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「オンライン教育の未来を考える」~家庭の時間をリデザインするCo-musubi~ 

「オンライン教育の未来を考える」~家庭の時間をリデザインするCo-musubi~ 

コロナ禍でリモートワークやオンライン授業が進み、子どもたちもzoomなどの簡単な操作には徐々に慣れてきた今、「授業と同じことをオンラインでやればいいのではない」という時期に来ているように感じます。そこで、コロナ前から「子ども時代からのリベラルアーツ」を提案するCo-musubiという活動を通して、5年間でのべ800回以上のオンラインの学びの場を子どもたちに提供してきた、一般社団法人ダイアローグ・ラーニングの井上さんに、これまでのオンラインの学びで感じたことや家庭の時間の重要性など、これからのオンライン教育の未来についてお話を伺いました。


井上真祈子さん
一般社団法人ダイアローグ・ラーニング 代表理事薬学部卒。中学3年生と大学1年生の姉妹の母。子ども時代からのリベラルアーツ「Co-musubi」と偶発性ある読書会「セレンディピティ・ブックス・ダイアローグ」を軸に、「対話で創造的に学ぶクリエイター」のコミュニティづくりやサポート、プログラム開発と実施、触発し導くひと(カタリスト)の育成が主な事業。多様なこどもへの理解を深める啓発活動もライフワークとし、ギフテッド教育については、2019年経産省や2020年文科省の研修コーディネーターも務める。2021年7月より、青山ブックセンターと業務提携を開始。本と対話を通じた読書会や研修などを展開している。
https://dialogue-learning.com
(note)Co-musubi: https://note.com/comusubi/m/m6060754aca57
(読書会)https://note.com/s_b_d

 

日経DUAL記事

与える学びではなく、子ども発信の創造的な学びの場に

__Co-musubiの活動を始めた経緯を教えてください

私は稼業をつぐため薬学部へ進みましたが、今思えば夢を持てず、自分で将来を決められない子ども時代でした。結婚出産を経て2児の母となったとき、「負い目を感じず伸び伸びと育ってほしい」と考え、家庭の関わりで欲求を言語化できたり思考力で困難をのりきったり、勇気を出してやってみるといった今で言う「非認知能力」を育ててるべく、国内外を移住しながら夫婦で子育てしてきました。

3年間子どもたちが通ったルクセンブルクのインタースクールでは、その子の素敵なところを開花させ、困りごとをアイデアで解決するヨーロッパの自由な教育に感銘を受け、帰国後は「世界のどこでも活躍できる教育」を目指しつつ、社会のための貢献できる活動をと考え、2016年からオンラインでCo-musubiの活動をスタートしました。

家庭の時間をリデザインしよう!

__Co-musubiがこだわってきたこととは?

Co-musubiは、オンラインをプラットフォームとする親子の学びのコミュニティです。

この5年間で私が一番こだわってきたのは、保護者の意向に沿った「何かを与える学び」ではなく「子ども側から始まる創造的な教育環境」です。いわゆる“先生にお任せ”する習い事ではありません。

子どもと大人という垣根を払った対等な関係性と安心安全な学びの場を構築しながら、親子が共に学び合う場を家庭の中に作ること。親が子どもと一緒に学びなら意識やものの見方を変えることで、子どもの自立を促すとともに、家庭が子どもの創造性を育む土壌へと変化するのです。将来幸せになるために今何かを犠牲にするのではなく、「今を幸せに、自分の人生を自分の意思で生きる」という子ども発信の学びの循環サイクルを目指しています。

オンラインはきっかけ作り、オフラインはアウトプットする時間

__井上さんは、オンラインとオフラインの学びはどうあるべきだと考えますか?

オンラインは脳の色々なところで考えたり、話し合いながら知識や視点を増やす“きっかけ作りの時間”であり、オフラインは自分らしく“学びをクリエイトする時間”ととらえています。オンラインとオフラインの学びの時間を分断することなく、シームレスにつなげ行き来することが学びを深めると考えています。

たとえば、金子みすゞさんの詩集を読んで家族で対話しどう表現するかを自分で考え、「なぜ影は寂しいと感じるのか」を絵で表現した男の子は、「影は光を際立たせる大切な存在だとわかった」と皆の前で発表してくれました。

また、「オリジナル武将を考えよう」という回では、瀬戸内海の村上水軍と上杉謙信を掛け合わせた武将を考え、新潟の島に架空のお城を作り、マインクラフトで再現した子もいました。他のご家庭では、お母さんが戦国武将にはまって、毎週親子で城巡りをするようになったそうです。

このように、親子や仲間と話し合いながら教科を超えて学ぶことで、人の考え方は多様で正解・不正解はないというリベラルアーツ(人の精神を自由にする)な価値観を身につけ、直感と知性を融合させながら自分なりの世界を作り上げる感性を磨いていくのです。



親世代が受けた教育は30~40年前の正解です

__親子での学びにこだわった理由とは?

Co-musubiが親子での学びにこだわる理由は、保護者が無意識に陥りがちな「自分とわが子は一緒」という考えを、「本来は別の人格なのだ」と改めてほしいからです。

私たち親世代が子どもの頃受けていた教育は30~40年前の正解であって、それは今の子どもたちの未来の正解とは違います。ですから、子どもとの対話や学びを通して、「そんな風に考えるんだね」と考えの違いを知り、わが子をジャッジしたり誘導せず、親自身の意識を変える必要があるのです。

