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現役京大生が発信する、教員免許を取得しても4割が先生にならない理由

現役京大生が発信する、教員免許を取得しても4割が先生にならない理由

京都大学大学院で教育認知心理学を専攻しながら、先生たちを助ける学生団体「Teacher Aide」を設立し共同代表として活動するじんぺーさん(@hitsuwari5th)。若い先生たちのリアルな悩みやこれからの学校教育の在り方についてお話を伺いました。


櫃割仁平さん

京都大学大学院教育学研究科で教育認知心理学を研究する傍ら、教員を助ける学生団体「Teacher Aide」を2018年に立ち上げ、日本全国の現役の教員や教員志望の学生らとよりよい働き方、教育を目指すための活動を行っている。
Twitter(https://twitter.com/hitsuwari5th
ブログ(https://www.jinpe.biz
HP(https://hitsuwari-jimpei.com

 

日経DUAL記事

現役の京大生が学生団体を立ち上げた経緯

__現在の活動について教えてください

京都教育大学の教育学部で教員免許を取得し、現在は京都大学大学院教育学研究科博士課程の1年生です。先行は教育認知心理学で、簡単に言うと「人は何に心が動くか」を研究しています。学生の傍ら、2018年に先生たちを助ける学生団体「Teacher Aide」を立ち上げ共同代表をしています。

__教育学部を卒業されて、教員にならなかった理由とは?

大学3年生の終わりに1年休学をしてニュージーランドへ留学しました。そこで、現地の先生が午後3時頃には帰り、夏休みもゆとりがある働き方を目の当たりにしました。正直「こんな働き方もあるんだ!」と衝撃を受け、そこで改めて日本の教員の働き方に疑問を持つようになりました。

その後、1年休学したことで先に同級生が先生になるのを間近で見ていたのですが、ある小学校教員の友人は朝7時に出勤して家に帰るのは夜10時。中学校に赴任した友人は4月の新学期からGWまで休みが1日もありませんでした。

僕も含めて夢であった先生という職業に苦しめられている現実を聞いて、「自分にできることって先生を支えることなのかもしれない」と僕の中で疑問が確信に変わりました。

そこで、先生を支援することを目的とした学生団体「Teacher Aide」を立ち上げました。

学生団体「Teacher Aide」の活動内容

__学生団体「Teacher Aide」ではどんな活動をしていますか?

“教員1人ひとりを幸せにする”を目標に掲げて有識者らとの勉強会などを行っています。僕らが具体的に目指しているのは以下の3つです。

その1 教員(志望学生)の意識改革

先生自身が過酷な労働状況に対して疑問を持たず、「当たり前、仕方ない」と受け入れているところがあります。たとえば、準備が大変な行事を改善しようと思わず毎年実行してしまいます。教員を目指す学生も他学部の学生に比べると、就活をすることが少ないので、自分のキャリアを批判的に考えることがあまりなく、現状に疑問を持ちにくいと思っています。ですから、現役の教員はもちろん、教員を目指す学生たちにこそ、広い視野で問題提起ができるような意識改革が必要だと思っています。

その2 教育を社会の関心事に

教育って本来地域や保護者、子どもが一緒に考えるべきだと思うのですが、現状は学校の先生の負担が大きくなっています。先生が働きやすい環境になることが結果的に子どもたちへのよりよい教育につながると考えています。そのためには、多くの人に教育の現状を知ってほしいですね。一例として、教員の現状を扱ったドキュメンタリー番組『聖職のゆくえ』(福井放送)を全国放送にする働きかけを行ったり、アイリボンの普及、SNSを使った発信(#せんせいさいこう)などを積極的に行ったりしています。

その3 愛に溢れるコミュニティの創造

働き始めた先生たちが戻って来れる場所になるよう、現在全国34支部、メンバーは300人で展開しています。教員以外にも教育に興味があって支えていきたいという人も多いです。現役の教員や教育関係者たちと情報を交換し合ったり、イベントを行ったりとリアルとオンラインを使ったコミュニティを運営しています。まだ始めたばかりですが、学生だからこそできる発信力や巻き込み力を武器に、遠回りかもしれないけれど、一歩一歩積み重ねていけたらと思っています。

__Teacher Aideの活動をしていてよかったなと感じるのはどんなときですか?

ある養護教諭の先生が、当時大変な働き方をしていて心を病んでしまっていました。そんな方が僕らのイベントに参加して「ジンぺーくんたちと出会って自分はできることがまだまだあると思えた、ありがとう」と言ってくれました。

それまでは、近くにいる手の届く範囲の人しか結局は助けることってできないのではと思っていましたが、そんなことはないなと。メンバーが増えたらより多くの先生たちを助けられるかもしれないなと感じています。



2019年3月に行われた、内田良先生講演会@京教

目指すは先生も生徒も「選択できる」教育

__じんぺーさんはどんな幼少期でしたか? なぜ京都大学に? 

小さい頃は勉強を含めて「何かをしろ」といわれた記憶がないですね。するなとも言われていないので、自由にやらせてもらっていました。ただ今振り返ると、父はよく本を読んでいましたし、母も知識豊富で、勉強が好きな両親だったと思います。とはいえゲームもしてたし、普通の子どもでしたよ。何もない空き地で、創造力を働かせて新しい遊びを友達と作るのは好きでしたね。

