世界中で注目されているSEL教育との共通点も。フランス生まれの「フレネ教育」とは?

世界中で注目されているSEL教育との共通点も。フランス生まれの「フレネ教育」とは?

フランスでは、1964年以降のカリキュラムに「フレネ教育」を取り入れている公立学校が全国にあります。フランスの教育者セレスタン・フレネが発案し公立学校で始めたもので、大人が知識を授けるのではなく、子ども自身が生活のなかで抱いた興味や関心から発生した自由な表現を重視する教育方法です。フランス生まれのフレネ教育プログラム実例を紹介するとともに、現在世界中で注目されている「社会性や感情の学習」であるSEL教育との共通点についても考えたいと思います。

日経DUAL記事

子どもの「なぜ?」をベースに自己表現力や自己肯定感を高める

フレネ教育は日々の生活で子どもたちが見つけた「なぜ?」「どうして?」といった疑問をもとに教材を作成し、クラスで発表を行います。自分たちで計画を立ててともに考えながら学習を進めるという方式で、教材をクラスメイトと共同制作することにより、自己肯定感や協調性を育んでいきます。

フレネ教育の特徴的な活動としては、「自由作文」と「書籍化」が挙げられます。

まず、子どもが生活のなかで出会った「なぜ?」という“生きている世界のなかで見つけた問い ”を自由作文として文章で表現します。クラスの皆が自由作文の発表を行い、発表後はそれぞれの内容についてクラス全体でディスカッションを行います。この意見交換を通じて相互考察が生まれ、全員の多様な“生きている世界のなかで見つけた問い ”がクラス内で顕在化する環境が生まれます。

そのあと、クラスで発表された自由作文の中から1番よかったものを公平な方法を使って選び、テキストとして制作するのです。よりよいテキストに仕上がるように、クラス全員で推敲を重ねます。これら一連の学習作業によって子どもの文章表現力が培われるのに加え、それぞれ違う考え方を持つ他者がいるのは自然なことだという経験につながっていきます。

次に、子どもたちが推敲を重ねて生み出したこのテキストを、学校内で書籍化します。専門家と教師が一緒に監修し、子どもたち自身が学校の印刷機を使って本として完成させるのです。

子どもは自分たちから生まれた「なぜ?」がクラスメイトの協力でより良いテキストとなり、さらに活字化されて書籍になることを体験します。自分たちが感じた世界に対する疑問は意味のないものではなく、とても重要で必要なことなのだという事実を理解し、分かち合えるのです。それによって自己肯定感を高めることができ、自分は世界にとって必要なのだと感じる経験を通じ、学ぶことの意義を見つけることができます。

フレネ教育では、ただ “みんな”という漠然とした集合体に馴染むことが共同体としての教育とは考えていません。確立した個人が重なり合い、お互いの差異を認めたうえで、相手への尊敬心を高めていくことが重要と考えているのです。

自己管理能力と相互理解力を育む「個別学習」プログラム

フレネは教育を芸術作品に例え、「芸術的で文化的な作品は常に個人的な表現であり、信頼できる集団のなかで互いに評価し合い触発し合って高まっていく」と考えました。この理念をよく表しているフレネの教育プログラムの1つに、「個別学習」があります。

「個別学習」は個人レベルに合う教育内容を教師が用意して個別指導するのではなく、子どもが自分で学習計画を立てて自分自身で勉強を進めるというプログラムです。自分の学習計画や進み具合を活動計画表にして確認しながら学ぶため、自己管理能力も自然に育まれていきます。教師は的確な教材の準備と、子どもが本当に困っているときに助言する形で参加します。

教室にはさまざまな教材が用意され、子どもたちはそれらのなかから好きなものを自由に選んで学習することができます。この個別学習を支えるために、フレネ教育では個人学習を補助するためのさまざまな教材を考案し作成しました。

個別学習ではありますが、2週間ごとに自己評価を発表してクラスメイトにも評価してもらいます。年齢の違う子どもたちが同じ環境のなかで学べるようなクラス構成になっていて、どうしても解らない問題は年長者に聞くなど、子ども同士で教え合うことにより答えを見つけていきます。

このように、個別学習では子ども一人ひとりを尊重すること、子どもの興味や意欲を引き出すこと、失敗を恐れず取り組める環境を大切にすることを重視しています。自分の意見を自由に発表するだけでなく、ほかのクラスメイトからの批判や意見にもきちんと耳を傾けられる「相互理解力」を高めていくという考え方です。

フレネ教育に見られるSEL教育との類似点

現在、欧米を中心とする教育現場では、SEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング=Social Emotional Learning)という、感情をコントロールする学習が注目されています。自分以外の人たちと上手に意思疎通し、相手の感情を理解することで、社会で適切に行動できるようなスキルを身に付けていくことが目的です。

フレネ教育のなかには、SELで大切にしている「こどもの情緒性や社会性」を育むプログラムに通じるポイントがいくつかあります。SEL教育で重要視されている自己肯定感や自己コントロール力、自己スケジュール管理能力、相互理解力など、社会で必要とするスキルを教育現場全体で日常的に育めるという点で、両者はよく似ているといえるでしょう。

まとめ

フレネ教育の理念は「安定した自己肯定感が育まれてこそ社会性や共同性が確立し、より良い影響を与え合うことができる」というものです。半世紀以上前に導入されたプログラムですが、複雑化が予想される21世紀社会で生きていく子どもたちにこそ、求められる教育といえそうです。

日本ではまだそれほど知名度は高くないものの、子どもの個性を伸ばす教育プログラムとして、今後注目されていくかもしれません。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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