子どもの愛着形成、5歳までがカギ? 公認心理師が解説する親子の絆の育て方

愛着障害とは、乳幼児期に親との愛着形成がうまくいかず、心に問題を抱えてしまう精神疾患のこと。愛着に関する発達の傾向は、生後9ヵ月〜5歳の間に見られることが多いとされています。
愛着の形成に課題があると、自尊心や社会性に影響を及ぼすケースもあるため、大きくなってからも生きづらさを感じやすくなります。
この記事では、愛着障害について詳しくお伝えしつつ、愛着形成のポイントを、公認心理師の佐藤めぐみさんに解説していただきます。
※本記事では診断を目的とせず、あくまで育児の参考としてご活用ください
愛着障害とは?
愛着障害とは文字どおり愛着に障害があることを指しますが、ここで言う“愛着”とは、子どもが特定の人に持つ情愛のこと。基本的には親子間で生じるケースが多いです。
なぜなら、親は幼い子どもにとって“安全基地”の役割を果たし、たとえば、嫌悪感や恐怖感を抱いたり 、不安になったりしたときに、そこに戻って気持ちを落ち着ける存在となるためです。
幼い子どもにとっての心のよりどころは何よりも大切なものですが、この機能が阻害されているのが愛着障害です。
医学的には、
①反応性愛着障害
②脱抑制型愛着障害
の2種類があり、生後9ヵ月以上5歳未満の子が診断の対象となります。
※世界保健機関(WHO)が作成した「国際疾病分類」の最新の分類ICD-11では①反応性アタッチメント症、②脱抑制性対人交流症へと名称を変更しています。
【愛着障害になる3つの原因】
愛着障害になる主な原因としては、以下の3つがあると言われています。
1.社会的ネグレクト → 子どもの基本的な情動欲求が親(主たる養育者の意味)によって満たされることが持続的に欠落している状態
2.養育者の頻回な変更 → それにより、安定した愛着形成の機会が制限されてしまう状態
3.一般的でない状況における養育 → 養育者に対して子どもの比率が高い施設など、愛着を形成する機会が極端に制限されてしまっている状態
・アタッチメントが弱化している状態=愛情不足と言われています。愛情不足に関しては、こちらの記事もご覧ください。

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愛着障害の子どもの特徴や行動

「反応性愛着障害」「脱抑制型愛着障害」という2つの愛着障害は、子どもの行動傾向に大きな違いがあります。
【反応性愛着障害の場合】
・相手が親であっても距離を取ろうとする
・安心や慰めを求めるために親に抱きついたり、泣きついたりすることがほとんどない
・ポジティブな感情に乏しく、笑顔が見られない
・他の子どもにも関心がなく、自分から交わろうとしない
【脱抑制型愛着障害の場合】
・見慣れない大人にためらいもなく近づき、ついて行こうとする
・他の人になれなれしく話しかけたり、抱きついたりする
・不慣れな場所でも親から離れ、振り返ろうとしない
このように、2つの愛着障害の行動傾向に違いはありますが、その根底にはどちらも共通して、本来なら自分を誰よりも肯定してくれるはずの養育者(親)と信頼ある愛着関係が形成できないことで、自尊心や社会性などの大事な資質が適切に育たずに成長してしまっているという点です。
そのため、大人になってからも、自分に価値を見出せなかったり、他人とうまくコミュニケーションが取れなかったりと「生きづらさ」を感じやすくなってしまうのです。
・わが子の情緒不安定に悩む方はこちらの記事もご覧ください。

