他人との境界線「バウンダリー」を重視したアメリカの家庭教育とは?

他人との境界線「バウンダリー」を重視したアメリカの家庭教育とは?

相手に嫌なことをされてもうまく断れずに我慢してしまう経験、誰にでもあるのではないでしょうか。自立心を尊重するアメリカでは、他の人に踏み込まれたくない心やからだの領域を明確にする「バウンダリー」という考え方を重視。自分の心を守り自己肯定感を育むために、小さい頃から家庭や学校でバウンダリーについて教えます。今回はバウンダリーとは何か、子どもにどのように教えたらよいかを紹介します。

幼少期から自分の心とからだを守ることを学ぶ

バウンダリーとは、自分と他の人との間にある「ここから先は入ってこないで欲しい」という心とからだの境界線のことです。

この境界線は自分の気持ちや行動、時間、空間などを守るためのもので、他の人がそれを越えて侵入してくると不快感、不安感、恐怖などを覚えることがあります。

例えば、あだ名で呼ばれる、急に抱きつかれる、触られる、持ち物をねだられるなど、相手に悪気がなかったとしても、自分が「嫌だな」と感じたなら、それはバウンダリーが侵害されたサインです。

こうした行為に対しては、「嫌な気持ちになるのでやめてほしい」とはっきり言うことが大切です。相手が傷つくかも、とためらう人もいるでしょう。

しかし、心は目に見えないからこそ明確に気持ちを伝えることが必要であり、それによって相手も理解しやすくなります。

アメリカの子どもたちは、幼い頃からバウンダリーの大切さや伝え方、そしてその先にある健全な人間関係の築き方を学びます。

幼稚園ではバウンダリーの歌を通して伝え方を学んだり、小学校では実際の場面を想定したロールプレイで練習したりしています。

家庭でのバウンダリーの教え方

家庭でのバウンダリーの教え方

ここでは、家庭で子どもにバウンダリーについて教える方法を3つのステップに分けて紹介します。

1. バウンダリーという概念を教える
まず、「バウンダリーとは何か」を説明しますが、視覚的にイメージしやすい方法が効果的です。ぬいぐるみを2つ用意してその間にテープを貼り「ここが境界線だよ」と見せたり、子どもを包むシャボン玉のようなバリアを絵に描いて「これが自分を守ってくれるバウンダリーだよ」と伝えたりすると、理解しやすくなるでしょう。

またバウンダリーは人によって違い、目に見えないものだからこそ相手にきちんと言葉で伝えることが大切だ、という点も一緒に教えます。

2.バウンダリーの侵害について考える
相手にされたことを「嫌だな」と感じたら、それは自分のバウンダリーを侵害されているのだということを説明します。例えば、「宿題を見せてと言われて断り切れなかった」「プロレス技をかけられたのが嫌だった」など、具体例を挙げるとわかりやすくなります。

このような話をすることで、これまでうまく言葉にできなかった不快な気持ちについて、「あれは自分のバウンダリーを侵害されたから嫌だったんだな」と子ども自身が気づけるようになります。

3.「やめて」と言っていいことを伝える
最後に、「嫌だと感じたら、はっきり『やめて』と言っていいんだよ」ということを、子どもにしっかりと伝えます。子どもにとって、自分の気持ちを言葉にするのはとても勇気がいること。しかし、「ここまでは大丈夫、でもこれ以上は嫌」といった自分なりの線引きを相手に伝えることは、良好な人間関係を築くうえでとても大切だと説明します。

また、自分のバウンダリーを守ることと同じくらい、他人のバウンダリーを尊重することも大事だということも忘れずに伝えましょう。

いざという時に向けた練習方法3選

いざという時に向けた練習方法3選

バウンダリーの大切さは頭でわかっていても、いざというときに言葉にするのはなかなか難しいものです。ここでは、子どもが上手に伝えられるようになるための3つの方法を紹介します。

レベル1:フレーズを練習する
まずは、バウンダリーを伝えるための基本フレーズを、親子で一緒に声を出して練習してみましょう。

アメリカの子ども向けの歌では、以下のようなフレーズが繰り返し出てきます。

・〜するのはやめてほしいな。
・私はあまり好きじゃない。
・〜はいいけど、〜されるのはちょっと嫌。
・今のは大丈夫じゃないよ。
・少しの間、一人にしてくれる?

こうしたフレーズを練習しておくことで、いざというときに自然に口に出せるようになります。

レベル2:ロールプレイング
子どもの身の回りで起こりそうな場面を考え、役を決めてロールプレイングで練習してみましょう。

例)
友人「キラキラの消しゴムいいな! いっぱいあるんだからピンクのちょうだい」
子ども「これはお気に入りだからあげられないよ。ブルーのならあげてもいいよ」
友人「えー、ピンクのがいい! 友達なんだからいいでしょ?」
子ども「ママが買ってくれたお気に入りだから、ダメだよ」

このように、自分のバウンダリーを伝えるときは、「どこまでがOKで、どこからNGなのか」を明確にすることが大切です。

もし相手が何度も境界線を越えようとしてきたら、同じことを繰り返し伝えます。それでも改善しない場合は、相手との会話を終わらせたり距離を取ったりして、自分を守ることも必要です。

レベル3:家族で実践し、使い方を学ぶ
家族の間で、お互いバウンダリーを伝え合う練習をしてみましょう。一緒に暮らしていると、兄弟間や親子間、夫婦間で小さなトラブルはよく起こりますよね。

そんな時は感情的に怒り合うのではなく、何が嫌なのかを言葉で相手に伝えます。家族で互いにバウンダリーを意識したコミュニケーションに取り組んでみてください。

まとめ

バウンダリーは、人間関係のストレスを軽減し、よりよい関係を築くためにとても重要です。

自分の気持ちを大切にしつつ相手にもていねいに伝えることは、子どもだけでなく大人にも身に付けて欲しいスキルといえます。

今回紹介した練習方法を通じて、家庭でも楽しみながらバウンダリーの伝え方を試してみてはいかがでしょうか。

執筆者:長谷川 サツキ

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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