フランスが推進する「男女平等アクション」、幼稚園や小学校でどう学ぶ?

フランスが推進する「男女平等アクション」、幼稚園や小学校でどう学ぶ?

フランス政府は2023年、3月8日の「国際女性デー」に合わせて男女平等の実現に向けたアクションプラン「女性と男性の平等2023-2027」を発表しました。政府は同プランの一環として、教育機関において男女平等について継続的に学習することを推進しています。実際の教育現場で取り組んでいる男女平等施策はどのようなものなのか、フランスの幼稚園や小学生で行われている具体的な内容についてお伝えします。

日経DUAL記事

無意識のうちに男女を区別している固定観念を変える

フランスでは、日常生活で無意識に使っている男女を区別する言葉があります。フランス語の名詞と形容詞には男性形と女性形があり、とくに形容詞は修飾する名詞の性に応じて語尾が変化するのです。例えば先生が朝に行う点呼に返答する際に、男性は「présent(います)」となりますが、女性は「présente」と末尾に「e」をつけます。

こういったことにより、日常の教室内において、自分自身や他人が男性・女性であるという認識が育まれるのです。日本語にも「僕」や「私」、「君」など男女を区別する言葉がありますが、フランスではより自然な形で、無意識に区別してしまう感覚が生まれてしまいます。

このように言葉1つでも、私たちは無意識に男女を区別することに慣れてしまっています。なので、男女平等を教えるための有効な手段の1つは、まず誰もが持っている偏見や固定観念を取り除くことです。

政府のアクションプランでは、社会に根付く既成概念や「ステレオタイプ」に対して子どもたちが疑問を持つように、教育現場において幼児期から練習を重ねていきます。そのためには、授業の編成方法や教科、使用教材などに関し、従来型のやり方を見直す必要も出てきます。

無意識のうちに男女を区別している固定観念を変える

男女を問わず「平等な待遇を受けられる権利」があることを学ぶ

子どもたちへの男女平等教育は、第1期が幼稚園、第2期が小学校低学年(1~3年生)、第3期が小学校高学年(4~6年生)と3段階に分けて行われます。

まず第1期・幼稚園では、男女の区別にかかわらず自分は他人と平等の権利を所有し、平等な待遇を受けられることを学びます。一般的に男児は自動車、女児は人形を好むといったイメージを抱きがちですが、教室では子どもたちがその既成概念にとらわれないように仕向けるのです。

例えば、キッチンや人形のコーナーに男女2人ずつ、ガレージや作業台のコーナーにも男女2人ずつというように、男女がそれぞれのコーナーで遊べるようにセッティングします。こうして、誰でもがすべての遊びや玩具を利用する権利を持っていることを教えるのです。

また伝統的な童謡や歌を活用し、子どもたちと一緒に登場人物やストーリーを書き直すことも有効な手段です。仮に歌詞が「夕食を作る人はお母さん」だったとしたら、それを「お父さん」に変えてみるなど、既成の固定観念を見直せる柔軟性が自然に身に付くように導きます。

小学校では古典的、歴史的な観点から学ぶ

第2、3期の小学生になると、第1期で行った「既成観念に疑問を持つ」ことに多角的にアプローチできるようになります。例えば、第2期の小学校低学年の授業を例に挙げてみましょう。

まずは古典的な児童文学を読んで、「現代でも同じことと違っていることは何かな」という課題を提示。「何が同じ?」「何が違う?」「それはなぜ?」とクラスで討論し、最後にそれぞれがこの物語を現代風に書き直すのです。すると、古典では無意識のうちに強調されている男女別の役割や固定概念が見えてきます。

また、自分たちが見ているアニメやヒーロー番組を、角度を変えて見ることも面白い試みです。人気ヒーローの目録を作り、その特徴や性別によって分類し、身体と顔を組み替えて新たなヒーローを創作してみます。そうすると、性別によってイメージが固定されない多様な才能を持ったスーパーヒーローが生まれる可能性があります。

第3期にあたる高学年では、さらに深い部分に挑戦します。例えば美術史の場合、何世紀にもわたり時代によって進化してきた女性や男性の「理想像」というテーマがあります。しかし、さまざまな作品を鑑賞することにより、「理想像」における男女の美は必ずしも固定されたものではなく、時代や社会の変化とともに変容していくことを学びます。

また歴史の授業では、紀元 500 年頃に制定され、その後もヨーロッパの法制度に大きな影響を与えた「サリック法」を学習します。王位、領地、財産の継承から女性を排除することが原則であるサリック法の観点から、フランスとイギリスを比較したり、女性の役割や権利に注目したりして意見交換を行います。西洋社会における男女の地位の変化を理解するためには、このような歴史的な見地から考えていくことが必要だからです。

まとめ

男女に対する偏見や既成概念を取り除くには、男女は平等であるという理念や文化を粘り強く浸透させていくことが不可欠です。そのため、女子と男子の権利が平等であるという幼稚園や小学校での学習は、授業時にとどまらず学校で過ごす日常生活全般を通して行われています。

ただ、男女平等社会を実現させるには、子どもたちよりも、むしろこれまで既成概念に振り回されてきた大人こそが意識改革に取り組む必要があるのかもしれません。

<参照URL>
https://www.egalite-femmes-hommes.gouv.fr/toutes-et-tous-egaux-plan-interministeriel-pour-legalite-entre-les-femmes-et-les-hommes-2023-2027

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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