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教材はベストセラー絵本!フランスの幼稚園で行われているエモーショナル学習とは?

教材はベストセラー絵本!フランスの幼稚園で行われているエモーショナル学習とは?

全世界で200万部を突破しベストセラーになっている絵本「カラーモンスター」は、現在フランスの幼稚園でなくてはならない教材となっています。まだ感情のコントロールが難しい子どもたちが自分の感情を把握し、気持ちを整理して表現することをサポートしてくれる本として役立っているのです。「カラーモンスター」を教材に、フランスの幼稚園で行われているエモーショナル学習の実践方法などを紹介します。

日経DUAL記事

自分の気持ちを絵本のモンスターと一緒に色分けして整理

「カラーモンスター」はアート・セラピストとしても活動しているスペイン生まれのイラストレーター、アナ・レイスさんのポップアップ絵本です。対象年齢は3歳以上で、You Tubeの読み聞かせ動画でも大人気となっています。

幼い子どもたちの心のなかにはいつもいろいろな感情が渦巻いていて、気持の整理がうまくつかない日もあります。絵本では、子どもの混ざり合った複雑な気持ちをモンスターと一緒に入れ物に入れて、うれしい、かなしい、いかり、ふあん、おだやか、の5つの気持ちをそれぞれ色分けして整理していきます。絵本を繰り返し読むことでさまざまな感情を理解できるようになり、現在の自分を見つめる気持ちが育ちます。

欧米では、自分の感情をコントロールすることで社会を生き抜く力を育む「エモーショナル学習」が注目されています。自分や相手の感情を理解することで社会性を養うための知識やスキルを習得する学習であり、学力も向上するとされています。フランスでは「カラーモンスター」を幼児教材として取り入れることにより、子どもたちがエモーショナルな力を身に付けていくことにつなげます。

自尊心や互いに共感する気持ちを育むことを学ぶ

幼稚園の授業では園児たちに「心のなかにはたくさんの色があり、それぞれ気持ちを表す名前を持っている」ということをさまざまなアクティビティを通して伝えていきます。まずは自分の現在の気持ちを理解し、それを相手に伝えることによって、ほかの子どもたちや大人と上手にコミュニケーションをとれるようになることを目指します。

先生たちは絵本を用い、話す、説明する、質問するなど、考えていることをことばで表すことで自分を理解してもらえるような練習をさせます。この学習を通じて子どもが自尊心を育み、感情を識別し、口頭で表現する能力を身に付けることを目的にしています。さらに、ほかの子どもの表現に耳を傾け、互いに共感の気持ちを育むことも学びます。

また、絵本の「ふあん」や「おだやか」といった感情を表す言葉を通して、語彙力も高めていきます。登場するキャラクターの行動や感情の流れをたどり、それについて子どもたちが感じたことをダンスやパントマイムで表現させるのです。

絵本をベースにしたアクティビティを毎朝実施

幼稚園では、毎朝行われるアクティビティもあります。まず先生が各色のカラーモンスターのイラストをホワイトボードに貼り、子どもたちはそれぞれ、自分が朝起きてから今はどのような気持ちなのかを考えます。そして「うれしい」「かなしい」など自分の心のなかの色を考え、自分の顔写真のついたカードを心の色が同じであるカラーモンスターの場所に貼っていきます。

そして先生やクラスメイトと一緒に、今朝は自分がなぜその色なのか話し合います。

朝ご飯がおいしかったから、うれしいイエロー。
ママと離れたくなかったから、かなしいブルー。
朝、お兄ちゃんと喧嘩したから、いかりのレッド。

幼児なので言葉にすることは難しくても毎朝このアクティビティを行うことにより、子どもたちは次第に心のなかについて他者に話すという経験に慣れていきます。自分の気持ちを分析して誰かに話してみる、そしてほかの人の気持ちにも耳を傾けるという、大人になっても大切で必要なスキルを育んでいくことができます。

悲しい時は泣いても構わないなどネガティブな感情についても共感を示せるようになり、その感情を誰かにぶつけた時に相手はどう感じて何色になってしまうのか、というシミュレーションも絵本を使って行います。

絵本をベースにしたアクティビティやゲームを毎日の園生活のなかに取り入れることで、子どもたちはその時々における自分の心の色という「気持ち」を見つけられるようになります。それによって、セルフコントロール力や人への理解力といったエモーショナルな力を自然と身につけていくことができるようになるのです。

おわりに

幼いながらも子どもは毎日自分の気持ちの起伏にとまどい、些細なことにも心が大きく揺れ動いています。そういった感情を整理して理解し、少しでもコントロールできるようになれば、心の安定感につながるといえるでしょう。

さらにクラスメイトと心を分かち合うことができ、自分がここにいても大丈夫なのだという自己肯定感を得られることは、将来の社会生活に向けてとても大切です。カラーモンスターの絵本は単なるベストセラーというだけでなく、子どもたちの健やかな成長を育む手助けになっているようです。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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