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幼稚園を義務教育化したフランス。SDGsも意識したその狙いと取り組みとは?

幼稚園を義務教育化したフランス。SDGsも意識したその狙いと取り組みとは?

フランスでは「教育機会の平等」などSDGsが掲げる目標も意識し、2019年秋から幼稚園が義務教育化されました。カリキュラムも導入し、小学校就学前に習得しておくべき学習事項の「最低ライン」が明示されたのです。男女平等やダイバーシティ、ステレオタイプ思考の打破といった国の理念を教えることも盛り込まれ、障害のある子どもなどへのサポート体制も前倒しされました。幼稚園義務教育化の狙いや状況を現地からお伝えします。

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数字や言葉などさまざまなカリキュラムを導入

義務教育化に伴い、幼稚園にはさまざまなカリキュラムが導入されました。

たとえば数字については「10までの数字の読み書きができる」「物の並びを順番づけて言える」「30まで数えられる」などです。国語では「音と文字を関係づける」「大文字、小文字、筆記体の3種類を知る」「言葉のみで伝達できる」などになります。

そのほか、「社会性を身につける」「さまざまなタイプの芸術に触れる」「運動能力の向上を図る」など、項目ごとに細かく内容が定められています。さらに、曖昧になりがちだった人格教育も明確化されました。

「教育機会の平等」を打ち出し家庭で使う文房具まで完全無償化

フランスもこれまで日本と同様に、義務教育化前でもほとんどの子どもが幼稚園に通っていました。では今回何が変わったのかといえば、完全無償化など政府が全面に打ち出した「教育機会の平等」です。

筆者の子どもは公立の幼稚園に通園していますが、子どもたちの家庭環境はさまざまです。コロナ禍で園が閉鎖となった際、幼稚園は家庭でできる課題のアクティビティを各家庭にメールで発信しました。その際、鉛筆やノートが買えない家庭には個別に相談に乗るということが記載されていました。

そのため、生活が苦しくても就学義務を守っている家庭であれば、小学校入学まで紙に鉛筆でものを書くという経験がない子どもはいなくなったのです。幼稚園で使う文房具類は、すべて幼稚園(国)が提供しています。

経済的事情に加え、フランス語の問題もあります。両親ともにフランス語が母国語でない家庭は珍しくなく、フランス語をあまり話せない子どももいます。とはいえ、カリキュラムにある国語はあくまで「フランス語」です。

つまりフランス語は必須というわけですが、フランス語を話せない子どもでも幼稚園からフランス語で教育をすれば、就学時に言葉の壁が問題となる可能性が低くなります。3歳になった子ども全員に、フランス語習得の機会が与えられたことは、教育の平等につながるといえるでしょう。

障害や問題行動のある子、ギフテッドを早期に発見してサポート

筆者の子どものクラスメイトの1人には、特別なアシスタントがついています。障害があるというわけではありませんが、多動ぎみで問題があると判断されたのです。小学校に入り本格的な勉強が始まる前にサポートを受けることで、授業を妨害せずに自分も授業を受けられる準備を整えることができます。幼稚園のこのような取り組みには、本人の将来の勉強の遅れを防ぐだけでなく、就学後その子が入るクラスの円滑な運営を守るという意義もあります。

幼稚園ではカリキュラムが細かく決められているものの、宿題が出るわけでもテストがあるわけでもなく、日常や通園するなかで十分に身に着けられる内容です。ただ、各学年でこのカリキュラムのレベルに達していない場合、その子には何らかの問題があることがわかります。義務教育化によって障害がある子、グレーゾーンの子、その他問題行動がある子は早期に発見され、家庭の経済状況にかかわらずサポートが受けられるようになりました。

特別な才能を持つギフテッドの子についても、サポート体制は同様です。幼稚園の段階でギフテッドだと判断されれば、そういう子どもたちを集めた特別な教育施設で教育を受けることになります。フランスは飛び級制度があるので、それも適用されるでしょう。

小さいうちから「自由・平等・博愛」の教育を

フランスの国是(国民が認めた政治の基本的な方針)は国旗が表す通り「自由・平等・博愛」です。多国籍の人たちが暮らすフランスでは、女性や人種への差別やステレオタイプの考え方がまだ存在していますが、早期からの義務教育により「自由・平等・博愛」を教えることが可能となります。

子どもは年齢が低ければ低いほど、悪いことも良いこともスポンジのように吸収します。性別や人種などを問わず、多彩な人たちが「平等」かつ「自由」に互いに「博愛」を持って共同生活できるように教育するのは、早ければ早いほど効果があると思います。

まとめ

政府は特にSDGs という文言を掲げてはいないものの、義務教育の前倒しは教育格差を埋めたり差別をなくしたりという意味でSDGs の理念そのものです。

フランスは教育格差を埋めていくことにより、社会における格差を縮めようとしています。社会全体を底上げして貧困をなくすとともに、才能ある人材に平等な機会を提供することが目標ですが、幼稚園の義務教育化はそのための第一歩といえるかもしれません。

執筆者:クラベリ律子

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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