フランスで人気の幼小一貫校、その実態は?現地で感じたメリットとデメリット

フランスで人気の幼小一貫校、その実態は?現地で感じたメリットとデメリット

フランスでは2019年秋から幼稚園の義務教育化がスタートし、幼小一貫教育プログラムを始める学校が増えています。

なかでも私立では幼小一貫のプログラムを伝統的に行っている学校が多く、その歴史は100年近いというものもあります。本記事では、フランスの私立幼小一貫校に通う年中と小4の娘を持つ筆者が、実体験から感じたメリット・デメリットを紹介します。

日経DUAL記事

「年長・小1」の2年間で小学校の授業内容に移行

フランスの教育カリキュラムはPS・MS(年少・年中)、GS ・CP(年長・小1)、CE1・CE2(小2・小3)、CM1・CM2(小4・小5)と2年単位で、2年間に習ったことを復習しながらカリキュラムが進められます。

また、大規模な私立校であれば、中・高校までエスカレーターで進学できるのも特徴と言えます。

まずメリットとして挙げられるのは、学習面と生活面の両方において、子どもが幼稚園から小学校へスムーズに移行できることを重視している点です。

GS ・CPでは、国語であるフランス語学習の場合、年長クラスから本格的にスペルや発音を学ぶ準備が行われます。アルファベットの組み合わせと音を合わせたり、小文字のアルファベットを本格的に読めるようにしたりと、今後の学習に向けた基礎を学びます。

算数についても、年長クラスから数についてのカリキュラムを少しずつ増やしていきます。教具やアートワークを利用しながら、数が幼児に伝わりやすいように取り入れていくなどの工夫がみられます。

このように、小学校の授業にスムーズに移行できるようなカリキュラムを5〜7歳の2年間に展開し、学習の基礎をじっくりと築いていきます。

生活のリズムや習慣も小学校へと徐々に慣らす

2年間にわたるGS ・CP プログラムの特徴は、学習だけでなく学校生活のリズムや習慣についても幼稚園から小学校へと少しずつ慣らしていく点です。

たとえば、「ぬいぐるみ禁止」「昼寝を少しずつ減らす」「休憩時間を小学校の校庭で過ごす」「学食ルームや給食メニューを徐々に小学生と同じにする」などが挙げられます。

一見するととても小さな変化なのですが、幼稚園児から小学生に変わる子どもたちにとってはかなり重要なことといえます。

8年間にわたり独自のトータル教育プログラムを提供

幼小一貫校のもう1つの大きなメリットは、幼稚園から小学校を通して整備されている独自の教育プログラムにあります。とくに私立校ではそれぞれの校風や教育方針を重視しており、オリジナリティの高いプログラムが各校の魅力といえます。

フランスの幼小一貫私立校は、主体性・自立性・多様性を重視する「オルタナティブ教育」を取り入れたり、英語教育に力を注いでいたりと、それぞれ個性豊かです。また、進学校タイプの学校からクリエーション重視の学校まで、傾向や特徴もさまざまです。

筆者の子どもたちが通う幼小一貫校は、幼稚園は子ども主体で“自己教育力”を活かす「モンテッソーリ教育」を実施。小学校は教室に決まった席を置かず、学習内容も半日は生徒個人の能力に合わせたプログラムで進行する「フレキシブル・クラスルーム教育法」を軸にしています。並行して、政府の指定プログラムも進めています。

幼稚園から自立性を重要視するオルタナティブ教育が8年間続くので、子どもたちも学習環境への適応度は高く、自分のペースで効率よく学ぶことができます。

また、英語教育にもかなり力を入れていて、ケンブリッジ英語検定試験合格と、最終学年の2年間に短期留学することを目標としています。そのために必要な英語力を、8年間にわたる幼小一貫英語カリキュラムを通じてじっくりと養います。

無料の公立校と比べると費用がかかり倍率も高い

ただ、幼稚園から大学まで完全に無料という公立校に比べ、私立校には授業料が発生します。日本やアメリカよりは安いものの、公立校は筆記用具など学習に必要な道具や研修旅行も無料なので、費用の差は大きいといえるでしょう。

また、私立校は入試が無く基本的に先着順ですが、入学希望者が多いため「まだ小さいから…」と考えているとすでに定員オーバーということも。

在校生の弟妹は優先して入学できますが、長子は申し込み開始の2〜3年前から情報収集や学校見学などの準備に追われます。大都市の人気私立校では書類選考や面接などを行う場合もあり、日本と同様に倍率はかなり高くなります。

さらに、教育プログラムが幼小一貫で組み立てられているので、途中で学校を変えるのはかなりのストレスになります。筆者の子どもたちの学校も本格的な英語教育やオルタナティブ教育を導入しているため、編入してくる子どもにとっては慣れるのに時間がかかるそうです。

幼馴染みだけで人間関係に変化がない環境

子どもたちの学校は1学年が1クラスとかなりの小規模校で、幼稚園入園から小学校卒業までほぼ同じメンバーで過ごします。人気校のため生徒の入れ替わりはほとんどないので、クラスメイトが全員幼馴染みです。

親同士もずっと同じ顔触れなので、その人付き合いの濃厚さをメリットと感じるかデメリットと感じるかは人によると思います。

また、人間関係に変化がないため、親も子も気の合う友達ができないとちょっと寂しい学校生活になりかねません。

まとめ

このように、フランスの私立幼小一貫校にはメリットもデメリットもあるといえるでしょう。

ただ、幼稚園から小学校に移行する重要な時期に、自然で緩やかな環境変化のなかで成長できることは、やはり最大のメリットだと思います。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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