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大学進学の可否が小学校で決まってしまう!オランダの教育の「理想と現実」

大学進学の可否が小学校で決まってしまう!オランダの教育の「理想と現実」

オランダと聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。木靴や風車など牧歌的なイメージをお持ちの方が多いと思いますが、実はオランダはユニセフの「先進国の子どもの幸福度調査」で3回連続第1位となっているのです。ただ、小さいうちは自由度が高く本当に幸せそうですが、実際に現地で生活しているとさまざまな面も見えてきます。この記事では、そのようなオランダ教育の理想と現実についてお伝えします。

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落第や飛び級も多いオランダの教育システム

まずは簡単にオランダの教育について紹介しましょう。文部科学省の発表によれば、現在日本の大学・短大進学率は58.6%ですが、オランダはというと16%程度でしかありません。しかも大学進学の可否が小学校で決まってしまうという、親にとっては気が気ではないシステムです。

・小学校

オランダの義務教育は5歳からですが、通常は4歳で小学校に通い始めます。小学校は1年生から8年生までです。

日本と違って学習指導要領が細かく決められているわけではなく、個々の学校に采配が委ねられています。そのため、学校によって教育方針や学習内容がかなり異なります。モンテッソーリ(子どもの個別活動を重視しカラフルな教具が特徴)やイエナプラン(異年齢の子どもが混在するクラスや自分で時間割を決めることが特徴)など、個性的な教育プログラムをうたう学校も多いです。

「自分に合ったレベルが幸せ」という考え方から、オランダの学校は子どもを容易に落第させます。逆に優秀な子は飛び級させるため、同じ教室に年齢が大幅に違う子どもが混在していることは珍しくありません。

・中学校、高校

オランダは中高一貫教育で、3種類のレベルに分かれます。中等職業準備教育コース(VMBO)、高等一般教育コース(HAVO)、大学進学コース(VWO)です。

大学進学コース以外は少しわかりにくいと思いますので、説明を加えます。たとえば中等職業準備教育コースに進むと、その後は中等職業学校(MBO)に進み、美容師、警察官、看護師などになることができます。高等一般教育コースの卒業生は 高等職業学校(HBO)を経て、小学校の教師、技術者、上級看護師などとして社会に出ます。

6年制の大学進学コースと比べ、高等一般教育コースは5年制、中等職業準備教育コースは4年制です。

中等職業準備教育コース(VMBO)
→中等職業学校(MBO)→美容師、警察官、看護師など

高等一般教育コース(HAVO)
→HBO(高等職業学校)→ 小学校の教師、技術者、上級看護師など

大学進学コース(VWO)
→大学(WO)

 

進学先の中学校・高校の決め方は?

子どもの個性を尊重するといわれるオランダの教育を受けさせたいと、「教育移住」する日本人も増えていますが、現実はそう甘いものではありません。その大きな理由となるのがオランダ語という言語の壁と、日本とは大きく異なる進学・進級事情です。

中学校・高校はどのように決まるのかというと、全国共通修了テスト(Eindtoets)の結果と、小学校の先生の判断です。全国共通修了テストにはいくつか種類がありますが、多くの小学校ではシト・テスト(Citotoets)を採用しています。シト・テストの問題は大きく分けて算数とオランダ語です。

シト・テストですが、算数の試験は文章問題となります。オランダ語の問題は難解であり、高いオランダ語力がなければ歯が立ちません。そのため、日本人を含め外国人の子どもにとって非常にハードルの高い試験です。

小学校で大学など将来の進学レベルが決まってしまい、決定後に違うコースから大学進学させるのはとても大変なため、自衛対策を取る家庭もあります。筆者も日本人の先輩ママから事情を聞き、子どもが小さいうちからテストの準備をしました。

進学の決定には小学校の先生の判断が大きな要素を占めていますが、ときには主観的な判断になってしまうことは否めません。シト・テストが同点でも、先生の主観で1人は大学コースへ、もう1人は職業準備コースへと進路指導され、問題になったことがありました。親がオランダ語を話せない移民だったり、勉強のサポートが難しかったりという家庭の場合は、事情を考慮した先生が独断で決めることもあるようです。そのような理由で本来は優秀な子どもが高等教育を受ける機会を奪われることは、深刻な問題ともいえるでしょう。

© A. J. van der Wal

中等教育は厳しく進学や卒業も困難

中学校に入ると、授業の難易度も宿題の量も小学校時代とは桁違いとなります。このギャップの大きさに苦しむ子どもは少なくありません。また、進学や卒業も困難です。大学進学コースに通う長男の学校では、中学3年生のクラスメイトのほぼ3分の1が高校に進学できませんでした。

長男は落第を逃れましたが、同じ大学進学コースの学校でも生徒が進級できるようサポートしてくれる学校と、高校卒業時の全国テスト平均点を下げそうな生徒は早めに落第・転校させる学校があるようです。長男の学校は後者らしいということを後日聞きましたが、オランダ語がわかり事前に知っていれば、もっと心の準備ができたのではないかと思いました。

(中学校の成績は赤点も含めオンラインで瞬時にわかる)

まとめ

オランダの教育は、高い学歴を求めることを推奨してはいません。自分の身の丈に合ったレベルの学校に進むことが、子どもの幸せだと考えられているからです。しかし、実際には最終学歴が高いほど高収入の人が多いという現実から、「日本とは別の形の学歴社会」とも言われています。

外国人としてオランダで子育てをする場合には、オランダ語の壁に立ち向かい、日本とは全く異なる教育環境についての情報収集能力が不可欠です。オランダはよい国ですが、事前にそういった教育事情を理解しておくことをおすすめしたいと思います。

執筆:Yumi Wijers-Hasegawa

【参照URL】
https://www.unicef.or.jp/news/2020/0196.html
https://www.onderwijsincijfers.nl/kengetallen/onderwijs-algemeen/leerlingen-en-studenten/stromen-stromen-in-het-nederlands-onderwijs
https://www.cito.nl/onderwijs/primair-onderwijs/centrale-eindtoets

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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