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子育て心理学のプロに聞く!思春期の入り口、子どもの「コンプレックス」とどう向き合うべき?

子育て心理学のプロに聞く!思春期の入り口、子どもの「コンプレックス」とどう向き合うべき?

もうすぐ思春期という9歳、10歳の時期。この頃から劣等感やコンプレックスといったネガティブな感情で悩む子が出てきます。そこで今回は、そんな子どもたちのコンプレックスに対し、親として心がけていきたいことを見ていきたいと思います。

日経DUAL記事

この時期にコンプレックスや劣等感が生じるわけ

小学校の半ばを過ぎたあたりから、子どもたちは友だちとのつながりにより大きな重きを置くようになります。それに伴い、自分と相手を比べ、コンプレックスや劣等感、あとは妬みや嫉妬といったネガティブな感情を持ちやすくなってきます。「他者と比べて自分はどうか」このような比較をしてしまうのは、この時期の認知面の発達も関係しています。

これまでにこのシンガファームのサイトで何回も取り上げているピアジェ博士の理論。これに当てはめると、小学校中学年の子は“具体的操作期”と呼ばれる認知発達段階にいることになります。この時期の特徴は、「脱中心化」。それまでの自分を中心に据えた主観的な物の見方から脱皮し、さまざまな情報を絡ませることが可能になってきます。その中の一つの成長が、「系列化」と呼ばれるものです。それに伴い、高さや重さのような客観的な基準に沿って物を順序づけることができるようになってくるのです。

順番に並べられることは比較を容易にさせます。つまり、「自分は○○ちゃんより大きい」とか、「○○君は自分より点数が高い」のような見方を促すことになるのです。思春期の入り口は友だちや仲間といった家族以外の対人関係が重要視されるようになるため、友だちと自分を比べることが増えていきます。そして、他の子との比較を通して自分を見たとき、自分の方が劣っているという感覚を得たときに、劣等感が生じやすくなるのです。

子ども自身のコンプレックスへの対応策

“コンプレックス”という言葉を心理学辞典で調べると、「無意識下で自我を脅かすような心的内容が一定の情動を中心に絡み合って構成されるまとまりのこと」と載っています。これだとちょっとイメージが湧かないかもしれません。言い換えれば、自分にとって受け入れ難い心理的要素がコンプレックスとして無意識に抑圧されている状態と言えます。

ただ、一般的に私たちが「コンプレックスだ」というときは、自分の嫌いな部分とか、人に触れられたくないことなどに使うことが多いように思います。ですので、ここでは、一般的に用いられているコンプレックスの概念に沿って話を進めていきます。

上記に記したように、小学生中学年くらいから他の子と自分を比べてネガティブな思いを持つ子が増えてきますが、この時期はやはり目で見て感じやすい部分にコンプレックスを持つように思います。
たとえば、自分の容姿に対し、

「歯並びが嫌い」
「目が二重じゃない」
「太っている」
「可愛くない」

のような思いです。そのことがもし自分の全体否定につながってしまうと(例:太っている私はもう全然ダメだ、など)、悩みはさらに大きくなってしまいます。

私がふだんカウンセリングをしていて感じるのは、自己肯定感が低い、もしくは自分を部分肯定しているような状態の人ほど、このような負の感情に悩みやすいということです。はたから見たら、非の打ち所がないような素敵な人であっても、内心は「自分はダメだ」「自分はできていない」と感じている場合があることからも、自分がコンプレックスを感じているのは、本当にダメだからではなく、自分にはそう思えてしまうからという主観性が大きく影響しているのがわかります。自分をどんな風に受け入れているかというのが、コンプレックスとの付き合いにおけるカギと言えるのです。

よって、お子さんがコンプレックスや劣等感を感じているような場合は、

・もっと引いて自分の全体像を見えるようサポートする
・全体像として自分を受け入れていく

結果的に、弱みや短所ばかりに目が行くことを避けられたり、長短ある自分を受け入れていくことにつながっていきます。

思春期の入り口の負の感情に対し親が心がけたいこと

では、具体的にはどのようなことができるでしょうか。自分への評価や自尊感情が低くなりやすいこの時期に心がけたいポイントとして、以下に4つ挙げてみました。

その1 お子さんが1つのことに執着して悩んでいるとき、もし実際に改善できるようなことであれば一緒に協力して取り組んでいく

その2 容姿のように変えられないものへのコンプレックスは、親がまずそれを受け入れる姿勢をお手本として示していく

その3 自分の嫌いな部分が気になりだすと、「だから私は全部ダメ」と全体に広げて解釈してしまう場合、お子さんの強みや長所を意識的に言葉に出していく

その4 弱みや苦手なことがあっても、それがその子の存在価値を下げるものではないことを伝える

とくに最後のポイントは自己肯定感の育みにおいて、非常に大事な部分です。 “親ばか”という言葉がありますが、親にとってはわが子が一番。これこそ、まさにその子を丸ごと受け入れているという状態です。それを言葉や行動に出して、伝えていってほしいと思います。歯並びが悪かろうが、目がぱっちりしていなかろうが、運動が苦手であろうが、そんなことでママ・パパの愛情は変わらないんだよという思いです。

そしてもし、今これを読んで、「私はわが子を部分肯定しているのかも」と感じたら、まずはそこからの脱却を意識してほしいと思います。とくに今の時代は競争社会でもあるので、子ども同士を比べてしゃかりきになってしまうことも多いものです。弱みや苦手があっても、その子の存在価値が変わるわけではないと意識することは、今こそ必要なのかもしれません。

親のコンプレックスの押しつけ

ここまで子どもが感じている劣等感やコンプレックスについて見てきましたが、最後に親自身のコンプレックスについて触れていきたいと思います。

親である私たちも、大なり小なりそれぞれコンプレックスを抱えているものです。ときにそれが、自分の中に収まらずに、子どもへの押しつけとして外に出てしまうことがあります。よく言われるのが学歴コンプレックスです。

親自身が手に入れられなかった学歴を子どもで叶えようとすることを言います。あとは結婚、出産を機に一線から退いた女性が、「学歴やキャリアを失ってしまった」と感じ、子どもで果たそうというケースもあるようです。

コンプレックスというのは無意識下にありながら、私たちの現実の行動に影響を及ぼす強さがあります。そのため、いったん「子どもに学歴を!」と思うと、子どもの意志を尊重することなく、暴走してしまうことがあるのです。

よく言われることですが、子どもの人生は子どもの人生であり、親の人生ではありません。自分のコンプレックスを子どもに押しつけて満たそうとすると、のちのち子どもが自分の人生を歩んでこなかったために思い悩むことが増えてしまいます。自分では気づかぬうちにということもあると思いますので、この機会に自らのコンプレックスに目を向けてみるのもいい気づきにつながると思います。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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