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話題の幼児向けICT教材 KitSとは?前編~株式会社SmartEducation池谷代表×監修のNPO法人 Educe Technologies代表理事・東京大学 山内教授にインタビュー~

話題の幼児向けICT教材 KitSとは?前編~株式会社SmartEducation池谷代表×監修のNPO法人 Educe Technologies代表理事・東京大学 山内教授にインタビュー~

「創造力」「チームワーク力」「ICT活用力」を育む、話題の幼児向けのICT教材「こどもモードKitS(キッツ)<以降、KitS>」。今回は、運営会社である、㈱スマートエデュケーション代表取締役の池谷大吾さんと、監修者であるNPO法人 Educe Technologies代表理事・東京大学教授の山内祐平氏による対談取材を敢行。

気になる21世紀型スキルや幼児期に必要な教育についてもお話を伺いました。

親子で遊べる乳幼児や子ども向けの教育・知育アプリを提供する、株式会社スマートエデュケーション(http://www.smarteducation.jp/)。代表取締役は池谷大吾氏。園児向けICT教育教材「KitS」では、NPO法人 Educe Technologies代表理事・東京大学教授である山内祐平氏が監修を務めている。http://kdkits.jp/

 

__これからの子どもたちに必要とされる「21世紀型スキル」について教えてください

「21世紀型スキルとは、1990年代後半からアメリカを中心に世界各国で議論されてきたこれからの社会で必要とされる能力体系です。思考の方法、仕事の方法、仕事の道具、世界で暮らすための技能という4つのテーマに分類されています。

長寿の国日本では、今や人生100年時代と言われますが、元気で働ける期間が延びることを考えると、たとえば今5歳の子は、20歳で成人してから、80歳まで約60年間働く可能性があります。つまり、長い人生を生きていく上で、どんな仕事に就いたとしても、またその仕事がどのように変化したとしても役に立つ、転移可能な能力が必要になってきます。

AIをはじめ様々な技術革新が日常的に起きるこれからの時代を生きる子どもたちには、従来の学校教育で育成されてきた能力に加え、より高度な能力が必要になるということなんです」(山内教授)

___教育現場は数百年に一度の大変革期と言われていますが、幼児教育においてICTを使うことはどうお考えですか?

大事なのは、初めて使うICTで何をするか。幼児期にスマホやタブレット=YouTubeを見たりゲームをするものととらえた子どもと、創造的な遊びや自分の世界を広げる学びの道具であると認識した子どもでは、その後の人生でICTの使い方が全く異なってくるでしょう。ですから、私は“幼児だから使わない” と無条件に決めてしまうのは早急ではないかな、と思います。

幼児教育の現場の先生方には、時代の流れを冷静に見て、何が必要かをしっかりと見定めて頂きたいと思います。もちろん、親御さんも同様です。家庭でも、親がICTをどう使うかで子どもの教育は変わってきます同じYouTubeの映像でも、子どもが漫然と見るのと、親が教育的対話のきっかけとして使うのでは、意味が違います。使い方次第では、好奇心を伸ばす道具にもなるんです。」(山内教授)

__KitSが掲げる幼児教育において、「クリエイティブな活動」や「チームワーク活動」に重きを置く理由を教えてください

「日本人はチームワークが得意だと思われるかもしれませんが、それは日本人同士の場合。多様な文化や世界の人々と、意見をぶつけることを恐れず、何かを作り上げていく、そういったグローバルな視点でのチームワークは、海外から見ると日本人はとても弱いのではないでしょうか。クリエイティブな活動においてもそう。日本の幼稚園や保育園では、与えられたお題の絵を描くことが多いですよね。上手な絵もどこか見たことがある模範的なもの。先生や親に褒められるような絵を描く。それではこれからの世界は生き抜けないぞと。子どもたちには、人と違う発想や手法で自分オリジナルの絵を描いてもらいたいんです」(池谷代表)

「そうした池谷さんのKitSにかける熱い思いを聞いて、“21世紀型スキル”の考え方と通じるものがあり、僕が日ごろ考えていることともとても近かったので、監修させていただくことになりました。幼児教育で大切なのは、子どもたちがクリエイティブな活動やチームワークに関心をもち、成功体験が得られること。それは幼児期にしかできない、生きる土台を作ることになるからです」(山内教授)

__ICTを使う場合、指導者に求められる「褒め方」とは?

「アピールが上手かどうかより、創造的なアイデアを生み出すことに役に立っているかどうかに注目していただければと思います。たとえば、普段おとなしい子がグループで活動したときにふと言った一言で、みんなのアイデアが変わるきっかけとなった。そんな一言をこそ褒めてあげてほしいということです」(山内教授)

