就学前からでも自宅で一緒にできる!!アメリカ理系教師に聞く「早期STEM教育の始め方」/後編

就学前からでも自宅で一緒にできる!!アメリカ理系教師に聞く「早期STEM教育の始め方」/後編

前編では、親が日常生活のなかで「STEM教育」へ結びつけていく方法についてお話をしてきました。

後編も引き続き、自分のお子さんが興味と楽しさを持って学ぶためのツールとして、博物館やスクリーンタイムを利用した方法など、 現役の理系教師でもあるパトリック・スレーター氏から伺った話とともに早期STEM教育の基礎を行うために必要なことをご紹介していきたいと思います。

日経DUAL記事

博物館は「STEM教育のベース」作りに格好の場所

筆者の住むニューヨーク・ニュージャージーエリアには、映画「ナイトミュージアム」の舞台にもなった「American Museum of Natural History(アメリカ自然史博物館)」や、「Museum of Math(数学博物館)」、「Liberty Science Center(リバティーサイエンスセンター)」があります。そのためSTEM分野を含めた、子どもの好奇心をくすぐる博物館には、定期的に家族で足を運んでいます。

これらでは、至るところで物の作りや働きの仕組みが、子どもにもわかりやすい言葉で説明されています。前回、リバティーサイエンスセンターに足を運んだときは、パイプと熱を利用したおもちゃのロケットを飛ばす実験をしていたところで、子どもたちはその仕組みの解説を熱心に見つめていました。

同様に、筆者が足を運んだことがある日本国内のなかで、アメリカの博物館と同様に質が高いと感じたのは、上野の「国立科学博物館」やお台場の「日本化学未来館」やトヨタの「メガウェブ」などが挙げられ、子どものみならず家族全員で楽しめました。

日本化学未来館では、ロボットが話したり動いたりする様子が実際に見られ、メガウェブ では近い将来、車に実用化されるであろうテクノロジーを体験できます。

このように博物館では、価格も比較的安価でありながら、実際に子どもが「見て・手で触れ・体験し・楽しみながら」STEMを理解できるようになっています。そして、親にとっても「理解はしていても説明が難しい子どもの質問」に答えるヒントを得られる場所でもあります。

このような体験型の博物館や展示場に足を運ぶことにより、子どもはテクノロジーやエンジニアリングが実際の生活でどのように使われ、その役割を果たしているかを知り、もっと知りたい、学びたい、という気持ちが芽生え、強い学習意欲へとつながります

「スクリーンタイム」を味方につける

米国小児科学会では、2〜5歳の子どもは「スクリーンタイム」を1日1時間以内に控え、視聴する番組なども質が高いものを選ぶよう推奨しています。

ちなみに「スクリーンタイム」とは、テレビ・タブレット・コンピューター・スマートフォンなど、画面を見る時間すべてを指します。

この時間にぼんやりアニメを見たりテレビゲームをするか、もしくは、プログラミングや同じゲームでも算数の教育ゲームなどを使うかで大差があるのは明確です。

実際に、スクリーン「学習」として使われるのは、パソコンやタブレットのインタラクティブなものが多いようです。

基本的に、テレビは一方通行になりがちなので通常あまり使用されません。さらに、この時間をどこまで許容するかは家庭によって異なり、1時間でも多いと思う方も少なくないでしょう。

しかし、子どもの興味を引きやすい「視覚的」な要素が強いスクリーンタイムは、親が使い方に配慮し上手に使えば、「STEM分野へ導くツール」となるのも事実です。

5歳以上になると、「Hop Scoth」や「Scrach」などのブロックコーディングに興味を持って、プログラミングの基礎を学び始める子どももいます。

パトリック・スレーター氏も、「高校でロボティクスクラスを専攻する子どもたちのなかにも、『Minecraft』などのゲームが好きだったという生徒が多いです。STEM分野に興味を持つ子どもたちは『いい仕事につながるから』勉強するのではなく、自分の『好きなことや興味』の延長線上にSTEMがあり、それが自然と学問や仕事へ繋がる事が多いようです」と話していました。