それを私たちは親のアンラーン(学びほぐし)と呼んでいます。

大人も子ども一緒に学び合い、「世界って面白いなぁ」「空って美しいなぁ」。そんな感覚を大人が取り戻したら、家庭が学びのコミュニティへと変容していくはずです。

客観的な視点と内発的な動機が身につく「偉人なりきり会議」

__Co-musubiの人気カリキュラム「偉人なりきり会議」とは?

これはイギリスの“キャラクター教育”を参考にしたものなのですが、他者になりきることで、普段の自分では言えないことが言えたり、その偉人の歴史も知ることで、事実の羅列ではなく人物像や背景などのつながりを踏まえた生きた歴史も学べるというものです。

たとえば、学校で嫌なことをされた子が、偉人になりきることで、「偉人だったらこんなときどう考えるかな? なんて言うかな?」という客観的な目を持ち、悩みを解決できたりします。

さらに私がすごいなと思うのは、「偉人なりきり会議」のために家庭で事前準備をするのですが、その際にまとめた素晴らしいノートを「井上さん見て!」と自分から私に見せたりしないのです。子どもたちの中でノートなどの成果物はあくまで過程であって、それを褒められるよりも仲間と真剣に話し合えることが目的であり楽しいからです。「100点を取って皆の前で褒められたい」などといった外発的な動機ではなく、内発的な動機で動けているんだなと感じた瞬間でした。

他にも「生き物なりきり会議」という生き物になりきって環境問題について話し合う回では、アリやチーター、絶滅危惧種など、生き物それぞれで見えている世界が違うと知り、環境意識がこれまで以上に高まりました。

こうした一見「面白そう」な内容であることはもちろんですが、根っこには深い意図があるのもCo-musubiの学びの特長です。

親として「世の中を見る目の解像度が上がった!」という声も

__どんな方たちが参加されているのでしょうか? 参加者の声を教えてください

参加動機はさまざまですが、
「先の受験を考え親自身が不安になり、自分の考えを改めたい」
「これからの社会に必要な学びだからぜひ親子で受けてみたい」
「自分だけの子育てではわが子のいい部分を伸ばす自信がない」

などが多いようです。

お子さんの成長としては、1年生のときに「間違えるのが怖くて手をあげられなかった」子が、3年生になって「間違えを恐れず手を上げたり何でも挑戦し、クラスでも気づいたらリーダーシップを取れるようになった」Aちゃん。

低学年の頃、勉強に苦手意識があり、計算につまづいていた虫好きのB君は、本人と話し彼の描く絵の特長を見て、数字が色で見える「共感覚」の持ち主だと気づきました。脳の捉え方が人とは少し違うので、「単純な計算は暗記すればいいよ」などと、その子にフィットする学びを提案し、自ら中学受験にも前向きに挑戦し、哲学的な学びを好む虫と実験好きの中学生になりました。

このような発達に関する悩みも、保護者の方に忖度せず、子ども側からのサインを待って、一緒に越えようというスタンスです。

親御さんの声としては、「良かれと思って習い事を詰め込んで、余白のない日々を過ごしていましたが、今では親子でゆったり読書をする時間を楽しめるようになりました」「Co-musubiは、世の中を見る解像度が上がり、流れる日々をピンで縫い止めるような存在です」という嬉しい声もいただいています。

受験にフィットする教育を押し付けず、流れをつかんで波にのれる子に

__これから井上さんが挑戦したいこととは?

私は「子どもたちの内面の翻訳者になりたい」という目標があります。将来的には、教育にアクセスしづらかった医療的ケア児などにも学びを届けたいと考えています。そのためには、同じ志をもった媒介者も増やしていきたいですね。今後はカタリスト養成講座にも力を入れていく予定です。

__最後に、親御さんにメッセージをお願いします

私自身が2人の子どもを育てて感じたのは「人生は常識とか型じゃないな」ということです。幼少期に子ども発信となる主体的な親子の学びの時間を大切にする関わりを持つことで、思春期になっても分かり合える親子になれると実感しています。

わが家では進路や学校選びも基本的にすべて子ども任せでした。上の子は大学受験をする際、「苦手な数学から逃げたくない」とあてえ国立大学を目指しました。結果は浪人して私学(慶應法学部)に入りましたが、共通テストで数学が9割取れたから逃げなくてよかったと話してくれました。受験自体を否定するつもりはありませんが、Co-musubiは公立校でも両輪で学びをデザインできます。

「受験にフィットする教育を押し付けず、流れをつかんで波にのれる子にしたい」
「子どもの個性を大切に、子どもの未来を想定して子育てしたい」
「未来から借りている地球をいい状態で返したい」

という私たちの想いに共感してくださる方をお待ちしております。現在学年によってはお待ちいただいているクラスもありますので、個別にご連絡いただけましたらご案内させていただきます。

費用は、週3日×55分の自習時間(参加自由)、月3回×35分のお話し会と月1回×1.5~2時間の子どもミーティング、大人ミーティングで入会費5,000円、会費15,000円。基本はzoomのカメラONをお願いしています。

著者プロフィール

ライター・エディター。出版社にて女性誌の編集を経て、現在はフリーランスで女性誌やライフスタイル誌、ママ向けのweb媒体などで執筆やディレクションを手がけている。1児の母。2015年に保育士資格取得。

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