうぞ」のように切り替えられると、同じ追いかけられ体験が違った気分で受け止めやすくなると思います。どうせ追いかけられるのならば、気分よく受けてしまおうという作戦です。スマホで追いかけてくる様子を撮影しながら中継コメントを加えていくのも、ママの後追いに対する思いを切り替えるのに役立つと思います。

後追い対策その5 「安定した反応を親が示す」

先ほど、記憶力の成長がママの存在を際立たせるために後追いが発生してしまうとお伝えしましたが、さらに成長し、それまでの経験を踏まえて、「ママはまた帰ってくるから大丈夫」「絶対にいなくならない」のように思えるようになると、その子の心が安定してきます。ここで大事になってくるのは、日頃からの関係性です。もしママが子どもの声をたびたびスルーしてしまったり、自分の気分でリアクションを大きく変えてしまうと、子どもがママの反応を予測しにくくなるため、「追いかけるしかない」と思ってしまいがちです。ママが一貫性のある対応をしていることで、子どもは安心できる“ママ守り”を形成し、それが結果的に後追い対策につながっていきます。

四六時中追われていると、気持ちが休まらない方も多いと思いますが、後追いは拒絶すると逆効果になりがちです。ダメと言われると余計に追いかけたくなってしまい、結果的にママがもっとつらくなってしまいますので、その方向に行かないことだけは気をつけてほしいと思います。

後追いをしない、し過ぎると悩む方へ

最後に、後追いをどう捉えるかについて触れ、締めくくりたいと思います。

後追いの頻度は、かなり個人差があるものです。追われてばかりでも悩みますが、中には後追いがないことを心配するママもいます。

もちろんこれまで述べてきたように、親の接し方はカギになるのですが、その子のもともとの性分によっても現れ方は異なってくると考えられます。たとえば、適切な接し方をしているのにもかかわらず、気質的に消極的なために、なかなかママから離れられないなどは典型例でしょう。

後追いは目に見えやすい現象のため、あるか、ないかで論じられやすいのですが、大事なのはその子の心がすくすく育っているかどうかです。逆に言えば、あろうがなかろうが、すくすく育っていれば、かまわないということですね。

心の発達は目に見えにくい部分なので、後追いの様子や頻度をそのバロメーターにして思い悩んでしまう人も多く、「なくても心配」「多くても心配」となりがちです。しかし実際にはその子の性格的な部分も関係しているので、後追いの数だけではわからないことも多いのです。

後追いの頻度がどのような状況であっても、適切な接し方をしているかどうかが一番大事で、それができていれば、自分の対応に自信を持ってほしいと思います。人間誰でもそうですが、不安というのは「何が起こるかわからない」と生じやすくなりますので、赤ちゃんにとって予測しやすい世界を自分が提供できているか、ここをポイントに後追い対策をしてみてください。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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