精神科医への相談は敷居が低め。不登校の歯止めとなるフランスの対策とは?

精神科医への相談は敷居が低め。不登校の歯止めとなるフランスの対策とは?

フランスでは、日本ほど不登校の話は多くありません。3歳から16歳までの義務教育期間中は学校に通うかホームスクーリングを受けなければならないと、厳しく定められているからです。

また、心の問題は我慢せず早いうちに精神科医やカウンセラーに相談するという意識が高く、それが不登校の歯止めになっているといえます。筆者の体験も含め、フランスの不登校対策などを紹介します。

日経DUAL記事

カウンセリングが身近で日常的

フランスでは不登校が社会的に認められず、親が子どもを学校に通わせないのは違法だとして国が介入してきます。最も深刻な場合、両親には2年間の禁固刑と3万ユーロの罰金が科せられると刑法で規定されています。

そのため、親の判断で子どもを長期欠席させることができません。長期欠席するなら医師の診断書を学校に提出する必要があり、子どもが登校したがらない場合には親はすぐ病院に連れて行きます。子どもにとっては、それがある程度不登校の歯止めになっているように思われます。病院で健康診断を受け、からだの問題であれば医師が対処し、精神的な問題であればカウンセラーに予約を取るよう促されます。

日本とフランスの大きな違いは、フランスでは学校の先生に悩みを相談しないところ。教師は担当科目を教えるのが仕事であって、心理学の専門家ではないとの考え方だからです。「餅は餅屋」 の意識が強いフランスでは、心身の問題は医師やカウンセラーに相談するのが一般的です。

もともと国民の3人に1人はカウンセリングを受けたことがあるとされるフランスは、カウンセリングが日常的で身近にある社会といわれています。さらにコロナ禍によって、カウンセリングを受ける人が急増。そのうちの多くは若者と子どもですが、パリには未成年者が無料でカウンセリングを受けられる国立施設があります。

パリにある青少年のための無料の国立病院

パリの国立コシャン総合病院敷地内の一角に、「メゾン・ド・ソレン」と呼ばれる青少年のための病院があります。

シラク元大統領夫人が長女の摂食障害に悩んでいたとき、相談できる場所がないことに気付いたことをきっかけに建てられました。国立病院の一部なので親の収入に関係なく無料で、どの子にも門戸は開いています。

18歳までの若者は1階のオープンスペースで平日の10時〜17時まで予約不要、匿名、無料でカウンセリングが受けられ、電話での相談も受け付けています。

心の引っかかりを感じたり感情のコントロールがうまくできなかったりなど、ちょっとしたことでも保護者も一緒に相談することができます。


(「メゾン・ド・ソレン」の建物)

精神科医との親子面談やグループセラピー

メゾン・ド・ソレンにはさまざまな悩みを抱える子どもたちが、彼らを心配する大人に連れられてやって来ます。私も長男を連れて行きました。「成績が低下」「何も話したがらない」「バーチャル世界に没頭」という様子に心を痛め、「せめて第三者に話してみたら?」と勧めたのです。

待ち時間は10分程度で、看護師さんが温かく迎えてくれました。30分ほどのカウンセリングを受け、私は初めて長男が学校の交友関係で深く傷つき孤立していることを知ったのです。

その後精神科医と90分ほどの親子面接を受け、「薬は不要でカウンセリングだけで治しましょう」という方向に進みました。現在は週1回40分ほど、同施設のカウンセラーに話を聞いてもらっています。

また週1回1時間、若者たちの「ディスカッション・グループ」にも通っています。

グループセラピーの一種で、15歳〜18歳のティーンたち10人ほどがお喋りする集まりです。カウンセラーと看護師が見守るなかで、何でも自由に話せます。内容は他言しない約束のため筆者には何を話しているのか分かりませんが、とてもよい雰囲気のようです。

メゾン・ド・ソレンに通うようになってからしばらくして、学校側にも事情を伝えました。病院と学校と家庭の連携によって、長男は浮き沈みを繰り返しながらも、気力を取り戻していきました。フォローアップのために2か月に1度、1時間ほど精神科医との家族面接があり、近況報告をしています。

このようにフランスでは精神科医にかかる敷居は低く、専門家に相談できることは子どもだけではなく親としても心の拠り所があって安心です。かかりつけ医や学校からは、親が早く対処したことがよかったと言われました。


(パリの名門、アンリ四世校)

まとめ

我が子の様子がいつもと違うことに気付いても、このまま様子をみるべきか専門家に相談した方がよいのか、判断に迷う親が多いと思います。

ただ、思春期の子どもは成績低下やイラつき、食欲不振など、さまざまな形で警告を発します。「何かおかしい、言葉にできない苦しみがありそう」と感じたら、躊躇せずカウンセラーや精神科医などの専門家に頼ることをお勧めします。

<参考URL>
https://www.legifrance.gouv.fr/
http://www.mda.aphp.fr/

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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