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愛着障害のチェックリスト

私の相談室では、最近になって「うちの子は愛着障害なのではないか」と相談されることが増えてきました。
“愛着障害”という具体的な疾患名を親御さんが知っていることに驚かされるのですが、今はネットで専門的な情報も得られる時代なので、その言葉を見聞きして「わが子もそうではないか」と気になってしまうようです。
実際は、愛情不足の状態であったり、一時的に愛着関係がこじれていたりすることがほとんどです。
今読んでくださっている方の中にも気になっている方はいらっしゃると思うので、ここで愛着の傾向を確認するためのチェックシートを作ってみました。現状と照らし合わせてチェックしてみてください(生後9ヵ月以上の子を対象としています)。
【反応性愛着障害チェック】
▢苦痛を感じている場面でもめったに親に慰めを求めない
▢慰めを求める場合でも最小限に留める
▢親が慰めても、めったに反応しない・反応が非常に弱い
▢他者に対して感情や関心をほとんど示さない
▢嬉しいことがあっても、笑う・喜ぶことが少ない
▢特に脅かされていない状況でも、突然いら立つ・悲しむ・怖がることがある
【脱抑制型愛着障害チェック】
▢見知らぬ大人に対するためらいや警戒心が著しく少ない・全くない
▢初対面の大人に接近したり、なれなれしい言葉づかいをする
▢不慣れな場所でも親の存在を振り返って確認しない・最小限しか確認しない
▢はじめて会った人にも、ためらいなくついて行こうとする
さらにどちらにも共通することとして、
A.これらが5歳以前から見られた
B.これらの行動傾向が、①社会的ネグレクト、②養育者の頻回な変更、③一般的でない状況における養育が原因となって引き起こされている
が挙げられます。このチェックシートはあくまで行動観察のツールですが、もしAとBの2つが当てはまり、さらに上記の行動傾向も当てはまったり気になる点がある場合は、一度医師など専門家に相談することをおすすめします。
・わが子への愛情が足りてるか気になった方は、こちらの記事もご覧ください。

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実際の診断基準を見ていただくと、愛着障害がいかに深刻なものかがおわかりいただけると思います。愛着障害というのは、子どもの心理発達において“よほどの状態”であり、基本的にほとんどの方が「愛着障害ではない」となるはずです。
ただ中には、「親子関係がいい状態ではない」という方もいるかもしれません。
愛着障害は深刻な疾患であり愛情不足とはレベルが違いますが、同じ線上にあるものと理解し、現状を振り返るきっかけにしてほしいです。わが子と安定した愛着を形成するためのポイントを年齢別でお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
◆0歳児期
赤ちゃんは0歳のときに、初めて愛着を形成します。その際にカギになるのが応答感受性というものです。応答感受性とは、赤ちゃんの様子に合わせて、どれだけ周囲が反応よくリアクションできているかを指します。
次の2例を比較してください。
「自分が行動を起こしたことで、周りが反応してくれる」ことで自分の存在や力を信じられるようになり、将来的に自己肯定感や自己効力感につながります。
また、2つを比べると、どちらが「信頼置ける相手か」と言えば、1つめですね。それが赤ちゃんにとって「この人は特別な人!」となり、愛着が形成されるのです。
もちろん常に100%反応できるかと言ったら、それは誰にとっても難しいものです。100%じゃないから愛着ができないということではなく、現実的には、「できる限りのベスト」を目指します。特にまだ自分で動けない0歳児期は「察して反応すること」を心掛けましょう。
◆1歳以降
1歳を過ぎて歩けるようになると、パパやママのところまで行き、自分の欲求を伝えられるようになってくるので、応答感受性よりも、
・一緒に遊ぶ
・スキンシップをする
・コミュニケーションを取る
など、幅を広げた関わりがおすすめです。
さらには、愛着を形成している相手(親)はその子にとっての安全基地としての機能があるので、日々のさまざまな体験の中で生まれる「どうしよう!」「困った!」という戸惑いを一緒に受け止めて和らげてあげることも大切なポイントです。
・子どもが健やかに成長する上での大切な土台となる乳幼児期の愛着形成に関してはこちらの記事もご覧ください。
5歳までの関わりが重要!

愛着障害は非常に過酷な状況に置かれた場合に起こる子どもの心の疾患です。こうした困難な状況は多くの場合、子ども自身の力ではどうにもできないものであり、大人による支援が必要です。
基本的にはほとんどのご家庭が該当しないはずですが、だからと言って、愛着形成を軽んじていいということではありません。診断基準で「5歳以前に明らかになる」と明記されているということは、5歳までの関わりがいかに大事かを意味しています。
愛着障害とまではなっていないけれど、「愛情が不足しているかもしれない」「少し揺らいでいるかもしれない」と感じた方は、日々の子どもとの接し方を見直していきましょう。

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育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/