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セルビアのギフテッド教育、才能ある子を伸ばすサマーキャンプとは?

セルビアのギフテッド教育、才能ある子を伸ばすサマーキャンプとは?

ヨーロッパの中央に位置する旧ユーゴスラビアの国、セルビア。この国の西部に位置する小さな村「ぺトニツァ」では才能ある子どもたちを対象に、毎年サマーキャンプが行われています。政府や企業もサポートする“ギフテッド教育”ともいえるこの取り組みについて、その内容や狙いをお伝えします。

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理系が中心のプログラムで海外からの留学生も

ぺトニツァで実施されているサマーキャンプの目的は子どもたちの才能を発掘し、彼らにとっての“より良い教育”をサポートすることで、35年以上も前に始まりました。運営母体の「ISP」は1982年創設の研究施設で、当時の教育実態に満足しない教員や生徒たちによって設立されました。旧ユーゴスラビアでは初の独立した研究施設であり、これまで行われたプログラムの参加者数は合計で約5万人にもなります。

参加対象年齢は14歳〜20歳に設定されています。キャンプやワークショップはすべて夏に行われますが、期間は3日間から15日間までと、短期集中型から2週間かけてじっくり課題に取り組むものまであります。現在はセルビア国内だけでなく、旧ユーゴスラビア諸国の500を超える学校から毎年約2,000人が多様なプログラムに参加。ドイツ、クロアチア、イスラエル、イタリアからの留学生も受け入れています。

彼らが集中的に学ぶのは、化学、物理、生物、天体、数学、ITなどの理系分野が中心です。年齢ではなく、それぞれの興味に応じてグループが構成されて1つの課題に取り組むため、同じグループに異なる学年の子どもがいることになります。

参加できる条件と費用は?

参加条件は、学校からの推薦状や成績表、本人の履歴書、興味分野や志望動機について記述したエッセイを提出することです。参加にあたっては、もちろんある程度の学力が求められますが、プログラムをやり遂げるのに必要な忍耐力や、何よりもその分野に対する熱意と好奇心を持っていることが重要視されています。

費用については、例えば14歳の子どもが参加する場合、保護者が支払う金額は約2週間のプログラムで2万2,000円程度です。セルビア政府や国内のスポンサー企業などによる経済的サポートのおかげで、参加者が負担する金額は実際の金額の4割程度となっています。

自然に囲まれ充実した生活環境で伸び伸びと学習

ぺトニツァは、首都のベオグラードから100kmほどの場所に位置します。美しい川や湖、洞窟などが近くにあるため、屋外での学習も念頭に置いてサマーキャンプ用の施設がつくられました。

豊かな自然に囲まれた人里離れた場所で、子どもたちは英気を養い、学びに没頭することができます。施設は大学のキャンパスさながらで、研究施設のほか宿泊所、食堂、図書館(蔵書約5万冊)が完備されるなど、生徒たちの学習意欲に応える環境が整えられていることも特徴です。

専門家の指導や能動的な学びで情報収集力や問題解決力を培う

ぺトニツァで展開されているプログラムの狙いは、子どもたちが知識や経験を身につけることだけでなく、論理的に考える力や、情報収集力、問題解決力など実践的な能力を獲得することにあります。能動的な学びが重要視されているため、教員は指導というよりもサポート役に徹します。

子どもたちは自分で課題を設定し、ときには異なる国や文化圏のクラスメイトとともに、アイディアや知識を交換し合い、柔軟に発想し、批評的に思考することを促されます。他者との関わりを通して課題に取り組むことで、物事を観察する力、正しい情報を集める技術、議論する力やコミュニケーション能力を身につけていくのです。

ちなみに、一般的にセルビアの学校の授業は理論を中心に学ぶことが中心で、クリティカルシンキングやディスカッション、実験などが行われる機会はさほどありません。

しかし、ペトニツァでは、頭で理解した内容を自分の目で実際に確かめ、ほかの子どもとともに理解を深め合う機会が持てます。同じように特別な才能を持つ同じ年頃の子どもたちと一緒に学び、交流できるということも大きなメリットです。さらに、学問分野への興味の深さや学力の高さから、通常の学校では浮いてしまいがちな子どもにとって、自分の能力を伸び伸びとと発揮できる場所となっていることも事実です。

指導に当たるのは、大学や研究開発機関から吟味されて派遣された何百人もの教員です。学校の教員ではなく、専門分野で研究を行う経験豊かな人たちからダイレクトに指導が受けられることは、子どもたちにとって大きな刺激となります。

ぺトニツァで学んだ生徒のなかは、研究者となって大学や研究機関に勤める人も多くいます。この施設で学んだ子どもがやがて学問を修め、教える立場として戻って来ることも珍しくないそうです。

まとめ

ペトニツァのプログラムに参加したとしても、その後の就職活動が特別に有利になるわけでもなく、学位や証明書がもらえるわけではありません。しかし、自ら学ぶ意欲をかき立てられ、課題に取り組んだ刺激的な体験は、将来に向けた大きな糧となるにちがいありません。

仮説を立てて検証すること、革新的なアイディアを考えること、他者と議論しながら解決策を探ることなど、ここで培われた能力は、今後の先が見えない不安定な時代を生きていくうえでも大いに役立つと思います

【参照URL・画像提供】
http://petnica.rs/
https://www.youtube.com/watch?v=1Po4Mih_iRg&t=8s

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