「先ほども述べましたが、芸術に対してどこか予定調和というか、褒められるためのことをしていてはダメ。その子が突拍子もない絵を描いたら、その個性や感性を褒める。日々の活動で実行するのはとても簡単ではありませんが、そんな指導者が増えたら日本の子どもたちは変わっていくのではないかと思っています」(池谷代表)

「“チームで頑張れた”ことを褒め、“クリエイティブな活動ができた”ことを褒める。そうすることで、子どもたちにチームワークやクリエイティブな活動の意義が伝わるのだと思っています」(山内教授)

__KitSを開発する上で好きなアプリを教えてください

「未来を生きる子どもたちの生きる力を育む、今までにないICT教材を作りたいと思って。短期的に成果がでなくても、大人になったときに実感できることを考えて開発しました。紙に描いた絵が、海・空などをテーマとした大画面の中で自由に動きまわるアプリ“アートポン!”はすごくわかりやすい教材であり、KitSのターニングポイントになったと思っています」(池谷代表)

「私は、枠となる下絵を何に変身させるかについて考えながらiPadでお絵描きする“らくがキッズ”が好きですね。シンプルなアプリですが、適度な制約により創造的な活動が生まれやすくなっています。海外にいる子どもたちと一緒にお絵描きしたら異文化理解にもつながりそうです。」(山内教授)

__KitSを導入した園での変化や手応えを教えてください

「始めはお友達の真似をする子が多かったある園で、人とちょっと違ったところのある作品を取り上げて先生が褒め続けた結果、子どもたちは“人と違うものを書くと、違う角度で評価してもらえる”と気づき始めたようでそこから個性豊かな発想がたくさん生まれるようになりました、と感想をもらったときは嬉しかったですね」(池谷代表)

「オリジナリティのある答えを考える価値を小さいうちに理解することはとても大事ですね。」(山内教授)

「あとは、先生の話を聞くようになったと言われることは多いですね。まあ当然と言えば当然。だって子どもたちは面白いし早くやりたいから、やり方を聞きたいんです」(池谷代表)

基礎から積み上げて学習していかないと理解できないと思っているのは大人だけ子どもは興味があれば、どんどん吸収できる素晴らしい力をもっています。多少分からないことがあっても楽しんでやれていれば大丈夫です。まずはそれくらいの気持ちで導入するのがいいのかもしれませんね」(山内教授)

__「幼児教育×ICT」の発展と可能性について教えてください。

「先ほども述べたように、ICTはあくまで道具なんですうまく使えば学びの世界を広げる素晴らしいきっかけを作れますもちろん子どもだけでは難しいので、親や指導者が関わることが大事です。

例えば、カマキリの卵が分からないといった子に動画で見せることは有用です。ただ、それで終わりにせず、それをきっかけにして実際に外に出てカマキリの卵を観察するとより深い学びにつながります。リアルな体験とメディアの世界を往復することが、心を育てることにつながるんです」(山内教授)

「おっしゃる通り。図鑑をフルセットそろえたからって頭がいい子にはなりませんよね。図鑑もICTツールも、どう使うかなんです。他にも、たとえば落ち着きのない子でいつも叱られていた子やおとなしかった子がICTで素晴らしいアイデアを生み出して成功体験を得たという事例もあります。そういう意味でICTは今までになかったチャンスを広げる機会にもなると思っています」(池谷代表)

__KitSプロジェクトが今後目指すものとは

「KitSが今後新しい幼児教育の突破口になるよう、研究者として支援していきたいですね。期待することとしては、利用園のさらなる増加はもちろん、国際交流といった活動の幅も広げていってほしいと思います」(山内教授)

「アプリの導入園も含めると、全国400の幼稚園や保育園で使用してもらっていますが、まだまだ数パーセントにしぎません。日本国内のみならず、今ベトナムでも進めつつありますが、世界中の子どもたちに利用してもらえるようになりたいですね。ICTツールは言語が不要ですから、レゴブロックのようにみんなが知っていて、遊んだことのあるツールになれるのが目標です」(池谷代表)

後編では、実際に導入されている幼稚園での模様をレポートします。

Photo:Kenichi Sasaki

著者プロフィール

ライター・エディター。出版社にて女性誌の編集を経て、現在はフリーランスで女性誌やライフスタイル誌、ママ向けのweb媒体などで執筆やディレクションを手がけている。1児の母。2015年に保育士資格取得。

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