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自ら考え実践する力を養う。アメリカの小学校低学年にみる「SDGs×STEM教育」実例5選

自ら考え実践する力を養う。アメリカの小学校低学年にみる「SDGs×STEM教育」実例5選

2030年までの達成を目指し国連が掲げる持続可能な開発目標「SDGs」のひとつに、「質の良い教育をみんなに」という目標があります。アメリカの学校ではSTEM教育に加え、このようなSDGsを意識した取り組みが数多く実施されています。子どもが自ら考え実践する力を磨こう、という教育法です。今回は、筆者が通うアメリカの小学校で行われている「STEM教育×SDGs」に関する取り組みの実例をご紹介します。

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「質の高い教育」でより良い未来を目指すアメリカ

アメリカでは、科学・技術・工学・数学の教育に力を入れることで科学技術開発の競争力を向上させようという「STEM教育」が盛んです。加えて、SDGsでも「全ての人が質の良い教育を受けられるように」という目標が掲げられたことで、近代教育の重要性がますます注目されるようになりました。

アメリカにおいて、自主的に学ぶ姿勢を養うのに有効とされているのが「ハンズオン(実習や実験といった体験を通して学習する方式)」です。実際に手で触れ、体験し、議論を通して学ぶことで、従来の受け身の教育方式に比べ、子どもの自発性や創造性、問題解決力がアップするとして高く評価されています。世界のグローバル化とIT化が進むなか、この傾向は今後ますます加速することが予想されます。

アメリカでは義務教育の初期段階においても、以下のようなさまざまなハンズオンが行われています。

【年長】人種差別や貧困問題を考える

アメリカでは、日本では年長に当たる5歳児から義務教育(Kindergarten)が始まります。親から見ればまだまだ幼い子どもたちですが、スポンジのように何でも吸収するこの時期だからこそ「世界で何が起こっているか、自分に何ができるか」というテーマを授業のなかで積極的に取り上げていきます。

実例1. 人種差別問題への取り組み

さまざまな人種が暮らすアメリカでは、人種差別問題は身近でかつ根深い問題です。我が子のクラスでは、南北戦争時代の写真を資料に、当時の日常生活において白人と有色人種の扱いにどのような違いが読み取れるか、自分だったらどのような取り組みができるかを議論しました。5~6歳という幼い頃から人種差別問題を扱うのかと驚きましたが、社会への偏見がない今だからこその素直な感想やユニークな意見が出て、活発な討論になったようです。近年の「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動についても取り上げられました。

実例2. アートや音楽を通して世界を学ぶ

世界の歴史や文化についても学びますが、面白いのは歴史の授業としてではなく、アートや音楽の時間を通して学んでいる点です。世界のアートや民俗音楽、楽器などに触れつつ、それぞれのアートや音楽が生まれた時代背景や文化について同時に解説していくため、楽しみながら体感的に世界の多様性を学ぶことができます。

実例3. 恵まれない家庭へのプレゼント

ボランティア活動に積極的なのも、アメリカの特徴のひとつです。毎年クリスマスになると、子どもにプレゼントを買えない家庭へおもちゃを届けたり、暖かい冬が過ごせるようコートやブランケットを贈ったりします。助け合う心、いたわりの気持ちを学ぶと同時に「困っている人や国に対し、今自分には何ができるか」という考え方を養うことができます。

【小学1年生】自ら考え実践するハンズオン・プロジェクト

小学1年生になると年長で学んだことをベースに、より実践的なプロジェクトに取り組みます。教師はアドバイスをすることはあっても、「こうしなさい」とやり方を指示することはほぼありません。すべての行程は、子ども同士で議論し試行錯誤しながら進められていきます。

実例4. リサイクル品で自分たちの船を作ろう!

我が子が通う小学校の1年生が毎年取り組む、人気プロジェクトです。3人1組となり、ペットボトル、発泡スチロール、空き箱などのリサイクル品を集めて、実際に自分たちが乗れる船を作ります。最終目標は、完成した船をプールに浮かべて乗りこみ、自作のオールで漕ぎながら反対側まで沈むことなく渡り切ること。自分たちが乗れるとあって、みんな夢中になって取り組みます。

リサイクルの重要性はもとより、どうすれば人が乗れるだけの浮力を得られるか、どう補強すれば水が入らないかなど、STEM教育としても非常に興味深いものです。チーム内で意見を出し合い1つの物を作り上げる経験も、子どもたちにとって大きな財産となります。

実例5. 地元の海から塩を精製する一大プロジェクト

昨年、我が子の学校では「地元の海水から塩を精製しよう」というプロジェクトが行われました。専門家たちにアポイントメントを取って手順を学び、道具をそろえ、自分たちなりに考えた精製方法をパワーポイントにまとめ、定期的に先生に発表しながら進めていきます。試行錯誤を繰り返しながら塩を精製したあとは、地元のレストランでピザの作り方を学び、自分たちが精製した塩を使ってピサを作成しました。先生や地元の大人の協力を得ながらも、自ら考え、意見を出し、自分の口に入るまでの全行程に関わるという貴重な体験ができたプロジェクトとなりました。

まとめ

我が子がより良い未来を迎えられるように、質の良い教育を受けさせてあげたいというのは、どの親にとっても共通の願いです。なかでも小さな子どもたちは、私たち大人の創造を超えるポテンシャルを持っています。アメリカの小学校の事例のように、家庭でも小さい頃からさまざまなテーマに取り組むことで、自ら考え実践する力を育めるきっかけとなるのではないでしょうか。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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