家庭でできる、グローバル化を意識した子育て

家庭でできる、グローバル化を意識した子育て

「グローバルに活躍するために必要な力とは?」と聞かれたら、どう答えるでしょうか? 「英語力」を真っ先に思い浮かべた方が多いのではと思います。もちろん英語力は大事ですが、実際に海外に住むとそれだけでは不十分だと感じることも……。そこで今回は、「これからの時代を生きる子どもたちが世界で活躍するために本当に必要なことは?」というテーマを掘り下げていきます。

日経DUAL記事

習い事で人気の英語、でもそれをゴールにしないことが大切

小さい頃から習い事をするのは、今や一般的になりつつありますが、その中でも英語教室や英会話は大人気です。「小さい頃からスタートすれば発音が身につきやすいから」という理由のほかにも、「将来に有利だから」という声も聞かれます。

「グローバルな子を育てたい」と思ったら、まずは英語となりますよね。私は外国での暮らしが長く、出産、子育てを海外で経験していますが、その中で現地の学校に出入りして子どもたちの成長を見ていると、言語は早い時期にスタートするに限ると感じています。とくに「発音」に関しては小さいお子さんほど、ネイティブの音が入りやすいなと思います。

たとえば、駐在で来られたご家族で、お子さんが2人以上いる場合、きょうだいで同時にはじめても、発音は下のお子さんの方が滑らかな傾向があります。なので、今の日本の「小さいうちから英語を」という傾向は、とてもいい流れだと感じています。

一方で、英語をマスターすればそれでグローバル人間なのかというと、そうではないということも実感しています。英語は、グローバル社会で活躍するための「道具」。本当に大事なのは、その手持ちの道具をいかに最大限に使いこなせるかだからです。

英検○級、Toeic○点というのは、受験や就職のときの証明としては役立ちますが、いざ海外に出ると、その力をフルに出せないことはよくあります。英語はツールであり、ゴールではないというのは、私自身が身をもって感じている気づきでもあるのです。

これからの世界で求められるグローバル人材とは?

これまでの長い海外生活(私自身がまず留学生として、そしてその後は母親として)の中で感じている、日本人がグローバルに活躍するために身につけたい力は、「たじろかないマインドセット」です。

日本は島国ということもあり、今でもやはり日本人が中心の国家です。これは諸外国と比べて大きく違う部分で、海外ではごく普通に外国人が暮らしています。私がこれまで住んだ事のある国々、イギリス、フランス、オランダ、ドイツ、アメリカ、どこもそうです。オランダはとくにそうで、アムステルダムの人口の6割が外国人という話も聞いたことがあります。このような環境下では、隣人が外国人と言うのは非常によくあることで、それに伴い、文化の違う人が周りにいることが当たり前になっていきます。

日本人はほぼ日本人しかいない中で育っているので、もし街中で外国人に何か話しかけられたら多くの人が身構えてしまうと思います。「うわ、ガイジンだ!」「まずい、どうしよう!」と。とくに相手が積極的にグイグイと話しかけてきたら、きっとたじろいて一歩、二歩と後ずさりしてしまうでしょう。

タジタジになってしまうのは単に英語ができないからだけではありません。さまざまな要因が関係しています。その部分がグローバル人間になるためにとても大切なポイントなので、次項では家庭でできる働きかけについてお伝えしていきます。

家庭でできるグローバル化への働きかけ3つのコツ

ここからは、ご家庭でぜひ取り組んでいきたい取り組みについて3つご紹介します。

1. 外国人や異文化への場数を増やす

前述したように、私たちはほぼ単一民族国家なので、外国人への慣れが圧倒的に足りていません。外国人を前に委縮しないために、もっとも必要なのは、やはり場数です。しかも大人になってからでは慣れるのに時間がかかるので、幼少期から場慣れを起こしておくと将来とても楽になると思います。英語を習うときは、外国人の先生がいらっしゃればベストです。

