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小児鬱(うつ)とどう違う? 頑張り屋さんに多い「子どもの五月病」の対処法

小児鬱(うつ)とどう違う? 頑張り屋さんに多い「子どもの五月病」の対処法

「五月病」は、「ごがつびょう」と読みます。4月に新しい環境で生活を始めた新入生や新人社員が、なかなかその環境に適応できず、5月のゴールデンウィーク明けに、精神的な苦痛を訴えはじめることから、この名前がつきました。

五月病で悩むのは大人だけではありません。幼稚園に通う年齢の子にも起こりうることです。その場になって慌てないために、親として何ができるかをまとめてみました。

日経DUAL記事

ご飯を食べない、ぐずり、イライラは5月病のサイン!? GW明けは特に注意

五月病は、環境の変化に伴うストレスが大きく関係しています。日本は4月が学年の節目なので、だれもが進級やクラス替えを経験しますし、幼稚園、保育園から小学校へと新たなステップに進む子もいます。これに加えて、塾や習い事なども一新するご家庭も多いでしょう。

新たな環境というのは、心に負担を与えがちなので、4月は子どもたちにとってストレスを感じやすい時期と言えます。しかも日本のカレンダーは5月初めに連休があります。強く負荷のかかった4月を終えてのゴールデンウィーク、このアップダウンが、「学校いやだ」「やる気が出ない」という気分を促してしまうことになります。

一般的に、五月病とは、次のような心の苦痛を抱えると言われています。

・抑うつ
・無気力
・焦り
・不安感

大人であれば、自分の心の状態を客観的に捉えることも可能なので、「なんだか最近、焦ってばかり」「なんかやる気が出ない」と、自らの不調に気づくことができますが、子どもだとなかなかそうはいきません。とくに小さい子は自分の感情を言語化するのはまだ難しいので、ぐずったり不機嫌になったりして感情を示したり、お腹が痛いと体調不良を訴えたりという形で表れることもあるでしょう。お子さんの年齢が小さければ小さいほど、親が気づいてあげる必要があります。

親がタイミングよく気づいてあげるには、お子さんの心の状態が反映された行動や感情を上手くキャッチすることがポイントになってきます。“心”は目には見えませんが、行動や感情なら見ることができます。たとえば、

・ご飯の量が減った
・ボーっとしていることが増えた
・好きだった遊びをしたがらない
・最近、すぐにぐずるようになった
・学校(幼稚園)がイヤだと行き渋る
・体調不良を訴える
・イライラしている

など。このような行動や気持ちの変化を、心の葛藤が映し出されたものとして、敏感に察知することが大切です。

ただ見方によっては、お子さんの様子がどれも当てはまっているように思えてしまうこともあるでしょう。大事なのは五月病であるかを見定めることよりも、お子さんの様子に合った対応をしてあげることです。後半ではやらない方がいいこと、やってほしいことについて見ていきますので、ぜひご参照ください。

小児うつと五月病はどう違う?

また、五月病の状態はうつ病の症状と重なるところも多いので、中には気になってしまう方もいるようです。五月病とうつ病の大きな違いは、疾患であるか否かです。

五月病とは呼ばれるものの、これは病名ではありません。“病“とつくので、なにかしらの疾患のような印象を与えるかもしれませんが、五月にさまざまな精神的苦痛を訴える人が多いので、その症状を踏まえて、五月病と呼ばれています。

一方で、うつ病は精神疾患の1つです。DSM5という精神疾患の診断に用いるマニュアルでは、うつ病とは、

1. 抑うつ気分
2. 興味または喜びの喪失
3. 食欲の減退あるいは増加、体重の減少あるいは増加
4. 不眠あるいは過眠
5. 精神運動性の焦燥または制止
6. 疲労感または気力の減退
7. 無価値感または過剰(不適切)な罪責感
8. 思考力や集中力の減退または決断困難
9. 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図

のような症状が見られることを指します。子どもの場合、1の抑うつ気分に代わってイライラや怒りっぽさという形で出ることもあります。また、3では体重減少は見られないものの、成長期として期待できる体重増加がないということもあります。

これらの症状のいくつかは五月病でも重なることもあり、わが子の気持ちの落ち込みや無気力な様子に、うつ病との区別に悩まれる親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、うつ病と診断されるのは、上記症状のうち、1か2が少なくとも1つあり、さらに合計で5つ以上が認められ、それらが

・ほとんど1日中
・ほとんど毎日
・2週間に渡って続いている

という場合です。

五月病は正式な病名ではないですし、どこからどこまでが五月病という域も明確ではないため迷いが生じがちです。基本的に五月病というのは、その名の通り季節的なものであり、一過性の状態に対する呼称です。あまりに深刻で長引く場合や上記の症状が数多く当てはまる場合は、家庭で抱え込まずに、医師や自治体の相談窓口などを訪ねるようにしてください。

学校や園に話すべき? 五月病の上手な伝え方

では、もし「五月病かも」ということになったとき、学校や園へはどう対応したらいいでしょうか? きっと、「どう伝えるべきか」「そもそも伝えた方がいいのか」と迷う方も多いと思います。

基本的に、五月病は園や学校という家庭外の環境がトリガーになっているものなので、園や学校は“関係者“。やはり伝えた方がプラスに働きやすくなります。その理由は、あらかじめ先生方が情報を得ておくことで、意識が向けやすくなるからです。先生方もその子の現状を知った上で目を配ってくれるので、知らなければ見過ごしていたかもしれない学校での様子に気づくことにもつながることもあるでしょう。

