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子育て心理学のプロがアドバイス! 幼児にテレビを見せる際の注意点

子育て心理学のプロがアドバイス! 幼児にテレビを見せる際の注意点

現代生活のよきパートナーであるテレビ。子どもは楽しい、親も家事がはかどる、とテレビは育児の助っ人になりつつあります。一方、「子どもの教育によくない」と、テレビを大きく制限しているご家庭も。線引きが難しい子育て中のテレビ、上手に付き合うためのガイドラインをお伝えしていきます。

日経DUAL記事

テレビは子どもにとっていいの?悪いの?

子育てはいつの時代でも大変な仕事ですし、親はいつの時代も悩みを抱えているものです。でも、悩みの質は時代で変わっていくものもあり、メディアとの付き合い方は、現代ならではのお悩みと言えます。

「テレビはいつから見せていいのか?」
「1日どれくらいなら見せていいのか?」
「何を見せたらいいのか?」

テレビは子どもが夢中になるけれど、いくらでも見ていいよとは言えない、一長一短の存在。それゆえ、「親としての判断基準が欲しい」という声は非常に多いのです。

私は、テレビをゼロにする必要はないと考えています。なぜなら、

・テレビの番組が、次の日、そのまま子どもたちの話題になる
・家事がスムーズに進むようになり、育児ストレスが減る

と親子双方にメリットがあるからです。ただ、節度は大事だというのは強く感じています。なぜかというと、エスカレートするのは簡単、減らすのは大変だからです。

コロナ禍でデジタルデバイスの視聴時間は増えている

長引くコロナ禍で画面に向かう時間が長くなったことはよく言われています。さまざまな調査で実際に数字としても表れてきており、大人も子どももオンラインで過ごす時間が増えているようです。

実際、私の相談室でも、この2年でデジタルデバイス絡みのお悩みが増えたことを実感しています。

初めての緊急事態宣言が出された2020年の春は、親はリモートワーク、子どもが休校になったご家庭で、「自分は仕事をしなくてはいけないのに、子どもが家にいるので、ついテレビやタブレットなどデジタルデバイスを頼ってしまう」というお悩みが多く聞かれました。そこには、「良いことだとは思えないけれど、それ以外に方法がない」と不本意ながらも頼ってしまう心の揺れが伺え、コロナ禍で何もかもが家に押し込まれてしまった苦悩が見て取れました。

そしてそれ以降、現在に至るまでよく聞くのが、
「際限なくテレビを見てしまう」
「そのせいで勉強がおろそかになった」
「ゲーム中に人格が変わったかのようにのめりこんでしまう」

のようなお悩みです。とくにデジタルデバイスの時間管理に悩まれている方が非常に増えたと感じています。

私が現在住んでいるアメリカでは、画面にかじりつく子どもたちを“iPad kid”と呼ぶことがあるのですが、長引くコロナ禍で子どもがどっぷりとデジタルデバイスに浸ってしまったのは世界的な現象のようです。

わが子がテレビ依存にならないために親が意識したいこと

コロナ禍で大人も子どもも画面を見る時間が増加したことが象徴しているように、デジタルデバイスにはのめりこみたくなる魅力があります。WHO(世界保健機関)が国際疾病分類の最新版「ICD-11」で、「ゲーム障害」の病名を加えたというニュースを聞いた方もいるでしょう。ゲームのみならず、テレビやタブレット、スマホもエスカレートしがちなので、子どもがそれらに触れる際には、そのことを頭のすみに置きながら、付き合っていくことが大事になります。

わが子がテレビ依存にならないようにするために、何より大事なのは、ルールを持つことです。「そんなの当たり前でしょ」と思われそうですが、意外とルールを作っていないご家庭は多いので、どんなことを気にしていったらいいかを見ていきましょう。

■視聴時間……WHOが提案するテレビの視聴時間は2~5歳で1日1時間

WHOやアメリカ小児科学会は、画面との付き合い方に気をつけるよう注意を促していますが、そこで言われているのは、
・2歳以下はスクリーンを見せないこと
・2~5歳は1日1時間まで質の良い内容を、それ以降も制限を設け、できれば大人と一緒に視聴すること
・6歳以上の子は、視聴する時間や内容を制限すること

ということです。

2歳以下はテレビを見せないというのは、日本小児学会の提言「2歳以下の子にはTVやビデオを長時間見せないように」と比べると、より厳しい内容になっているのがわかります。

いずれにしても、1日にどれくらいテレビを見せるかというルールは持っていた方が賢明で、なぜならテレビのようなスクリーン系のものは、そのような線があらかじめ設定されていない限り、ほぼ確実にずるずると延長されやすいからです。

