「親がやらせたいこと」VS「子どものやりたいこと」優先順位はどうすればいい?

「親がやらせたいこと」VS「子どものやりたいこと」優先順位はどうすればいい?

毎日忙しく子育てをしていると気づきにくいですが、1日をあらためて見返せば、育児の日々というのは、親が「やらせたいな」と思うことと、子どもが「やりたいな」と思うことがせめぎあっている状態とも捉えられます。子どもがやりたいことを自分で決めるのは大事なこととは思いつつ、子どもの言いなりになったら、わがままな子になるのでは……と心配にもなりますよね。そこで今回は親がやらせたいことと子どもがやりたいことのバランスのとり方について掘り下げていきたいと思います。

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「親がやらせたいこと」と「子どものやりたいこと」は何が違う?

みなさんは、「親がやらせたいこと」「子どものやりたいこと」と聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?

親が「これをやらせたい」と思うこととして、
「歯みがきはなんとしてでもやらせなければ!」
「漢字ドリルを1日2ページやらせたい」
「発表会の練習をさせなければ」

と思う方もいるかもしれませんし、「○○中学になんとしても受からせなければ! だから受験勉強!」と言う方もいるかもしれません。

親の「これをやらせたい」は、子どもの年齢や成長段階のほか、そのときのお悩みや目標とも連動していることが多いので百人百様です。しかしながら、なぜそう思うに至ったかは、周囲から影響を受けていることも非常に多いのが特徴的です。よそのお子さんと比べたり、ママ友から情報を入手したりして、「うちはまだだ!」と焦りを感じ、それが「やらせないと!」につながっていることも多いのです。

子どもの「やりたい」はどうかと言うと、これも多岐に及びます。「今日あそこに行きたい」「お兄ちゃんと同じ○○をしたい」「プログラミングを習いたい」「ゲームをずっとやっていたい」など。これも年齢によって移り変わっていく要素がありますが、親からすると、受け入れるべきか、否かで悩むことが多い、それが子どもの「やりたい」です。

ここに少し書いただけでも、やりたいことは人それぞれだから、何をどこまでやらせて、何をどこまで受け入れるかについて、端的に述べることは難しいだろうと想像がつきます。それでもあえてこのテーマを選んだのは、親の「やらせたい」を出し過ぎても、子どもの「やりたい」を受け入れ過ぎても、のちのち弊害が出てくることが多いと感じているからです。

性格的にエスカレートしやすいのはこんなタイプの人

やり過ぎになってしまうパターンはいくつもあると思いますが、ここでは性格的な側面からの陥りやすさを述べていきます。

1.真面目ゆえ、「親のやらせたいこと」が増えてしまうパターン
今はインターネットで簡単に育児情報が探せる時代です。私もこれまでにかなりの数の記事を寄稿してきましたが、それを通じて感じるのは、このような育児系の記事は、真面目な人ほど真摯に受け止めてくださる傾向があり、ときに響き過ぎてしまうことがあるということです。「あそこに○○って書いてあったから、やらないと大変!」みたいな感じです。
よって、今回のテーマである「親がやらせたいこと」が増えがちな背景には、情報社会ゆえの傾向や世間の目の厳しさが関係していると感じています。「みんなから置いていかれたくない」「できれば追いつきたい」「追い越したい」。
それゆえ、「あれやって、これやって」と口酸っぱくなってしまっていることもあるでしょう。あとは子どものことを思うあまりに、「今の競争社会で抜きん出なければいけない」という焦りや不安が自分をあおってしまっていることもあると思います。

2.真面目ゆえ、「子どものやりたい」がエスカレートするパターン
一方で、「子どものやりたい気持ちを大事にしてあげて」という専門家からのくだりを読んで、子どもの気持ちや行動を「全面的に受け入れなくては」と捉えてしまう人もいます。子どもに「ダメ」とか、「できないよ」と言うことに罪悪感のようなものを感じている方は、私の相談室でもよくお見受けします。打ち消したり、否定したら、子どもの湧き出る欲求をつぶしてしまう気がしてしまうのです。
こういう方は、一生懸命育児をしているのに、「自分はダメな親だ」と感じていたり、子どもにだんだんと振り回されて、イライラを募らせてしまうこともあります。

3.不真面目ゆえ、情報を自分都合に解釈してしまうパターン
残念な話ですが、子育てに力を入れていない人はいるものです。そういう方は、仮に育児系の記事を目にしたとしても、その内容を自分のいい方に取ってしまうことが多いようです。たとえばネット上の育児情報には、「もっと手を抜いて大丈夫」とよく書いてありますよね。実際には、そういう記事は上に書いた頑張り過ぎの方向けのもの。それなのに、もともと力を抜いている人が、さらに手抜きをしてしまう。これなどはこのケースの典型例でしょう。

