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STEM教育にArt思考を取り入れたN.Y「Blue School」の教育現場とは?

STEM教育にArt思考を取り入れたN.Y「Blue School」の教育現場とは?

日本でも、学校での教育や教室などで定着しつつあるSTEM教育。そして、ここ数年のニューヨークでは、この教育にArtを加えたSTEAM教育、Robotics(ロボット工学)を加えた「STREAM教育」が主流になってきています。

AIが職業に参入するなどテクノロジーの発展が著しい昨今、教育現場ではロボットでは成り代われないクリエイティブな思考、人工知能を使いこなす能力が必要となってくることを見越しており、幅広い思考を持てる子どもたちを育てていこうという傾向にあります。

今回はそんななかで、子どもたちのクリエイティビティを伸ばそうと、BLUE MAN GROUP(以下BMG)がニューヨークのマンハッタンに設立した学校「Blue School(ブルースクール)」をご紹介していきたいと思います。

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クリエイティブ的思考を重視している「Blue School」とは?

BMGは1991年に顔を青く塗った3人が路上パフォーマンスを始め、日本でも過去に公演履歴もあるパフォーマンスアート集団です。

アート・音楽・コメディー・テクノロジーを、人とのつながりや興奮へ昇華させるショーで、ダウンタウンのクラブやアスタープレイス劇場での公演を経て全米ツアー、そして世界公演へと舞台を拡大、あらゆる賞のノミネートといくつかの受賞もしました。

そんなBMGは2006年にマンハッタンに学校を設立。2〜4歳までのプリプライマリースクール、キンダーと5歳のプリスクール、2015年には、6歳〜8年生までの子どもが通えるミドルスクールも開校。そして、2017年7月にはカナダ・ケベック州に本拠を置く「シルク・ドゥ・ソレイユ」に買収されています。

ブルースクールの教育理念や学校の考え方

ブルースクールは世界を変えるための再創造教育を目指し、調和がとれた持続可能な世界を創り上げる、そして革新的で挑戦的な考え方ができる子どもたちを育てるというビジョンを持っています。

さらに、そのなかでクリエイティブかつ楽しい、思いやりあふれる学びの場を提供するとしています。

もともとニューヨークにある学校は、先生が教えるというより、子どもたちの好奇心や探求心に対し手を差し伸べ導く存在が理想であるというところが多いようです。そのニューヨークでもとくにここは、教師は訓練を受けたプランナーであり、即興のプロです。

即興を軽々とこなすために経験力や訓練、準備と計画が必要になり、時には先生自体も未知の実験を通して共に学び、受動的な授業となりすぎないようにしています。

参加型のプロジェクト学習や、疑問を覚えたことを自らの力でリサーチし考えるという探求型の学習を採用しています。驚くことに、これが子どもの学びを遊びの延長感覚として、勉強嫌いを減少させることにも役立っているのです。

”ユーリカ!” という言葉があります。これはアルキメデスが何かを発見したときに叫んだ言葉で、日本風では頭に電球がつき、そうか! わかった!というような、何かにひらめいた瞬間の様子と言えます。

ブルースクールでは「ユーリカは偶然生まれた産物ではなく、日々の実験や発想豊かな思考から生まれるもの」と考えています。同時に「天才」は能力とはみなしていません。

子どもたちは、大きな疑問とそれぞれの個性、また、スキルを磨いて得た知識から答えを探し、そんな思考のなかで天才的なアイデアや解決策を思いつくようになるのです。

そのため、先生も試したことのない面白いことを一緒に探求しつつ子どもたちの考えや推論を尊重し、想像的な閃きはそれを認め大切にします。それは、子どもたちの自信にもつながり、自分たちで調べたなかで正しいこと・間違っていること、あるいはいくつも答えがあるということを肌で感じていきます。

このような開放的な環境が、知的好奇心と溢れんばかりの創造的な活気をつくります。そして、先生を含めた学校側が自由な思考で育つアイデアのために、あらゆる体験の機会や会話を供給することが最も大事であるとしています。

