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アメリカで不登校だとどうなる? 日本とはまるで違う、不登校児への支援と取り組み

アメリカで不登校だとどうなる? 日本とはまるで違う、不登校児への支援と取り組み

子どもが学校に行けなくなることは、子どもにとっても親にとっても大変辛いものです。海外でも不登校は深刻な課題であり、その対応方法は国によってさまざまです。実はアメリカでは、不登校児はめったに見かけません。これは、決して悩みを抱える子どもが少ないからというわけではなく、親・学校・地域団体のサポート体制に理由があります。今回は、アメリカにおける不登校問題と、実践されている支援内容について詳しく紹介します。

日経DUAL記事

不登校は違法! 驚くほど厳しいアメリカの姿勢

教育は子どもの権利、というのが日本の考え方です。不登校になった場合は、多少時間がかかっても、本人が再び学校に通えるようになるまで寄り添いサポートするケースも多いでしょう。

一方、アメリカでは不登校に対してかなり厳しく対応します。というのも、義務教育中の子どもが学校に行かないことは違法だからです。「子どもの気持ちを尊重してしばらく休ませよう」という姿勢は親のネグレクトと判断され、長期化すれば警察や司法が介入することすらあります。アメリカでは、不登校は社会的に許されていないのです。

アメリカでは子どもに不登校の兆候があると、かなり早い段階で周囲が対応に踏み切ります。不登校が長引くとその分問題が深刻化し、ますます学校へ行きづらくなってしまうと考えるためです。

I do not know what I have done wrong. Upset teenage boy trying to make his behavior clear to a professional therapist during a psychotherapeutic session.

アメリカにおける不登校への対策3ステップ

アメリカで子どもに不登校の兆候が見られた際、具体的にどのような対応がとられるのか見てみましょう。状況によってアプローチは異なりますが、おおまかには以下のような流れになります。

ステップ1. 早期段階で学校と認識を共有する

子どもが学校に行きたがらずに遅刻する、早退する、休むといった状況が2〜3日続いたら、周りが動き出します。親は子どもに対して登校したくない理由を聞いて学校と共有し、教師も学校での様子を親と共有します。

また、学校に常駐しているスクールカウンセラーが生徒と面談して原因を探ります。不登校に詳しい専門医を親子で受診するケースも多いです。

ステップ2. 原因を取り除く

不登校には、いじめ、学習の遅れ、家族との分離不安、適応障害、教師との相性など、さまざまな原因が考えられます。不登校の原因が特定されたら、それに合わせた対処を行います。

不登校になる子どもは強い不安やストレスを感じているケースが多いため、通常はカウンセラーとの定期的な面談を行います。子どもは不安や感情をコントロールする方法や、恐怖を感じた時にどう対処すればよいのかというスキルを学びます。親が正しく子どもをサポートできるように、親もカウンセリングを受けます。

原因がいじめなら、問題解決のために校長が積極的に介入します。アメリカはさまざまな人種が混在する背景から、「いじめ・差別は許さない」という意識が広く浸透しています。いじめは学校全体にかかわる深刻な問題であるため、担任ではなく校長が対処するのです。

学習面が問題なら、個別支援プランの検討を行います。またサポートのスタッフをつける、先生と1対1で学習する機会を増やすなど、可能な対応策を実施します。

ステップ3. 不登校中も規則正しい生活をさせる

不登校になっても、自宅では規則正しい生活をさせます。「しばらくゆっくりさせよう」と、好きなだけ眠らせたりテレビを見せたりするのはNGです。自宅を自由に過ごしやすい環境にせず、学校と同じようなスケジュールで行動や勉強をさせます。学習の遅れという新たな不登校の要因を増やさないこと、そして自宅を窮屈な場所にして登校を促すことが目的です。

親はポジティブな声がけを心がけつつも、「学校は行くべきもの」という毅然とした態度を崩してはいけません。会話する時も、「明日もし学校に行けたら…」ではなく、「明日学校で…」と行くことを前提にした話し方を意識するのがよいとされています。

elementary schoolgirl and teacher in classroom

子どもに合った学校を探すという選択肢も

「今の学校がわが子に合っていない」と強く感じたならば、転校も視野に入れます。アメリカでは学区内の公立学校以外にも、下記のようないくつかの選択肢があります。

・学区外の公立学校…希望者が、学区外の公立学校に通える地域もあります。受け入れ人数が決まっており、希望者が多い場合は抽選で選ばれます。
・チャータースクール…独自の教育理念のもと、行政の認可を受けて運営されている学校です。指定のカリキュラムに縛られないという私立学校の自由さと、授業料無料という公立学校のメリットを併せ持ちます。
・オンラインスクール…新型コロナの影響もあり、近年アメリカでは100%オンラインで運営される公立学校が増えてきました。柔軟な新しい公立学校のあり方として注目を集めています。
・ホームスクール…通学せず、親や家庭教師が指導者となって自宅で学習する教育スタイルです。近年はインターネット普及の影響もあり、毎年2〜8%の割合で増加しています。全米の家庭教育調査機関「NHERI」の2021年調査によると、ホームスクーリングで学ぶアメリカの子どもは学齢人口の6.73%(372.1万人)おり、15人に1人はホームスクーリングという計算です。今年1年間だけホームスクーリングで、という選び方をする家庭もあります。

おわりに

アメリカにおける不登校児への姿勢は厳しすぎる、と感じる人もいるでしょう。しかし、不登校で一番苦しんでいるのは子ども本人であり、できるだけ早くまた学校に行けるようにしてあげたいという思いからこのような対応が取られています。また家庭に外部が深く介入することで、本人たちだけでは気づき得なかった問題を見つけ、根本的解決を目指せるというメリットもあります。

実際にアメリカでは不登校児が少ないことから、このような対策が適しているのだといえるでしょう。

執筆:長谷川サツキ
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<参照URL>
https://www.nheri.org/how-many-homeschool-students-are-there-in-the-united-states-pre-covid-19-and-post-covid-19/
https://www.nheri.org/research-facts-on-homeschooling/#:~:text=The%20homeschool%20population%20had%20been,%2D2020%20to%202020%2D2021.

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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