幼児の頃から環境問題の大切さを学ぶ。英国の「持続可能な開発のための教育(ESD)」とは?

幼児の頃から環境問題の大切さを学ぶ。英国の「持続可能な開発のための教育(ESD)」とは?

「持続可能な開発のための教育(ESD)」とは、文化の多様性を尊重しながら、気候や生物などの環境や持続可能な消費と生産といった問題をカリキュラムとして学ぶことです。英国では1990年代から学校でESDを推進し、幼少期から馴染ませるために日常のレッスンに取り入れているナーサリー(幼稚園や保育園)もあります。今回は、英国南部に30園以上を展開する「トップス・デイ・ナーサリー」が実際に行っているESDアクティビティなどを紹介します。

日経DUAL記事

日々の実体験を通じて環境問題意識を高める幼児プログラム

ESDは子どもたちが遊んだり学んだりしながら、ナーサリーや学校を楽しむことができる快適な環境に発展させるための取り組みです。子どもたちは生き物や身の回りにあるものに触れながら、環境の大切さを学んでいきます。環境問題への意識を高めるためには、実践的な学習を続けることが重要と考えられているからです。

とくに幼い頃に学んだ習慣は、生涯にわたって維持することができるとされています。ナーサリーでは子どもたちが持続可能性に関するロールモデルを見ることや活動への参加など、実際の体験を通して環境問題に取り組めるように教育しているのです。

プラスチックは使わず天然素材アイテムを使用

「トップス・デイ・ナーサリー」は英国を代表する持続可能な早期教育プログラムを手がけており、国際認定プログラムのエコ・スクール賞とグリーンフラッグ賞も受賞しています。

このナーサリーではプラスチックの玩具は使用せず、葉や木、植物などといった天然資源のアイテムで子どもたち遊ばせています。天然資源は環境に優しいうえ、子どもの創造性や想像力を高めることにも役立つという考え方からです。

シンプルな天然素材は、自分自身で遊び方を探求するという楽しみを与えてくれるのです。また、独自の想像力を使って遊ぶことで、微細な運動神経を発達させたり、自分のアイデアや考えを表現する力を養えたりすることにも役立つといいます。

園内では、プラスチック製の食器やストローなども使用していません。竹製の歯ブラシというように、天然素材の物だけを使っています。化学薬品が含まれた市販のベビーワイプ(ウエットティッシュ)も使用せず、ペーパータオルに自然ハーブオイルなどを含ませた独自のワイプを活用します。繰り返し使える布おむつを利用するなど、廃棄物の削減にも取り組んでいるのです。

また、ナーサリーの建物には太陽光電力や太陽光窓フィルムを使用し、スタッフへの自転車通勤の推奨や電気自動車の充電ポイント設置など、園全体で環境問題を重視しています。

自然に触れる機会を増やしアウトドア体験から知識やスキルを習得

園内では子どもたちが自然に触れる機会をより増やすために、ハーブや野菜を育てるレッスンも行っています。土を掘ったり種まきや水やりをしたりしながら、野菜が成長する過程を見守ることで、楽しみながら生物学を学ぶことができます。

おやつや昼食の時間には、自分たちが育てた野菜を食べることもできるため、新鮮な野菜の美味しさや食料の大切さを学ぶことにもつながります。

雨水桶に貯まった水を利用して、子どもたちは庭で育てている野菜や植物に水やりをしています。そのほか、泥遊びのままごとや森についての学習、昆虫観察や昼食の後片付けなど、アウトドアでの活動を積極に取り入れています。

また、海の環境を守る慈善団体のボランティア活動に参加し、ビーチでゴミ拾いの手伝いをすることもあります。

このように子どもたちはナーサリーで、将来も持続可能な自然環境で過ごせるにはどうすればよいのかという知識や価値観、スキルなどを実際に体験しながら学んでいるのです。

社会的や文化的な持続可能性についても学ぶ

環境問題だけではなく、子どもたちは社会的・文化的な持続可能性についても学んでいます。園内には、ステレオタイプにとらわれない男女の画像を掲載した本や写真などが置かれています。

また、ストーリーテリング(語り手が自分自信の言葉を使って物語を話し聞かせること)に参加することで、社会的・文化的な持続可能性と相互依存関係についての議論を交わせるような教育も行っています。プロジェクトやグループ活動などにも定期的に参加しながら、環境保護などに関する問題を見つけ出し、それらを解決するための独自のアイデアを提案するように促します。

おわりに

「トップス・デイ・ナーサリー」のように環境問題などの持続可能性に関する教育を行うエコ・スクールは、すでに世界64か国の学校で実践されている最大級の環境プログラムです。この取り組みではゴミ、廃棄物、生物多様性、エネルギーなど、9つの視点に関する持続可能性を学ぶことが推奨されています。

世界には気候変動など、人類の開発活動に起因するさまざまな問題が山積みです。ESDはこれらの問題を主体的に捉えて解決に取り組むという、持続可能な社会の創り手を育む教育であり、今後は日本も含めさらに世界に広がっていくことでしょう。

<参考URL>
https://www.topsdaynurseries.co.uk/sustainability-goals/

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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