「子どもを伸ばす実は否定している言葉」著者天野ひかりさんインタビュー

「子どもを伸ばす実は否定している言葉」著者天野ひかりさんインタビュー

元テレビ局のアナウンサー天野ひかりさんが、母になって担当したNHK「すくすく子育て」。これまで接した5万人以上の親子の悩みから子どもの自己肯定感を育む言葉かけを4コママンガでわかりやすく解説した話題の1冊。怒る、諦める以外の第3の選択肢「認める」コツや、これからの時代に必要な子育てなど、子育て中の親御さんが読んで刺さるワードが満載です!

天野ひかりさん

NPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事、フリーアナウンサー。上智大学文学部卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK「すくすく子育て」キャスターの経験を生かし、親子コミュニケーションアドバイザーとして講演や企業セミナー講師を務める。子どもの自己肯定感を育てるため自身で立ち上げたNPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事、一般社団法人グローバルキッズアカデミー主席研究員。主な著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)や『子どもを伸ばす言葉 実は否定している言葉「考える子どもに導く7つのステップ〜小学校までに親にできること」』(ディスカバー21)がある。

日経DUAL記事

実は子どもを否定している、言いがちな3つのフレーズ

__「実は否定してしいる、子どもに言いがちなフレーズ」とは例えばどんな言葉がありますか?
代表的な3つのフレーズをお伝えしたいと思います。
その1「〇〇しなさい」(宿題、お片付け、起きなさいなど)
親はわが子にできるようになってほしいという願いから発していても、子どもからすると否定されていると感じてしまう言葉なんです。たとえば、家族から「ママ料理ちゃんとして!」と言われたら、「ああ自分は料理ができてない人なんだ」とネガティブに捉えてしまいませんか? そんな「〇〇して」を1日3回でも言われたらこれはもうダメ押しです。「〇〇しなさい」は、むしろ逆効果になることを自覚しながら使いましょう。

その2「〇〇しないで」(ぐずぐずしないで、こぼさないで、大声出さないで……)
こうした禁止の言葉も、親は良かれと思って伝えているつもりでも、子どもは「いつも僕はできない子なんだ」ととらえてしまいます。たとえば大声を出さないでほしい場面なら、まずは、「大声を出せるって素晴らしいね。嬉しくなっちゃったね」と認めます。その上で「でも、ここには頭の痛い人もいるから小さい声で話そうね」と伝えます。「そんな言い方で伝わる?」と思うかもしれませんが、子どもはいつも自分を認めてくれている人の話は、ちゃんと聞けるようになるのです。大人でも、いつも否定される人の言うことは、たとえ正しいことでも受け入れ難いのと同じですね。それに、親や先生に指示されたから静かにした場合、静かにする意味もわからず、応用が利かない子になってしまうとしたら勿体ない。大きくなって自分の中で考えて行動できるためには、この手間を惜しまず会話できるといいですね。

その3「どうしてなの?」
これも子どもを追い詰めてしまう言葉です。「なんで服が汚れたの?」「どうして宿題ができないの?」と聞かれても、子どもは本当に理由がよくわからないのです。まずは問いただす前に子どもの話を聴くこと。たとえば、子どもから「今日ね、嬉しいことがあったの!」と言われたら、「何がうれしかったの?」ではなく、「それは嬉しかったね!」と感情を受け止めましょう。それだけで子どもは肯定されていると感じます。小学低学年くらいになったら4W1Hで、いつどこでだれがどのようにと、1つ1つ事実を聞いていけばOK。「なぜ?」の理由がきちんと言えるのは中学生くらいです。この対話は作文力向上にも役立つはずです。

子どもの本当の気持ちを見抜くには?

__子どもの「やりたくない!」の本当の気持ちはどうやって見抜けますか?
「今日はなぜか仕事や家事のやる気がでない」そんなモヤモヤした気持ちは大人になっても言語化できないものです。ましてや子どもですから、本当の気持ちを見抜くには会話を重ねる以外ありません。まずは、親自身の「〇〇すべき」を取り払って、会話をしながら一緒に気持ちを探しにいきましょう。とはいえ、日々やらなければいけないこともありますよね。そんなときは「親がやらせたいことではなくて、何だったら目を輝かせるか」に注力してみてください。
たとえば、漢字の書き取りをどうしてもやらない子が、実は鬼滅の刃が大好きだと知り、登場人物の難しい漢字を書くうちに、書き取りが楽しくなったそうです。電車好きな子なら、乗るのが好きなのか、運転してみたいのか、見るのが好きなのか、など何が好きなのかを観察してみましょう。そしたら「駅名や線路を地図で学ぼう」とか「時刻表から計算してみよう」など、それを追求するために、地理や算数など必要なことに気づき、やる気になるはずです。「運転士になるための学校に行きたい!」など夢ができたら、一緒に調べて、今すべきことが見えてくれば、勉強も頑張れますね。子どもの好きなことにはやる気のヒントが隠れていることが多いのです。

怒る、諦める以外の第3の選択肢「認める」のやり方

__本の中でもたびたびでてきた「認める」。これを上手に実践するコツを教えてください。
私は「認める」を子育てにおける怒る、諦める以外の第3の選択肢と呼んでいます。簡単にはできないかもしれませんが、ぜひ今日から実践してみてください。きっとお子さんは変わるはずです。やり方は3つのステップです。たとえば、「病院で大声を出した場合」を例にすると、

ステップ1 認める(大きな声だね)
ステップ2 親がお手本を見せる(騒いだことを周りの人に謝る・親は小さい声で話す)
ステップ3 ルールを伝える(ここは病院だから小さい声で話そうね)