今回のトピックで言うなら、「子どもはやりたいことを好きなだけさせるのがいい」とか、「子どもは自分で学んでいくから心配しないで大丈夫」と解釈してしまうケースです。実際にあった話ですが、子ども同士のケンカに対し、加害している側の子のご家族は、「子どもはケンカを通して多くを学んでいく」と思っていて、全く悪びれた様子はなく、「なにを大げさな!」とさえ言い返してきたことがありました。
実際にイヤな思いや痛い思いをしている子がいるのに……。
「子どもは自ら学ぶ力がある」のは確かです。しかし、それを自分に都合よく解釈し、家庭で教えるべきことも教えずに現場に出してしまう事例はけっこうあるものです。子どものやりたいようにやらせることで、周りが迷惑するという現実があることは忘れてはなりません。

以上、よく陥りがちなパターンをご紹介しましたが、ここには当てはまらなくても、多くの方が、「親がやらせたいこと」と「子どものやりたいこと」のバランスで悩んでいるのではないでしょうか。

「やらせたいという気持ちもあるけれど、子どものこともリスペクトしなくてはいけない」
「でも、子ども任せにし過ぎてはいけないことも分かってはいる」
「どちらの方向にもやり過ぎにならないバランスはどういうものだろうか……」

そこで、次項では、どこからがやり過ぎなのかをつかみやすくする「自問コーナー」を作成してみました。

親の「これをやらせたい」の前に確認したい3つの自問

まずは、親側が、「子どもにこれをやらせていいか」「それとも今は見送った方がいいか」と迷ったときに決断しやすくなるような自分への問いです。

① 「私が求めている行動は年齢相応だろうか?」 
② 「この子のためというより、自分のためではないか?」
③ 「高過ぎるハードルを求めていないか?」

小さいうちの習い事や園・学校の選択は、親が行っていることが多いと思います。子どもは世の中にどんな習い事があるか、どんな学校があるかも知りませんから、情報を多く持っている親が主導するのは当然と言えば当然です。しかし、「自分がこうしたいから」が強くなりすぎると、子どもに向いていない選択をしてしまうことも。

とくに受験は親子関係自体を崩してしまうケースも見られます。思春期の入り口と重なる中学受験はなおさらで、勉強に関するもめごとが、結果的にその子の自己肯定感への傷や親の拒絶にまで発展してしまうことすらあります。受験は親子で乗り越えるものではありますが、受験する本人をつぶしてしまっては元も子もありません。

このような本人の努力を要する決断は、お子さんを交えて行うのが基本です。情報は親が集め、それをもとに親子でよく話し合い、最終的には子どもの意見を尊重する、という風に、親のひとりよがりにならないよう気をつけていくことは大事なポイントです。

また、習い事や進路の決断以外の場面でも、今のレベルが“1”の段階の子に、いきなりレベル10を求めたら、それはやり過ぎです。2、3、4……とスモールステップで導こうとしているかを振り返り、高過ぎる飛躍を求めている場合は、自分の「やらせたい」という気持ちがエゴイスティックになっていないかを見直してみることも必要でしょう。

子どもの「これやりたい」を受け入れるか迷ったときの3つの自問

次に、子どものやりたいという気持ちにどう対応していくかと迷ったときの自問です。

① 「大人目線で良し悪しを決めつけていないか?」
② 「受け入れることで、あきらめぐせがつかないか?」
③ 「将来自分の首をしめないか?将来怒ることにつながらないか?」

基本的に、子どもの好奇心や関心は大切に育んでいくべきものですし、親としても応援していきたいものです。中には、大人からしたら「なんでそんなこと?」と思うようなこともあるかもしれませんが、その子にとってはワクワクの対象であることを忘れてはいけません。

たとえば、公園に行こうと準備しているときに、

・玄関で靴のマジックテープをつけたり、はがしたり
・途中の道すがら、石を拾ったり、縁石を乗り降りしたり

という脱線はよくあるものです。親からすると、「公園=遊び場所」という思いがある分、それ以外が遊びには映らず、「さっさとしなさい」となってしまう。こういうときに、大人目線でそれが遊びか否かを決めつけないことはとても大事です。無理に公園には行かず、「ベルクロはがしごっこ」「石集めごっこ」にしてしまってもいいのですよね。

