英米とは一味違うフランスの子育て。子ども扱いしすぎないパリ流の「しつけ」とは?

英米とは一味違うフランスの子育て。子ども扱いしすぎないパリ流の「しつけ」とは?

英米の親たちは、子どもに対して「夢を大きく持たせよう」、「子どもの自由な発想を大切にしよう」、「褒め育て、叱らずに話し合おう」、「子どもに決めさせよう」と考える傾向があるように感じられます。それに比べ、フランスの子育ては大人社会に慣れさせるための準備期間という位置づけで、しっかりと現実について教えていくやり方といえます。パリでの子育てが16年目となる筆者が、現地の「しつけ」についてお伝えします。

日経DUAL記事

挨拶は物心がつかない0歳児から教える

パリでは、「うちの子は恥ずかしがり屋だから…」と、挨拶しない我が子を庇うような親は見当たりません。「ボンジュール」という言葉は一般的に「こんにちは」と和訳されますが、この言葉には「私はあなたの存在を認識していますよ」という意味合いが含まれます。相手の存在を認めるとても重要な表現ですから、挨拶のしつけは物心がつかないうちに始まります。

0歳児であっても、親に抱っこされて一緒に手を振り挨拶します。挨拶した後、親は赤ちゃんに「ほら、挨拶したら喜んでもらえるでしょう?」と声をかけ、人付き合いにおける最初の第一歩を教えるのです。

ですから、もし子どもが挨拶をしなければ、親でない他人であっても大人たちが挨拶するよう促します。挨拶は「したい」「したくない」の問題ではなく義務であり、交渉は不可であると、妥協はしません。また、お互いの存在を認め合う挨拶ですので、アイコンタクトは必須です。子どもがよそ見をしながら挨拶すると、「ちゃんと相手の目を見なさい」と注意されます。

ちなみに「フランスの挨拶はキス」と言われたりしますが、頬にキスをするかどうかは子どもの気持ちに任せていて、したくなければ無理強いはしません。大切なのは「ボンジュール」の一言と、アイコンタクトです。

「まだ小さいから」と子ども扱いしすぎない

パリっ子たちは、日本の子どもたちよりも早熟で大人びて見えることがよくあります。それは「子どもは、子どもらしく」という考えが希薄で、子どものうちから大人社会に慣れさせようとする大人が多いからではないか、と思われます。

我が子が通ったパリの幼稚園を一例に挙げましょう。そこでは、年中組からプールの授業が始まります。1年間、季節や天気に関係なく週1回、近くの市営プールまで歩いて通います。雨が降っても、雪が降っても、傘もささず、片道20分の道を歩いて行くのです。「私たちはお砂糖じゃないから、溶けないわよ」が先生の口癖で、園児たちも「私たちはお砂糖じゃない!」と笑って真似し、並んで外に出ます。

市営プールは大人用に作られており、水深は95㎝~2.8mと園児には足の届かない深さです。怖がってプールサイドで立ち往生している子が毎年クラスに数人はいるのですが、大抵の場合は、一度水に入ればプール好きになっていきます。

それでも、登園拒否しそうなくらい、どうしてもプールを怖がる子もいます。幼稚園側は、「プールは教育の一環であり、行く・行かないを子どもが決定するものではない」という立場をとっているため、長期見学の場合は医師の診断書提出が求められます。親は子どもとしっかり話し合い、必要があれば、かかりつけの医師に相談します。

小さい頃から言葉で意思疎通を図るしつけを受けているパリっ子たちは、園児であっても大人びた口調で権利を主張したり、交渉したりすることがしばしばあります。大人は子どもの言い分を一通り聞きますが、最後に決定するのは大人の役目です。


(足が届かないプールで泳ぐ年中組の幼稚園児)

美化されたキレイごとよりも、ありのままの現実を伝える

日本の子どもたちにもよく知られているイソップの寓話に、「アリとキリギリス」があります。フランスでは17世紀に作家ラ・フォンテーヌが「セミとアリ」という題で書き直し、今も子どもたちに読み継がれています。

フランス版では、「利子をつけて返すので穀物を恵んでほしい」と頼むセミに、アリは「夏の間に何をしていたのか」と尋ねます。「歌っていました、すみません」と答えるセミに、アリは「歌っていたとは!それじゃあ、今度は踊りなさい!」とピシャリと言ってのけて、話はおしまいなのです。

もともとフランス文学はハッピーエンドでない作品が多いのですが、その傾向は子どもたちが読む児童文学や童話にも見られ、オブラートに包まれているもののシビアで現実的な内容が目立ちます。さらに、フランスの児童文学の特徴としては、どこにでも居そうな登場人物が人間としてできる限りの知恵と理性を働かせ、現実問題に立ち向かう作品が多いといえます。主人公が空を飛んだり、魔法を使ったりするイギリスの児童文学とは対照的で、とても現実的です。


(子ども相手でも誤魔化したりせず、大人が本音で向き合い現実を教える)

まとめ

「欧米」と一括りに語られやすい子育てにおいて、あえて「英米」とは一味違う「フランス」らしい子育て、特にパリっ子たちの「しつけ」を紹介しました。「挨拶をさせること」、「子ども扱いしすぎないこと」、「現実を教えること」によって、パリっ子たちは早いうちから大人社会に入る訓練を受けています。

そのため、彼らは「子どもだからといって何をしても赦されるわけではない」ことを感じています。大人を見て、真似をしたり反面教師にしたりしながら、社会性やセルフコントロール力を身に着け、成長していくのです。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

  • twitter
  • はてなブックマーク
  • LINE
  • ホーム
  • 子育てのコト
  • 海外
  • 英米とは一味違うフランスの子育て。子ども扱いしすぎないパリ流の「しつけ」とは? - SHINGA FARM

関連記事

新着記事