ブルースクールのシステムと授業内容

授業料は年齢と通う日数によって変わり、2~3歳の子は週に何日通うか選べます。3~4歳なら半日か1日保育、キンダーからは日本の小学生と同様で週5日、8:45~15時ごろまでとなっています。下記はすべて年間授業料で、授業内容は以下のようになっています。

●2~3歳(月〜金曜までの半日保育)=$28,600
●4歳(月〜金曜までの1日保育)=$46,900
●キンダー〜5年生=$46,900
●6〜8年生=$47,700

【Science】

自然界と人間界に浸透している科学的なメソッドと不思議を授業ごとに研究していきます。

例えば、ハドソン川の深層的な調査からコンピュータータワーの建設まで、STEAMの専門家とともに動的な工学や生物学、物理学、そして生活科学を学びます。中学校では、現実に解決すべきと思われる問題を考え、個人プロジェクトとしてプレゼンをします。

【Technology】

コンピュータやタブレット、回路基板など最新技術のツールを使ってスキルを身に着けます。また昔ながらの道具、ハンマーやペンキ、ホース、粘土などの知識と使い方を学び、問題解決の仕方や地域社会をより良くする方法も考えます。

アメリカではリフォームなどを自分たちで行うことも多く、生活に密着した授業とも言えます。

【Physical Education(体育)】

肉体の動きは学習能力に与える影響が大きいとされています。そのため、元気いっぱい遊んだり運動することを推奨し、運動とダンスの授業があります。幼児期から心と体の健康習慣を身に着けることを大事にしています。

【History】

西洋文明の歴史と現在を学びます。私たちの世界に関する本質的な質問を投げかけ、みんなで考えたりします。人と文明がどのように進化し影響を及ぼし合ってきたか、科学や芸術、技術が私たちをどう形作ってきたか、そして我々はどこからきて、どこに向かうのかなども考えます。

【Mathematics】

ハドソン川の水量や月までの距離など、子どもからの溢れ出る質問に教師が自力で答えを出せるようやりがいのある研究を提案。それを通し、基本的な数学のスキルや創造力、根気を学び、練習と応用をします。数学的思考で効率を学び、その過程で推論・解決することを身に着けます。

【Language】

ブルースクールでは就学前(キンダーに上がる前)にスペイン語を学び始めます。ニューヨークでは第2言語と言えるくらい、話せる人が多い言葉です。

第2言語をタイミングよく学ぶことは、文化的・言語的にも重要なうえ、脳の柔軟性を高めることがわかっているためです。就学後も中学校までスペイン語の授業があります。

【Literacy】

言語の読み書きは、認識、共感、表現の構成要素です。文章は、目的と誰かが読むことを想定して書きます。また強いるのではなく、言いたいことがあるから書くということを念頭に楽しく学べる工夫がされています。

そして、各クラスには先生方に推薦された、楽しくて情報を詰め込んだ本がカテゴリ別に分類され、常に生徒たちの読み書き能力の向上を図るための会議を行っています。

【Arts】

音楽やスタジオアート、STEAM、ムーブメントのスペシャリストが講師となり、年間を通して大きなプロジェクトを進めます。

ブルックリンブリッジの話や19世紀の港の生き物美術館をテーマにしたダンスなどもありました。また、金管や木管楽器を吹く、衣装を作って劇やダンスをする、絵を描くなどもあります。

先生からは、その子の個性やそれに合った育み方などを個別面談で相談、共有します。また、子どもたち主体の家族との話し合いを通じ、進歩と向上が感じられるよう学校側がサポートします。

さらに、生徒たちは2歳〜8年生までの成長を記したオンラインポートフォリオを作成します。

まとめ

このように、子どもたちが自由な発想と思考を余すことなく発揮できるよう、周到に組まれたカリキュラムのブルースクール。もともと教育の本質は、子どもの周りにある環境すべてが大切であり、親と学校が協力していくことが理想です。

教育の考え方はさまざまですが、責任を押し付けあわず常に感謝の気持ちを持って協力し、子どもの将来や成長の手助けをすることが教育に必要不可欠なのかもしれません。

著者プロフィール

世界35カ国に在住の200名以上のリサーチャー・ライターのネットワークをもち(2017年12月時点)、企業の海外での市場調査やプロモーションをサポートしている。

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