教員を目指そうと思ったのは、中学校の時の担任に憧れたから。脱力したかっこいい大人だったんです。京大の魅力は“自由な校風”だと思います。それぞれの好きなことに口出ししない「何でもあり」という雰囲気がありますね。確かこれまでノーベル賞受賞者は京大が一番多いのですが、1つのことをひたすら追求してつきつめるタイプが多いのではと感じます。

__これからの教育はどうあるべきだと考えますか?

先生も生徒も「選択できる」教育になるといいなと考えています。たとえば、先生は部活動の顧問もやりたければやったらいいし、やりたくなければ断れる。生徒も理想を言えば担任を選べたり、学び方も体験型、プロジェクト型、座学など好きな方法を選べたりするといいのかなと。極論を言えば学校だけが教育じゃないし、馴染めない子は行かなくても別の選択肢があっていいと思います。

教育現場の負のスパイラル“時間がないから対話できない”を解消するには

__先生たちの抱える課題を解決するために、まず何から着手すべきだと思いますか?

難しい質問ですね。文科省と言う人もいるだろうし、先生という人もいるだろうし、どっちもだという人もいると思います。一つ言えるとすれば、今は教育に関する機関同士が閉ざされているので、学校現場と行政、地域の対話の場所が必要だということです。それができるのは、学生団体である僕らの強みかもしれないと思っています。

日本の先生たちは「時間がないから対話できない」という負のスパイラルに陥っていますが、フィンランド、オランダ、デンマークなど北欧の学校では、掃除の時間に先生は何もしないし給食は専用のスタッフと分担されているところもあると聞きます。その間先生は授業の準備や休憩ができるというわけです。

また、ニュージーランドでは、僕らの活動を始める際に参考にした「Teacher Aide」という仕組みがあるのですが、保護者が夕方小学校に行って子どもたちと遊んだり、宿題を見る学童のような活動をしたりして、先生たちは先に帰ることもあるそうです。日本でも、もっと学校にいろんな大人が出入りするといいなと思います。

__日本の公立小学校で意欲的な取り組みをしているところはありますか?

自治体レベルで積極的な活動をしている教育委員会はあります。たとえば熊本市の教育長遠藤洋路さん(Twitter@endohiromichi)は、SNSを使った発信力もありますし、去年の感染症拡大後すぐからオンライン学習に移行するなどスピードがある自治体です。

また、埼玉の戸田市は、公立でも教科担任制を導入するなど先進的な取り組みをしています。

彼らのようなリーダーが各自治体にいるともっと教育は面白くなると思います。

教員免許を取得しても4割が先生にならない理由

__今、学校では教員確保に関するどのような課題がありますか?

団塊の世代の先生たちが定年退職され、若い先生が増えていると言われています。とはいえ、教員の採用倍率が下がっているのも事実。昔は20倍という時代もありましたが今は3倍。しんどいのが伝わり始めたのも、先生になりたい人が減った理由かと思います……。

僕の母校である京都教育大学でも教育学部を卒業して教員免許を取得しても、4割は教員になりません(ここ4~5年で減少傾向にあります)。

加えて、教育学部自体に行きたい人も減っています。逆にいうと親御さん的には、国立大学の教育学部はねらい目かもしれませんが(笑)。

最近、先生=“やりがい搾取”と言われています。でも、やりがいがあるなら労働環境がひどくてもいいわけではありませんよね。その一方で教員は福利厚生も手厚いし、管理職ときちんと話せば休憩も休みもとれる学校もある。僕らはフラットな立場でさまざまな立場の声を発信したいと考えています。

__Teacher Aideで実施された勉強会「令和の教育実習を考える」とはどんな内容だったのでしょうか。

教育実習=「子どもと関われて学校を知れるいい機会」である一方、さまざまな問題があるかと思います。

たとえば、実習の配属先はランダムに決められることも多いのですが、附属校がたくさんある国立大学の場合、実習先の学校まで2~3時間かかる例も少なくありません。学生たちは実費でウィークリーマンションを借りることもありますし(それを禁止する学校も!)、毎日書く分厚いレポートは紙で提出し判子をもらう。ワードで書いてメール送信ではなぜだめなのか。仕組み自体がアナログ文化なので、そこを変えてもらいたいと学生たちは切実に思っていますし、問題提起をすれば改善できる余地があると僕たちは考えています。もちろん学校側や文科省の体制などさまざまな角度での対話の場面が必要であるとは思っています。

__保護者と学校はどう関わるべきだと思いますか?

本来学校は教育の何割かを担うべき場所。子どもが過ごす多くの時間は家庭であると思います。ですから、保護者の方に先生の声をもっと聞いて、助けて欲しいというよりむしろ、「教育者の一員だよ」ということを伝えたいですし、一緒に日本の教育のことを考えていきたいと思っています。友達の先生で、愛情が満たされている子は学校でも授業の妨げになるなど先生を困らせるような行動をしないと言っている人もいます。保護者の方にはただひたすらお子さんに愛を注いであげてほしいですね。

ただ、僕らが目指すのは先生の働きやすさではなく、その先にある未来の子どもたちのためです。先生の働き方が今よりよくなれば、子どもたちにとってもよい教育になるはずだと信じていますし、僕らもその役割を担えたら嬉しいです。

著者プロフィール

SHINGA FARM(シンガファーム)編集部です。ママ・パパに役立つ子育て、教育に関する情報を発信していきます!
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