これまで認められてこなかった子の場合、最初は言い訳をしたりするかもしれません。でも、ステップ1で、いつもは叱るお母(父)さんが、「認めてくれた!」と表情がパッと明るくなります。その次にステップ2、大好きなお母(父)さんが他の人に謝る姿を見て、子どもは「これはよくないことなんだ」と考え始めます。そのあとでステップ3、伝えるべきこと(ルールなど)を伝えると、子どもは、ちゃんと理解できるようになります。親はつい、ステップ1、2、を飛ばして3から入りがちですが、この順番が大事です。いつも親が100%認めてくれることで、自己肯定感が育ちます。ちなみに、知らない子が大声を出していたときは、その子との関係性にもよりますが、「あれは良くないよね」でOK。他の子まで認めなくても(笑)、まずは我が子を認めましょう。

__悪口やよくない言葉を言ったときも認めていいの?
たとえば、わが子が「Aちゃんのこと好きじゃないから明日からBちゃんと無視しようと思う」など、誰かの悪口を言ったら、否定も肯定もせずに「そうなんだ、無視しようと思ってるんだ」とオウム返し作戦をしましょう。この場合、いい悪いとか親の評価はいりません。
子どもだって無視はいけないことだとわかっていますから、それを親に言うというのは、迷っている証拠。親の反応を見ているのです。
親を信頼している証拠ですね。「そうなんだね」と自分自身を受け止められることで「ママもそう思う? だってね……」と詳細を話してくれるはずです。それを繰り返し受け止めるうちに、「やっぱり明日もう一度話し合ってみようかな」など、自分で解決策にたどりつくのです。そこまでいけばしめたもの。「ママもその方がいいかもって思ってきた」で終了です。

この話をすると「そんなにうまくできますか?」と言われますが、どんな子でもできる力があります。困ったことがあったときに自分で解決策にたどり着ける練習を、ぜひ小さいうちからしていきましょう。

平成と令和の子育ては別もの!一律に子どもを育てる時代は終わった

__本の中に「平成と令和の子育ては別もの!」とありましたが、どんなところが一番違うと思いますか?
平成までは多くのことは正解が1つと習いましたが、令和は1つではありません。価値観が1つではなくてよくなったと言えると思います。私たち親世代は、「先生や社長、国が正しい」という一律の教育で育ちました。戦後の日本では、その方がコントロールしやすかったためでしょう。それが令和の今は、グローバル化され多様化され、1人ひとり違って良い、子ども自身の人権が尊重されるようになりました。これはとても素晴らしいことですが、私たちは「正解に向かっていかに早く動くこと=優秀だ」と育った世代です。その価値観をひっくり返して子どもを育てるのは簡単ではないと思います。

例えば、AI(人工知能)の登場で今ある職業の6割が変わると言われています。正解に向かって指示通りに動くのはもはやAIには太刀打ちできませんから、これからの時代はAIに負けない子になる必要があるのです。それはつまり、「自分の頭で考えて行動できる子」です。親や先生、社会の言うことを言われた通りにできる子ではなくて、どうしたらいいかを考えられる子です。一律に子どもを育てる時代は終わったのです。これからは、何を考え、さまざまな視点を持って、その子のペースでいかに深められるかといった教育にシフトしていく必要があります。社会も学校も親も変わっていかないといけないのです。

メモ作戦で親子のコミュニケーション&語彙力をアップ!

__お家でできる親子のコミュニケーションアップ術があれば教えてください
親子のコミュニケーションをアップさせるには、楽しみながら語彙力を増やし、アウトプットする機会を持つこと。おすすめはメモ作戦です! 
たとえば、「今日保育園で何が楽しかった」と聞くと「ふつう」と答える男の子には、親がまずノートに「ふつう」とメモすることからスタートします。「ふつうって何だろうね? 特別なことはなかったってこと?」なんて会話をすると「〇〇先生がこんな話をした」「給食がめっちゃおいしかった」など。少しずつ出てきた言葉もメモします。「すごーいおいしかった、じゃなくて、めっちゃ、なのね」など副詞や修飾語を足してメモしていきます。

「つまらなかった」「うれしかった」などのつぶやきも、「知っていることだからつまらなかった」「勝ったことがうれしくて飛び跳ねて喜んだ」など会話をしながら言葉の種類を増やしていきましょう。それを重ねたら、次はおじいちゃんやおばあちゃんなど、少しオフィシャルな場で発表(日記を読んだり動画に撮って送るなど)する機会を作っていくと、語彙力や表現力、コミュニケーション力がアップするはずです。

子育てがうまくいかず自己嫌悪に陥っていた親御さんが、言葉かけを変えたら子育てに自信が持てた、という声をたくさん伺います。子どもはいろいろな人と関わって成長するので、1人で抱えなくても大丈夫と思えば気も楽になりますね。幼少期にわが子を認めて自己肯定感を育てていくことで、コミュニケーション力もアップし、自律した子に育ちます。それに、いずれ、どんなダメな親のことも認めてくれる子に育つでしょう。これは親としてとても嬉しいですよね。ぜひ今日できることから、始めてみてください。

著者プロフィール

ライター・エディター。出版社にて女性誌の編集を経て、現在はフリーランスで女性誌やライフスタイル誌、ママ向けのweb媒体などで執筆やディレクションを手がけている。1児の母。2015年に保育士資格取得。

  • twitter
  • はてなブックマーク
  • LINE
  • ホーム
  • 子育てのコト
  • 「子どもを伸ばす実は否定している言葉」著者天野ひかりさんインタビュー - SHINGA FARM

関連記事

新着記事