一方で、一見好ましい好奇心に見えるけれど、要注意のものもあります。たとえば習い事で、入退会を繰り返してしまうケースです。親としては、子どもの「やりたい」を大切にしたいから入会届を出す。でもすぐに飽きてしまい、他に気持ちが移り、退会届を出す……。このような場合、親がよかれと思って、子どもの気持ちの赴くままに対応してしまうことが、「ちょっとしんどくなったらやめればいい」という学習を促してしまうことがよくあります。回避学習はくせになりやすいので、こうならないためにも、まず始める段階でよく検討することをおすすめします。「○回は必ずやる」とか、「○○コースを終わらせる」など、その子なりの目標を立てられると、コミットメントが生まれやすくなります。

また、子どもの心を傷つけるのではと心配で、「これやりたい」を断れないという方は、「今これを受け入れて、3ヵ月後もそのまま受け入れていられるか?」「逆に怒りポイントになって、叱ってばかりにならないか?」と問いかけてみてください。1日が24時間である以上、どこかでメリハリをつけないと回らないのは事実。小さいときに子どもの「やりたい」に寄り添い過ぎてしまい、4~5歳になったら歯止めがきかず、毎日怒ってばかりというケースは実はとても多いので、先を見越した判断というのもときには必要です。

優先順位の目安は①生活リズム→②子どものやりたいこと→③親のやらせたいこと!

子どものやりたいことを断ってでも、親がこれだけはやらせた方がいいことがあるとすれば、生活リズムを整えることではないでしょうか。
朝起きてからの、ごはん、歯みがき、トイレ、着替えなどの一連の支度。小さい子であれば、日中のお家の中のリズム。そして、園や学校から戻った後のルーティン。
これらは、親が子どもに「やってほしい」と思うものばかり。
でも一方の子どもはと言えば、

・歯みがき⇒したくない
・着替え⇒ママやって
・勉強⇒それよりテレビが見たい

のように、思いは逆行していることが多いものです。

親の「やらせたい」と子どもの「やりたい」がもし同じであれば、もっと事はスムーズに進むのでしょうが、“生活リズム”に関しては、両者は方向性が違うことの方が多いもの。そのため、子どもは反抗し、親はイライラし、ぶつかることも多いのですが、だからと言って、子どもの意向にすべて賛同していたら、1日が回りません。

大きくなるにつれ、時間を見て動くことは増えてくるので、そのときになって、「気持ちの切り替えができない!」では子どもが困ってしまいます。生活リズムやしつけの場面では、親が折れずに根気よく教えていくことが大事だと思います。

ざっくりとしたやらせたいことの優先順位の目安としては、しつけや生活のリズムなどの家庭教育≧子どもの「やりたい」≧それ以外の親の「やらせたい」という順序で見ていけるといいのではと思います。

「親がやらせたいこと」は子どものやる気が比例していないことが多い
手前の行動を褒めてモチベーションアップ作戦が効果的!

最後に、とても大切ながら、見落とされがちな点をお伝えしていきます。
それは、「行動主は子どもである」ということです。
親の「これをやらせたい」も、子どもの「これやりたい」も、いずれの場合も行動の主はその子自身。その事実を踏まえれば、その子のやる気を削ぐやり方は適切ではありません。
それにもかかわらず、親である私たちは、つい「やらせたい」と思うと、力が入り過ぎて、小言を言ったり、叱ったり、怒鳴ったりしてしまいます。これらはすべて、その子のやる気を低下させる行為。なので、かりにその子がやったとしても、それは“しぶしぶ”腰を上げているに過ぎないのです。

物事を前に進める際、イヤな気分でやるよりは、いい気分でやる方が、だれだっていいに決まっています。そんな分かりきったゴールデンルールを、私たち親は、いとも簡単に忘れてしまいがちです。
子どもに何かをやらせたい。でも子どもはやりたくない。そんなとき、何も考えずに動けば、叱って子どもを動かそうとしてしまいます。しかし、子どもを導く方法は、叱るルートだけではありません。ほめルートもあります。

朝の支度時に、
「自分でさっさと着替えてほしい」
「自分でごはんを食べてほしい」
「自分で歯みがきしてほしい」

と思うことは多いですが、「自分で何でもできる子」を期待していると、「まだ○○していない」「これもまだ残っている」とできていないことばかりが目につくようになります。
そんなとき、数少ないかろうじてできていることを拾って、言語化してあげると、子どもは次の行動を取りやすくなります。

お着替えと言っても、まだ靴下だけ……。という場面でも、「靴下履けたのね!」
朝食と言っても、まだパンだけ……。という場面でも、「もうパン食べたんだね!」

子どもが「やりたい!」と思うことには、もう十分モチベーションが足りているものですが、親が「やらせたい」と思うものに関しては、子どものやる気が比例していないことも多いので、そのモチベーションを上げるブースターとして、ちょっと手前の行動を肯定していくことを意識してみてください。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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