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フランスで赤ちゃんの頃から教える感情教育、「ソフロロジー」とは?

フランスで赤ちゃんの頃から教える感情教育、「ソフロロジー」とは?

フランスは精神分析大国です。そのためなのか、赤ちゃん時代から感情の「教育」が始まり、幼児に育つまでに自分の感情を名指して認識できるよう促します。幼稚園児から小学生の頃には、自分の感情をコントロールし、感情を通して周りの人々にかかわる方法を教えます。日本では自分の気持ちをコントロールできるようになることを重視しがちですが、フランスではその前段階である感情の認知から教えるだけでなく、感情の発達自体を「教育」していくのです。呼吸セラピー方法の「ソフロロジー」を用いたフランス式感情教育をお伝えします。

日経DUAL記事

呼吸法を使った感情教育の絵本シリーズが大人気

ソフロロジーとはインドのヨーガに基づく心身を落ち着かせるための呼吸セラピー方法で、鼻からゆっくりと息を吸い、口を少し開けてゆっくりと長く吐き出す「腹式呼吸」が基本です。ストレス時や精神の不安定時、出産時などに活用されています。

フランスでは、感情教育は親が担う大切な教育の1つというのが一般認識のようです。書店には感情についての本が必ず置かれ、日本語訳もあるユニコーンのガストン君が主人公のソフロロジー絵本が大人気です。この絵本は幼稚園から小学校中学年くらいまでの子ども向けの内容で、感情の場面ごとに呼吸法が紹介されています。子ども向けではありますが、大人にも十分通用する内容です。

スヌーピーシリーズに登場する幼児ライナス君の“安心毛布”をご存じでしょうか?彼はいつもお気に入りのブランケットを持っています。皆さんもお子さんが小さい頃、お気に入りのぬいぐるみや人形を手離さなかった時期があったことを憶えていらっしゃると思います。精神分析家のウィニコット氏は、この安心毛布やぬいぐるみを「移行対象」と呼びました。

ごく小さい乳児や幼児が、母親(あるいは母親的存在)との分離への不安に耐えるために持つもの、それが移行対象です。母親とは違う「自分」を持つための、自立への小さな第1歩に伴う葛藤であるとされています。ウィニコット氏を指導した児童専門精神分析家のクライン氏は、母乳(あるいはミルク)を与える乳房(的存在)との関係を指摘して赤ちゃんの心の世界を分析しました。

このように精神分析家たちは、赤ちゃんの感情の芽生えとその後の分岐や発達に至るまで、緻密に分析を行っています。フランスには精神分析家が多く存在することからカウンセリング感覚で通う人も目立ち、精神分析の考え方は一般の家庭にも浸透しているようです。

そのため、他の教育と同様に感情教育を行い子どもの健全な成長を目指すことは、親の重要な役目として認識されているのです。フランスでは感情は「教育」すべきものであり、教えることで育まれるという考え方といえます。

子どもの成長に伴い「受け身」から「能動的」な教育へと変化

筆者も子どもが赤ちゃんだった頃、フランスの子育て支援施設に通うなかで子どもの感情教育を目の当たりにしてきました。小さな赤ちゃんは自分の心の状態が何かを知らない、だから親がその状態を解釈してやり、感情を名付け、どのような感情かを教えてあげることで赤ちゃんの心は成長する。そう何度も教えられたのです。

このように赤ちゃんや幼児が豊かな感情を持っているとして接することは、子どもの心の成長を促すという日本での研究もあります。当然ながらこういった教育は幼児時代で終らず、その後もアンガーマネジメントなど感情をコントロールする教育を続けることは必要です。

子どもの成長に伴い、感情教育の方法は変わってきます。赤ちゃんや幼児は親や周りの人間からの語りかけを通していわば受け身で感情を認識していきますが、小学生ぐらいになると受け身から能動的な方法へと転じます。

幼児向けの感情の本では感情を名指すだけに留まっているものの、小学生になるとその感情を中心に周りとどうかかわっていくかに焦点が置かれるようになるのです。ガストン君シリーズを例に見てみましょう。

自分の感情を育てる方法を場面ごとの呼吸法で学ぶ

ガストン君シリーズでは喜び、悲しみ、恐れ、怒りといった基本的な感情だけでなく、喜びの1つである大歓喜、恐れの1種である引っ込み思案、そしてより複雑な感情である罪悪感や嫉妬といった感情まで扱っています。小学校の中学年から高学年くらいまでが対象の本も出ていますが、どれも構成は同じで、まずその感情が出てくる場面が描写されます。次にそれがどういう感情であるかが説明され、感情の場面ごとにソフロロジーの呼吸法が紹介されています。

たとえばガストン君の「喜び」の場合、どのような時が「喜び」なのかが分かるよう幸せな気分のガストン君が描写されます。幸せなガストン君が教わるソフロロジーとは、自分の幸せな気分を他者に伝える方法です。呼吸法を学んだガストン君は身近な人物を助けたり慰めたりして、さらに気分が良くなります。最初の「喜び」から派生した人を助ける気分の良さや、助けたことから来る自己肯定感といった感情が説明され、名付けられるのです。

このようにガストン君シリーズでは基本的な感情からより複雑な感情までが説明され、自分の感情を育てる方法がソフロロジーを介して教えられます。自分の感情に能動的にかかわっていくことで感情がより深く成長し、周りの人々との関係も深めることができるということになります。感情教育を通して子どもの健全な人間的成長を促すことが、ガストン君の絵本の狙いです。

まとめ

感情教育というと、どうしても癇癪や怒りといったネガティブな感情に目が行きがちです。ただ、どのような感情も幼いころからの教育により育てられるもので、子どもの成長を健全な方向に促してあげることが可能とされています。その教授法の1つがソフロロジーであり、年齢を問わず適用できます。

大人に比べ言語能力が未発達な子どもに呼吸を介した教育方法はより伝わりやすく、ソフロロジーを用いた感情教育はとても合理的といえるでしょう。ソフロロジーをご存じの方もそうでない方も、この記事をきっかけにお子さまの感情教育に目を向けていただければと思います。

(参考URL)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/72/0/72_2PM022/_article/-char/ja/
https://tomobooks.com/p/gaston/

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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