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英国は国をあげて“リケジョ”を育成!年齢段階別のきめ細かなサポートとは?

英国は国をあげて“リケジョ”を育成!年齢段階別のきめ細かなサポートとは?

富裕層では主に中等教育から男女別学が主流の英国は、男女平等を維持して雇用格差を減らすため、理工系女子(リケジョ)育成に向けたさまざまな取り組みを積極的に行っています。たとえば、著名企業のオフィス見学や生徒主導の理工系大会、有名大学における女子だけのサマースクールなどが実施されています。

そういった施策が奏功したとみられ、2019年には高等教育終了時に受験する女子のAレベル理工系受験率が初めて男子よりも増加。全国統一中等教育修了試験でも、女子の理工系成績が男子を上回る結果が出ました。英国が手がけるリケジョ育成のためのサポートを、年齢段階別に紹介します。

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就学前から博物館などで科学に触れる教育をスタート

暮らしに余裕がある英国の教育熱心な家庭では、幼い頃から入場料が無料の科学博物館などに子どもと出向きます。ハンズ・オンと呼ばれる手で触れる展示物で遊ばせるなどして、楽しみながらさまざまなことに興味を持たせる教育から始めるのが一般的です。

たとえば科学博物館恒例のシャボン玉ショーは、シャボン玉を使って気体の違いを楽しく分かりやすく説明してくれるもので、とても人気があります。そのほかにも就学前の子ども向け専用コーナーや専門家によるイベントを開催していて、子どもが興味を持ち知識を得られる機会を数多く設けています。

当然ながら、男女どちらの子どもでも同じように楽しめるように制作・運営されています。

私立の初等教育は専門的知識を得られる環境を用意

5歳から始まる英国の初等教育で、 STEM(理工系)分野については私立と公立で大差が生じてしまうのが現状です。理科や科学、IT教育に関していえば、公立学校には理科室がないなど、学校内施設によって授業内容は大きな影響を受けてしまいます。

一方、私立の小学校では、早い時期から理科室で実験を行ったり理科を専門に教える教師がいたりと、比較的専門的な知識について小さい頃から教えてもらうことができます。幼稚園からエスカレーター式に進学できるような大規模な学校は寄付も潤沢で、ちょっとした科学博物館が校内に併設されている場合もあります。

私立では高学年になると、ラテン語を語源とする難しい専門用語を使った授業やテストも行われ、専門家を迎えたワークショップに参加することもできるようになります。

コーティングやロボット系のクラブを充実させた学校も増えていて、ホームページや簡単なゲームを制作することも一般的です。STEM分野に興味があったり成績が良かったりする子どもにとっては、男女を問わず積極的に知識を得られる環境が用意されているのです。

発明大会や企業のアウトリーチプログラムが盛んな中等教育

教科別授業の特性が現れる中等教育になると、理工系女子へのサポート態勢がより明確に現われてきます。とくに私立女子校では手厚い学校が多く、その結果、ロボット系の大会でも女子校の参加校が目立つようになります。女子の社会進出を応援するため、英国政府からも理工科系に興味を持つ女子を育成するように要請や助成金が出ていることもあり、学校側も積極的に指導しているようです。

英国ではエンジニアを目指している中高学生が主体となって研究や発明品を発表し合う大会も毎年行われており、受賞作品にスポンサー企業が付いて実際に商品化されることも珍しくありません。最近はそれらの大会で、女子の参加者やグループが受賞するケースが増えてきました。

人気が高い私立中等学校ではこの様な校外学習のチャンスが多く用意されているため、受験の倍率も上がることになります。

さらに女子校は、多くの企業からアウトリーチプログラムの招待を受けます。Googleなど著名企業のオフィスへの社会科見学、英国を代表するレーシングカーのマクラーレンオートモーティブが主催する輪ゴムカーの大会、多くのエンジニア企業がスポンサーとして参加するレゴロボットの大会など、学校の授業以外でも多くの学ぶ機会を得ることができます。

13~14歳で理系・文系の選択をする英国では、中等教育という早期から、オックスフォード大学をはじめとする名門大学が女子をターゲットとしたアウトリーチプログラムに乗り出しています。少子化による減少が予測されることや学部の男女差を緩和するため、未来の女子理工科系学生を獲得しようと奮闘しているようです。

短期間の高等教育では独自プロジェクトにチャレンジ

2年間と短期間の高等教育では、授業に加え個々に独自のプロジェクトに取り組むことをすすめられます。このプロジェクトは大学受験の際に大きなポイントを得られ、なかでも理工系のプロジェクトでは受験の評価が上がるため人気があります。実際に職業体験として企業に出向き、サポートを受けたうえでハイレベルな結果につなげることができるため、得られる評価も高いのです。

まとめ

このように英国では就学前から高等教育までの各教育段階において、理工系やテクノロジーの発展に携わる人材の育成を目指していることがわかります。政府や企業、大学などが積極的にかかわり、子どもや学生に自然な形でSTEM分野に興味を持ってもらったうえで、楽しみながら学んでもらうことに力を入れているのです。

一般論として理工系が苦手とされていた女子ですが、実際には教育環境しだいで男子をもしのぎ、優秀な人材として能力を発揮できるということも明らかになりました。少子化の時代にSTEM分野での活躍が期待できる貴重な存在として、リケジョを育成・サポートする動きはますます加速していくと思われます。

執筆者/かなこ

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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