教育で人生は変わる。ノーベル賞受賞者が提唱する幼児教育「ハイスコープ・カリキュラム」とは?【前編】 

教育で人生は変わる。ノーベル賞受賞者が提唱する幼児教育「ハイスコープ・カリキュラム」とは?【前編】 

「5歳までの環境が人生を決める」。これは、2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学・ヘックマン教授の言葉です。教授は、「子どもは幼児期に質の高い教育を受けることで人生のクオリティが向上し、家族の幸福度も上がる」と分析しました。この研究に採用された幼児教育が、「ハイスコープ・カリキュラム」です。今回は、多くの国の教育現場に取り入れられているこのカリキュラムを深く掘り下げ、前編ではカリキュラムの内容と解説を、後編では家庭での取り組み方を事例とともに紹介します。

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幼児時代に受けた教育がその後の人生にも影響

「ハイスコープ・カリキュラム」の特徴は、子どもが自ら積極的に参加して体験していくアクティブラーニングが中心となっている点です。遊びを通してさまざまなことを体験し、学習内容を計画・実行しながら問題解決能力や意思決定力を育んでいきます。

「ハイスコープ・カリキュラム」は、ノーベル経済学賞を受賞したジェームス・J・ヘックマン教授が、幼児教育の研究プロジェクトで採用したものです。1960年代にアメリカで実施されたこの研究プロジェクトによれば、ハイスコープ・カリキュラムに参加した子どもたちは参加しなかった子どもたちに比べ、知識や非認知能力が大幅に向上したとされています。

その後、ハイスコープ教育研究財団による50年以上にわたる追跡調査で、2021年7月に追跡調査結果の論文が発表されました。参加した子どもたちは大人になっても収入・就職・健康など多岐の分野において、よりよい生活を手に入れていたことがわかりました。わずか2年ほど受けた質の高い幼児教育によって、生涯にわたるアドバンテージを得られたのです。

現在のアメリカで、ハイスコープ・カリキュラムは信頼性の高い幼児教育プログラムとして推奨されています。OECD(経済協力開発機構)の「科学的根拠のある世界5大幼児教育カリキュラム」のひとつに数えられるなど、世界的にも知名度の高い学習方法として認知されているのです。

ハイスコープ・カリキュラムが評価される3つの理由

さまざまな教育方法があるなか、ハイスコープ・カリキュラムが高く評価されている理由としては以下が挙げられます。

1.子どもの能力を包括的に伸ばす

ハイスコープ・カリキュラムは、ただ成績を伸ばすだけ、知識を増やすだけの教育方法ではありません。子どもの人生をより豊かにし、家族の幸せを促進することを目標としており、情緒、親子関係、コミュニケーション力、問題解決能力、健康など、多岐にわたる子どもの能力を包括的に伸ばす取り組みを行います。

2.子どもの自己肯定感を高める

ありのままの自分を肯定できるか否かは、幸福感に多大な影響を及ぼします。大人が子どもの言葉に耳を傾け、そこからさらに話題を引き出し、お互いに認め合いながら関わりあう。この経験は自己肯定感を育み、「自分は認められている。自分はこれでいいんだ」と自分自身を受け入れられるようになります。幼児期に培った自己肯定感は大人になっても持続しますから、生涯にわたって幸福感を得やすくなります。

3.子どもが能動的に行動できるようになる

社会のグローバル化が進むなか、自ら考え行動する力はこの先ますます重要です。カリキュラムを通して「子どもが自ら能動的に考え、計画し、行動する」というプロセスを毎日のルーティーンに組み込むことで、物事に対して自ら動く習慣が身に付きます。

カリキュラムの軸は「アクティブラーニング」

ハイスコープ・カリキュラムは、アクティブラーニングという学習方法を採用しています。絵や文字を通して覚えるのではなく、人、物、アイディア、イベントなどを自分が実際に体験することで真の知識を築いていくのです。カリキュラムの中核となるルールを見てみましょう。

1.「5つの要素」を常に意識

大人は、以下の5つの要素が全て満たされているかどうかを常にチェックする必要があります。

・材料の準備…子どもの成長レベルに合った素材が用意できているか
・実際に触れる…見るだけでなく、実際に手で触れて調べられるか
・選択する…扱う材料、遊び相手、遊び方など、子どもが自分で選べるようになっているか
・言語と思考…子どもの言葉・行動・表現等から、何を理解し何を考えているかを分かろうとしているか
・”足場”の設置…子どもが次の学習レベルにステップアップする際、大人が足場作りをして適切にサポートできているか

2.「プラン→実行→振り返り」の3ステップ

重視されている取り組みとして、「子どもその日の活動をプラニングし、実行し、最後に結果を振り返る」という学習法があります。興味があることに対し目的を持って実行するので、漠然と遊ぶ時よりも集中力や処理能力が発揮され、活動的に取り組めます。終了後にその日の活動を振り返ることで、新たな気付きやアイディアが生まれ、これを繰り返すことで子どもの持つ能力を伸ばしていきます。

3.対話式アプローチ

大人が子どもに一方的に知識を与えるのではなく、お互いに対話しながら学びを深めます。大人は「どうしてこんな形なのかな?」など、子どもの興味を引き出すことを意識しながら、より広く深く考えられるようサポートします。

4.バランスの取れたスケジュール作り

1日のスケジュールを決め、子どもはその予定に沿って過ごすことで社会的なスキルを身に着けます。ひとりで課題に取り組む時間、ほかの人と一緒に過ごす時間、外で体を動かして楽しむ時間、片付けや手伝いの時間など、バランスのよい日課をつくることが重要です。

まとめ

ハイスコープ・カリキュラムは世界でも高く評価されており、アメリカ以外にも世界10ヶ国に支部が設立されています。日本での知名度は決して高くなかったのですが、ついに日本にも2020年4月に日本支部であるハイスコープ・ジャパンが設立され、アメリカを含めると全部で12カ国となりました。「成人期の幸せにつながる質の高い幼児教育」を目指しており、今後の活躍が期待されます。

以上、前編ではハイスコープ・カリキュラムの内容や取り組み方について解説しました。後編は、いよいよ実践編です。家庭での取り組み方や体験談を紹介しますので、そちらもぜひご参照ください。

後編はこちらから。

<参照URL>
https://highscope.org/
http://highscope-japan.org/
https://www.sentankyo.jp/articles/d055eb0d-2652-46d6-ae53-e9e4def1a5a5
https://note.com/kogamouse/n/ne824659a675e
https://heckmanequation.org/www/assets/2019/05/F_Heckman_PerryMidlife_OnePager_050819.pdf
https://heckmanequation.org/www/assets/2021/11/F_Heckman_Perry-2021_OnePager_092321.pdf

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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