連絡帳に書くのもいいですし、もし直接お話しする機会があればなおさらいいと思います。その際は、具体的な行動の変調や感情の揺れ(食欲がない、ぐずりがち、行き渋る…など)のような事実に基づく情報を中心に、簡潔に分かりやすくお伝えするのが望ましいです。

五月病になりやすい子の特徴

五月病は新しい環境下でのストレスが関係していますが、だからと言って、どの子も連休明けに五月病になるかと言えば、そんなことはありません。大半の子はゴールデンウィークの方が好きではあっても、また学校へと戻っていきます。その一方で、先述のようなしんどさを訴える子も出てきます。

これまでの相談例を見ても、五月病になりやすいタイプのお子さんはいると感じています。大きく分けて2つのパターンがありますので、それについてここでお伝えしていきます。

タイプ1 気質的に新しい環境が苦手な子

一般的には、「うちの子は消極的だ」とか、「引っ込み思案だ」「人見知りが激しい」のように言われることが多いかと思います。これはもともとの性格であり、このタイプのお子さんは他の子よりも園や学校で多くのエネルギーを使うことになります。よって、4月はヘトヘトになってしまうことが多いのです。

タイプ2 頑張り屋な子

このタイプに加え、頑張り屋の子も陥りやすいと言えます。新たな環境に置かれたときに、そこに早く順応しようと頑張ってしまい、常にピンと気持ちを張り詰めて過ごしている場合がそれに当たります。また中には、「親の期待に応えねば」という思いが強いがために、気を抜くことを自分で許さず、気づかぬうちに頑張り過ぎてしまう子もいます。この場合は、親自身が子どもに期待をかけすぎていないかも含め、対策を検討する必要があると言えます。

また男女差についてですが、一般的に女の子の方が控えめで消極的な印象を与えるかもしれませんが、この状態は男女ともに起こりうる印象です。私がこれまでに経験している感触では、性別というよりは性格の方が大きく関係しているのが分かります。

五月病の子どもを傷つけてしまうNGワードとは?

では、もしゴールデンウィーク明けに、お子さんが「幼稚園に行きたくない。ママと一緒がいい」と言ってきたら、どうリアクションしますか? きっと、こう言うのではないでしょうか?

×「幼稚園、楽しいよ♪ 頑張って行っておいで」
×「お友達がみんな待っているよ、ほら、行こう」

と。ママは子どもを元気づけたくて言っているのですが、これらの言葉が、逆に、重く響いてしまうことがあります。

わが子を五月病からなんとか立ち直らせようとするとき、足かせになるのが、「親の主観」です。たとえば、

×「パパならこういうとき負けないぞ」
×「絶対に楽しいから、大丈夫」

のように、「自分はこう思う。だから、子どももこう思うはずだ」と決めつけてしまうことを指します。このように、親のレンズで子どもの気持ちを決めつけた言い方をしてしまうと、子どもは逃げ場がなくなり、余計に回復に時間がかかってしまうことになります。

わが子が五月病かも?と思ったときの2つの対処法

五月病に悩んでいるのは、子ども自身ですので、その子の立場に立って、その状況を見ていくことがとても大切です。次に、親がやっていきたい働きかけを2つご紹介します。いずれも、子どもの主観、その子のレンズを最優先にしたアプローチですので、ぜひご参照ください。

その1 心の葛藤を言語化する

小さなお子さんにとっては、幼稚園も立派な社会生活です。自分だけを見てくれるパパやママがいる「家庭」とは違う場所であるということを、子ども自身、敏感に察知しています。ゴールデンウィークのような長い休みがあることで、その違いを改めて実感することになるため、4月のスタート時期以上に、抵抗感が出てきてしまうのです。

その抵抗感を理解してあげること、それが何よりの五月病対策です。

〇「久しぶりの幼稚園だから、ドキドキするよね」
〇「みんなもきっと同じようにドキドキしているね」

と、お子さんの不安感をまずはいったん受け止めて、そして言語化してあげましょう。

気持ちを言葉にしてあげることで、自分の中に渦巻いていたよく分からないモヤモヤに気づくことができ、同時に、「ママはボクの気持ちを分かってくれている」ということも伝えられます。

その2 子どもが作るママとの距離をチェックする

幼稚園や小学校低学年くらいまでは、まだまだ甘えん坊の時期。何か不安なことがあると、自ずと、ママへの距離を縮めてきます。たとえば、いつもの距離を10としたら、それが今日は8なのか12なのか、それを察知する力をつけましょう。

子どもが親に求める距離感というのは、常に変わっています。いつもは10なのに、ゴールデンウィーク明けに、いきなり3に縮まったりすることは非常によくあります。「昨日大丈夫だったから、今日も大丈夫」と決めつけずに、その日ベースで、お子さんがママに求めてくる距離を大事にしてあげてください。

不安解消のつもりで、ママに近づいたのに、「ほらしっかりして」なんて言われてしまうと、子どもは気持ちの行き場を失ってしまいます。受け入れてもらえれば、それだけで気持ちの処理が少しずつ進みます。

まずは、お風呂に入ったり、抱っこしたり、膝に乗せて一緒にテレビを見たりと、スキンシップを通して、親子のつながりを分かりやすく提示し、不安感をリセットすることを優先しましょう。「いってらっしゃい!」と背中を押すのは、それからです。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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