2~6歳の子を対象に行われたヨーロッパの調査では、1日の視聴時間が1時間増えるごとに、子どもの幸福度は下がり、感情のトラブルが増加する傾向があったそうです。

「テレビと自分」という関係が、生身の人間とのコミュニケーションを減らしてしまうことが原因と考えられます。

■コンテンツ……暴力シーンを見ると、子どもが攻撃的になりやすい

上記の提言にもあるように、時間だけでなく視聴する内容も大事になります。小さい子ほど、親がしっかりとリードしてあげてください。

特に注意すべきは、暴力を含んだ番組です。イギリスの研究で分かったのは、暴力シーンを含むテレビ番組は、子どもを攻撃的にする傾向があり、低年齢の子どもたちほど影響を受けやすいということ。視聴直後の思考や感情に変化が起こりやすく、攻撃的な行動やおびえた行動を示す傾向があったそうです。

あとは常にテレビをつけっぱなしという状態は、コンテンツ的にも問題が出てくることが懸念されます。たとえば災害や戦争などのニュースは、ショッキングな映像が報道されることも少なくありません。災害時に大人がニュースを頼るのは当然のことですが、子どもはどうしても報道される言葉以上に、映像に目が行きがちです。ニュースをはじめとする大人対象の番組は、映像としての刺激を考慮してあげることが望ましいと言えます。

上手なルールの作り方

私が受ける相談から見えてくるのは、テレビなどのデジタルデバイスは、
・ハマるのは簡単だけれど、減らすのは難しい
・幼少期に制限がなかった子ほどエスカレートしやすい

ということです。よって、上手なルール作りのポイントとして挙げられるのは、“できるだけこじんまり始めること”。

小学生になれば、夕方以降もやることが増え、テレビよりも優先することが出てきます。小さいうちにテレビっ子にしてしまうと、学校に上がってから、「宿題をやらない」「いつまでも寝ない」「フットワークが重い」などの問題が浮上し、親が困ってしまうことに。

将来を見据えると、やはり1日30分~1時間程度、多くて2時間までに押さえておきたいところです。

もし現在2~3歳で、すでにテレビ漬けという場合は、ぜひこの機会に見直しをかけてみてほしいと思います。小学校に上がってからだと、ますます介入が難しくなり、親子間のもめごとが増えることになってしまいます。

食事中や寝るときのテレビのかけ流しはあり?なし?

視聴時間が長くなる要因の1つとして、“つけっぱなし”が挙げられます。幼稚園や学校から戻って、何より先にテレビのスイッチを入れる子もいます。中には親御さん自身がそのような環境で育ってきたために、音がないと物足りない、寂しいと感じて、すぐにスイッチを入れてしまうこともあるようで、私が今回触れたようなお話しをすると、「(子どもが腰を上げない理由がテレビとは気づかず)まったく無意識にスイッチを入れていました」とおっしゃる方もいます。

未就学児を対象にしたアメリカの研究で分かったのは、自室にテレビがあり、BTV(バックグラウンドTV:見てはいないけれどついている状態)にさらされている子は、相手の思いや感情、望みなどを感じ取る力が弱いということでした。その要因として言われていたのは、画面に向かうことで、現実世界でのコミュニケーションが減りがちだからということです。

とくに、“つけっぱなし”が影響する悩みとして多いのが、
・食事中につけているために、子どもがごはんに集中しない
・寝る直前まで見ているので、興奮して寝つけない

というものです。

つけっぱなしが常態化していると、それが当たり前となり、テレビが要因の1つになっていることに気づけないこともあるので、今現在ついたままの状態になっていて、子育ての悩みが多い場合には、そこを振り返ることが改善のきっかけになるかもしれません。

もちろん、絶対につけてはダメというものではないですし、そのご家庭のやり方があるので、あくまでアドバイスになりますが、将来を見据えると、デジタルデバイスにどっぷりハマってしまう状態を幼少期に作ってしまうと、その子も大変ですし、親も苦しむことが多いので、見る時につけることをおすすめします。

テレビを親子の絆を深める“共有体験”に使おう!

以上、ここまでテレビとの付き合い方について、厳しい話を続けてきましたが、テレビを否定しているわけではありません。テレビをはじめとするデバイスは、今の時代になくてはならないエンターテインメントであり、上手に活用すれば育児の助っ人にもなってくれます。

WHOの提言にもあったように、子どもと一緒に視聴し、それをコミュニケーションツールにするのはおすすめの方法です。これは、“共有体験”となるので、親子の絆であるアタッチメントの育みにもつながります。

要はテレビがついていることで、家族が黙ってしまうのはデメリットになりますが、番組を題材に会話が弾むのであれば、それはメリットになるわけです。

大事なのは節度のある用い方をすることであり、子ども任せでは難しいそのコントロールを、親がリードし、いい習慣が定着するよう導いてあげてほしいと思います。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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