親の好奇心と最良の声かけが「学びのチャンス」を生む

イリノイ大学の幼児教育部門の教授であるLilian G. Katz氏は、「受動的な教育方法から離れ、子どもが能動的に参加、自分の力で学ぶ環境を整えることが最も効率的な教育方法である」と、自身の論文「STEM in the Early Years」でも述べています。

ただ、誰かに漫然と教えられるよりも、自分の意思で「知りたい」、「やってみたい」と思える環境を、そばにいる親がいかに与えられるか、その大切さを知ることが重要です。

また、「Boston Children’s Museum(ボストン・チルドレンズ・ミュージアム)」による『STEMガイド』には、「子どもが率先して物事を観察できるように、正解を求める『Why(なぜ)』ではなく、 『What(何)』の質問をするよう心がけましょう。」と書かれています。

例えば、「アリはなぜ一列に並んで進むのでしょう」ではなく、「アリは何をしているの? どうやって動いているのかな?」と言った具合です。

そこから、子どもは注意深く観察を始め、その理由を自分で探し説明する努力を始めます。

さらに、大人からすれば取るに足らないことや、自分が苦手なものや生き物だったとしても、子どもが見つけ興味を持った瞬間から、親も興味と好奇心を持って接する努力をすることも大切です。そして、一緒に観察したり調べたり、考えることがより深い学びを育む「チャンス」となります。

親が好奇心や関心の目を持って接することは、子どもの「興味の芽」をSTEMへつなげる架け橋ともなり、子どもは自ら「なぜ」を見つけ出し、答えを探し求める姿勢も育っていくのです。

子どもは親の姿を驚くほどの観察力を持って見ています。親が嫌がっているものやつまらなそうにしているものに対して、親と同様に観察や興味の目を失いがちになり、チャンスから遠ざかってしまいます。

STEM教育は学校での「専攻科目」としても注目され、課外キャンプやクラスなどが数多く存在しています。しかし、幼児や低学年の子どもへSTEM教育を行うにあたり、特別な「道具や環境」ばかりに目を奪われる必要はないのです。

むしろ、家の周りの公園や自然のなかを散歩して「観察の目」や「経験の時間」を育てる環境を整える方が大切です。そのなかで例えば、蜂の巣と亀の甲羅に、「六角形」という共通点があることを親が導いてあげましょう。

お湯が沸く瞬間やボールが地面を跳ね返る瞬間といった、ごく当たり前のことに目を向ける感覚を育ててあげることも重要です。

まとめ

現在は、上述のようなSTEM教育にまつわる教室などが低年齢向けにもたくさんあります。親子でそこへ出向けば、親が子どもとの接し方を学ぶチャンスにもなるかもしれません。

しかし、生活や会話のなかで、いかに子どもの意識をSTEMへ向けてあげられるか、よりいい質問を投げかけるか、好奇心を育てられるかは、当然のごとく、日常を共にする親が「キーマン」となるのは間違いありません。

小さな子どもがSTEMの基礎を築くうえで、親が最上の講師となって導いていけば、後は子どもが自分の意思と興味を持って、自然と深い学問の道へ進んでいくでしょう。

参考リンク:
http://www.patrickslater.info/
https://kids.nationalgeographic.com/
https://www.amnh.org/
https://momath.org/
https://lsc.org/
http://www.kahaku.go.jp/
http://www.miraikan.jst.go.jp/
https://www.megaweb.gr.jp/
http://ecrp.uiuc.edu/beyond/seed/katz.html
https://en.wikipedia.org/wiki/Lilian_Katz
http://www.bostonchildrensmuseum.org/sites/default/files/pdfs/STEMGuide.pdf
https://www.aap.org/en-us/about-the-aap/aap-press-room/Pages/American-Academy-of-Pediatrics-Announces-New-Recommendations-for-Childrens-Media-Use.aspx
https://scratch.mit.edu/
https://www.gethopscotch.com/
https://minecraft.net/en-us/

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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