外国の人と触れ合っていることで習得できるのは英語だけではありません。その人が持っている文化的な習慣などにも自然と触れることになります。

・家の中でくつをはいていることもあること
・おはしではなく、フォークを使うこと
・ボディータッチが多いこと
・身振り手振りが大きいこと

こんなことを肌で感じることが、その子の思考を寛大にさせ、真のグローバル人間に近づけてくれます。

英語教室のみならず、外国人の人が働いているお店に行ったり、文化交流の機会があればそれに参加したり、このような形もお子さんの視野を広げてくれるのでおすすめです。

2. 意見を言う機会(意見力)を増やす

2つめのポイントは“意見力”です。これがないと、いくら英語が話せても、それを使う場がもらえません。海外の人はとても意見上手なので、そのままではタジタジになります。日本人が意見下手なのは控えめな国民性ということもありますが、でもそれだけが理由ではないとも感じています。

振り返れば、日本の教育は「意見を発表すること」よりも、「正解を求めること」「正しく覚えること」に重きが置かれているのが分かります。子どもたちが受けるテストを見れば明らかで、四択問題や○×式がでは、「合っているか」「合っていないか」が重要、その他の問題も知識を丸暗記していれば、それを自動的に当てはめて回答すればOKというものが多いですよね。

日本の国語のテストでは、「太郎くんがどう思いましたか?」と聞かれたら、文章内に書かれている「太郎君の気持ち」をそのまま抜き出します。「○文字で書き抜きなさい」のような問題もよくありますね。そこでも正解は1つです。英語の教育では、「太郎君がそう思ったことについて、君はどう思うか?」が問われます。つまり小さい頃から意見することに慣らされているのです。

日本の教育は思考力よりも暗記系が多いので、自分の頭で考える機会が少ないのが現状です。そのまま行ってしまうと、いつか将来、海外とやりとりをするということになっても、一方的に意見を言われ、自分はだんまりということになってしまいます。

意見は異見です。違っていて当然なので、人と違うことを述べることへの免疫をつけていくことが非常に大事です。違う=間違いではないという認識を浸み込ませるのです。お子さんとの日々のコミュニケーションで、「どう思う?」をたくさん用いて、「ボク(ワタシ)はこう思う」をたくさん引き出してあげてください。その際、「なるほど!」「それいいアイデアだね」とお子さんの意見を尊重する姿勢を見せると、自分で考える力が身につきやすくなります。

3. 親自身が異文化への許容範囲を広げておく

3つめは、2つめのポイントの背景にあると考えられる部分になりますが、諸外国の人と比べると、私たち日本人は物事を突き詰めて考えがちだったり、唯一の正論を追求しがちだったりと完璧主義傾向が強いと感じています。一見、物事をすべて完璧にこなせれば、ストレスのない日々が過ごせそうですが、実際には逆のことが起こり、ストレスだらけの毎日になることが多いのが実情です。なぜなら、完璧主義は100%を求めるので、それ以外の99%を許容しづらくなってしまうからです。それがグローバル化においても足かせになってしまいます。

グローバル化は異文化への許容を広げる作業と言っても過言ではありません。相手との違いを許容できる体質というのがとても大切になります。日本の常識が諸外国では当てはまらないことは日常茶飯事です。「日本ではこうなのだから、ここでもこうあるべきだ!」という頭でいると、毎日カリカリするばかりです。完璧主義傾向というのは、子育て中の親子のコミュニケーションを通して育まれる部分が大きいので、ここを意識的に変えていけるとお子さんたちにいい影響を与えることができます。

主に出やすいのは、パパやママが世間をどう見ているかという場面です。もし日々の出来事の中で、「あの店はこうすべきだ」とか、「あそこは○○じゃないと絶対ダメ」のように自分の枠を相手にも求めるような発言ばかりをしていると、子どもたちにも許容の狭さが伝わりがちです。許せるキャパシティーが狭いと、どうしてもたじろく場面を増やしてしまうので、異文化交流においてはマイナスなのです。

自分がこうだと思っていることがまかり通らないことが多い海外では、「ま、いいか」「こういうこともあるよね」という許容の気持ちはとても大事です。1つめで触れた「場数を増やす」という方法も、心のキャパシティーを広げるのに有効ですので、親子でぜひ取り組んでみてください。

今回ご紹介した内容は、私がこの20数年の間に現場で感じてきたことばかりです。英語も大事、でももっと大事なのはそれを上手に使う力です。英語力があって、外国人の前でもひるまない心がある子なら、将来、グローバルにやっていけます。グローバル教育を取り入れる際は、英語のみならず、精神面も意識することをおすすめします。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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