イタリアの義務教育は「対話」が基本、親子間でも相手の意見を尊重

イタリアの義務教育は「対話」が基本、親子間でも相手の意見を尊重

イタリア人はおしゃべり好きというイメージを持つ方が多いと思いますが、その背景には学校教育があるのかもしれません。おしゃべりは「対話」のひとつで、2人以上で成り立つもの。イタリアの義務教育では教師が一方通行で教えるのではなく、「対話」が基盤であり、これは親子間でも同じです。STEAM教育で重要なコミュニケーション力にもつながる、イタリアの「対話」について紹介します。

日経DUAL記事

日本とイタリア、教育現場での違い

グローバル化が進んだ現在、親の事情によって海外で教育を受ける子どもたちが増えました。日本とイタリア、双方の国で学校に通ったある子どもが、こう語っています。

「日本は国語のテストを受けると、一字一句間違えてはいけないって言われる。イタリアは逆に、本の内容をそのまま答えることが許されないって言われる」。

日本の学校では、正しい答えを導き出すスキルを学びます。先生が教科書を基本に答えを出すための方法を伝授し、子どもたちは受動的にそれを吸収して学んでいます。

一方イタリアでは、教科書を読んだり先生の授業を聞いたりするところまでは日本と同じですが、それを理解し、思考を発展させ、自分の言葉で答えを出すという学習法が基盤になっています。

たとえば、中学2年生の歴史のテストでは、こんな問題が出されています。

「14世紀半ばのペストの流行から、ローマ教皇の親族主義の時代にいたるまでの変遷を述べなさい」

この問題の答えは、ひとつではありません。社会における経済的状況について答える子もいれば、ヨーロッパ人の精神性の変化に着目する子もいます。

そして、これらのテストは、筆記でなく口頭で行われます。イタリアの子どもたちは幼い頃から、自分の頭で考え、相手を説得できるような理論的な言葉を使うという訓練を受けているわけです。

古代ギリシアを源流とした「言葉」「対話」の重要性

近年、日本でもSTEAM教育が注目を浴びています。自分自身が決めたテーマに取り組み、独自の方法で学んでいくのが特徴で、他者とのコミュニケーション力も不可欠です。

コミュニケーション力を育むには言葉が重要な役割を持ちますが、ヨーロッパでは古代キリシアの時代から言葉や対話が重んじられてきました。

古代ギリシアでは、「リベラルアーツ7科」と呼ばれる科目が重要視されていて、現在は日本でも上智大学や国際基督教大学などが取り入れています。注目すべきは、7科のうち3つは「文法」「修辞学」「論理学」という、言葉に関連するものだということです。

つまり、それぞれ民族性や文化は異なるものの、イタリアをはじめ古代ギリシアが源流のヨーロッパでは「言葉を自由に使う」ことが基本の基となります。ギリシアの哲学者の著作からガリレオの天文学の名著にいたるまで、ヨーロッパの古典は「対話式」が多いのも特徴です。

日本とイタリア、教育現場での違い

親子間の「対話」が生み出すもの

自分で考え、自分の言葉で答えを出すという学習法が主軸のイタリアでは、親子間でも親が子どもをガミガミと頭から押さえつけて叱るという光景はあまり見られません。

たとえば、近年の子どもたちの社会問題として、「スマホ動画への依存」が挙げられます。「動画を見るのはやめて勉強しなさい」と伝えるだけなら簡単ですが、イタリアでは「なぜそれほど動画が好きなのか」という親の問いかけから始まるのです。

「好きなユーチューバーがいるから」「いろいろな流行を知ることができるから」など、子どもたちの答えは千差万別でしょう。そのように言葉にすることで、子ども自身も自分の感情を整理することができるわけです。動画を見たいがために、親を説得しようと考えて言葉を探します。

親は親で、そうした子どもの「言い訳」にも真摯に向き合います。親子であっても、「個」と「個」の話し合いであることは変わりありません。親も「動画依存」がもたらす弊害の情報に注目し、メリットとデメリットを子どもに伝えるようになります。

子どもが語る理由が理にかなっていれば、それを尊重するのも親の役割。外交や商談やと同じように、親子の間でも話し合いのなかから妥協点を見つけていくのです。

相手の意見を尊重するという行為は、自分も尊重される立場になった経験がなければ不可能です。親が絶対的な力を持って「これをしてはいけない」というしつけ方がイタリアで少ないのは、個と個でコミュニケーションを尊重する文化が根付いているからといえるでしょう。

親子間の「対話」が生み出すもの

まとめ

感情を言葉に表現することの重要性は、いくつかの研究からも明らかになっています。

この機会にイタリア式学習法も取り入れ、親子の対話を増やしてみはいかがでしょう。子どもの語彙力や表現力を伸ばすことにとどまらず、親にも気づきや学びが生まれるはずです。

<参照URL>
https://www.gse.harvard.edu/ideas/usable-knowledge/22/04/use-your-words-not-your-hands
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0885201421001179
https://www.treccani.it/enciclopedia/dialogo_%28Enciclopedia-Italiana%29/
https://www.studenti.it/prova-orale-consigli.html

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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