自閉症や発達障害を持つ子どもへの接し方とは?ドイツが実践するインクルーシブ教育

自閉症や発達障害を持つ子どもへの接し方とは?ドイツが実践するインクルーシブ教育

近年は各国で自閉症や発達障害についての理解が進み、行政や教育機関でもサポートに力を注いでいます。

EUの中心地でもあり、ジェンダーや働き方など各種方面において多様性が尊重されているドイツも、発達障害教育についてさまざまな取り組みを行っています。実際に行われている「インクルーシブ教育」を中心に、家庭でも活用できるような事例も含めて紹介します。

日経DUAL記事

障害を否定せず個性として受け止める意識とその背景

ドイツは移民数が約2,000万人、国民に占める移民割合が約20% と、世界でも移民や難民の受け入れ数が多く多文化共生が浸透しています。多くの国籍や文化背景、宗教を持つ人たちがいるため、マイノリティを受け入れることに対して抵抗がありません。

また、差別やヘイト問題をなくしていこうという行政の取り組みも多く見受けられます。

こういった意識は、自閉症や発達障害の人たちについても共通しています。ドイツの親は子どもたちに、自閉症は「病気ではない」と伝えています。小中学生向けTV番組でも「ほかの人とは世界の見え方が異なっているだけ」「みんなとは違う目で世界を見ている」という表現を使うのです。

同時に、「病気ではないから治らない」ともしっかり伝えます。一見、辛辣でネガティブな説明に感じられますが、これは障害を否定して治そうとするのではなく、個性としてそのまま受け止めようという意味なのです。

ドイツでは「インクルーシブクラス」を積極的に導入

では、実際の教育現場では障害を持つ子どもたちにどのような支援を行なっているのでしょうか。その代表的な例が「インクルーシブクラス」の導入です。

インクルーシブの直訳は「包括的」ですが、学校教育においては、障害を持つ生徒と持たない生徒が同じ一つのクラスで学ぶということを意味します。障害を持つ生徒と持たない生徒の双方とって成長するチャンスがあるのが、「インクルーシブクラス」のメリットです。

「インクルーシブクラス」が積極的に導入されているドイツでは、親も子も障害を隠さずにいることが多く見られます。人種・国籍・言語・性などの多様性のうちの一つであるという認識で、同情的な感覚はほとんどありません。

連帯感を生み出すなど障害がない子どもにとっても貴重な場

発達障害は「治る」ものではありませんが、子どもは障害の有無にかかわらず成長し環境に対する適応能力を身に付けます。

障害を持つ子どももインクルーシブクラスで過ごすうちに、自分とほかの子どもとの違いを少しずつ理解できるようになります。そして、どのように振る舞えばよいのか、自分が苦手なことやできないことにどう対処していくのかということを、体験として学んでいくことができます。

また、障害を持たない子どもにとっても、インクルーシブクラスは「寛容性」が身につく貴重な場といえます。障害に対する偏見や、個人の違いについて考えるよいきっかけとなるでしょう。

障害がない子どもたちが教員に対して「今の問題の出し方だと全員はわかりにくいから、違う出し方をしよう」と提案し、クラスに連帯感が生まれたというケースもあったそうです。

教育現場以外でも見られるインクルーシブプログラムへの取り組み

ドイツでは教育現場以外でも、さまざまなインクルーシブプログラムが展開されています。そのなかから、家庭でも実践できそうな取り組みを行っている事例を紹介します。

スポーツクラブ

ベルリン在住の夫婦によって始められた親子でスポーツを楽しむ民間の「子どもクラブ・ヨパラ」では、小学校低学年とその親を対象としたプログラムを実施しています。障害の有無に関しての決まりはとくにありませんが、軽度の発達障害やその疑いがある子どもが多いようです。

内容は、トランポリンやダンス、リトミックといったリズム運動が中心で、10人ほどで楽しみます。大人数だと子どもにストレスがかかってしまう可能性も考えられるため、10人以下の小規模なレッスンがおすすめとしています。

繰り返し体を動かすダンスやトランポリンを親子で一緒に楽しみながら、苦手な音などがあれば親がその“音”をとって歌ってあげるとよいようです。リズム運動を通して身体のコーディネーションや言語のバランスがよくなったという報告もあり、親子ともからだを動かすことで気持ちを発散することもできそうです。

自然と触れ合うことができる施設

もともと植物の観察教材を学校に提供するために設立された「ベルリン園芸学校」は、ベルリン市域などに複数の施設が存在します。学校外の「緑の学習の場」と位置づけられ、現在もさまざまな環境教育を手がけています。

植物や園芸、調理などを通じて自然と触れあうことができるもので、インクルーシブクラスの授業でも活用されているのです。

プログラムの背景には、障害の有無に関わらず、素手や素足で自然に触れる行為は子どもの成長に必要という考え方があります。素足で土や泥を踏んだり、手作りした小麦と本物の石焼釜を使ってパンを焼いて食べたりといった体験もできます。

苦労して自分で作ったものを食べるという達成感を通じ、生きるうえでの大切な感覚を養ってもらうのです。

ドイツのこういったプログラムにならった取り組みは、家庭でも実行できるかもしれません。公園や川、野原などでたまには素足で遊ばせたり、調理する機会を提供したりすることで、触る・食べる・嗅ぐなどの五感を使った知的活動の促進につながります。

ただ、発達障害児のなかには手足が汚れることを嫌う子どもいるため、手袋や靴下の上から触らせるなどの工夫も必要といえます。

まとめ

最近は日本の学校でも、インクルーシブクラスを取り入れる動きが少しずつですが見られるようになったようです。また教育現場以外でもインクルーシブ教育の取り組みが始まっていて、公共施設をはじめ美術館や博物館などでもイベントや体験会などが開催されていると聞いています。

現在は新型コロナウィルスの影響で外出もままならない日々が続きますが、さまざまな子ども向けオンラインサービスも登場しています。からだや手足を動かすプログラムも多いので、発達障害の有無にかかわらず親子で楽しめるのではないでしょうか。

執筆者名/南千尋

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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