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天才・優秀生徒が芽を伸ばすアメリカの教育最前線『ギフテッド教育』とは

天才・優秀生徒が芽を伸ばすアメリカの教育最前線『ギフテッド教育』とは

大学のキャンパスで行われるサマースクール。遠方からの生徒は寮に宿泊する

アメリカでは、才に長けた生徒を選抜し特殊教育を行う「ギフテッド教育(Gifted education、GATE:Gifted and Talented Education)」というプログラム(以下GATEプログラム)があります。

今回はこのプログラムの種類、選抜方法や授業内容について、実際に参加した経験から見えた情報をリポートします。自分のお子さんの才能を見つける「気づきのチャンス」になればと思います。

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さまざまな形態を持つ「GATE」

「GATEプログラム」にはさまざまな形態があり、州や学区によっても異なってきます。GATEに関しては、以下の3つに分類することができます。

1、学校内の上位層向けに設けられたクラス

最も一般的なのは、学校内に「ビルトイン」されたプログラムです。州統一標準テストや授業における成績上位者を選抜、通常授業の一部において上級・先取り学習を行う仕組みになっています。

GATEプログラムを推進する地域もありますが、「教育格差を助長する・教育予算の配分が不公平」などと言った理由から消極的な地域もあります。筆者の子どもが通う学区では、7年生(中学1年生)から選抜された上位2〜3%の生徒が、同学区の高校で一部の授業を受講するシステムです。

2、優秀生徒を選抜した特殊学校

「マグネットスクール」と呼ばれ、公立校でありながら試験・面接・課外活動実績で生徒を選抜します(抽選を含む場合もあり)。

理数系・芸術系・IB系 (国際的大学入学資格)など学校によってそれぞれの特色があり、小学校から高校まで設置されている学年もあるなど、地域によって異なってきます。

この学校の設立は本来、地域による人種の偏りをなくし教育環境を均等にする目的で作られましたが、今はエリート選抜校と化し、ニューヨークなどの大都市では受験競争が過熱するなど、本来の目的とは違った進化をしているのが現状です。

3、大学などに併設された民間プログラム

大学や民間教育機関に併設されており、学校が休みの土日や夏休みに「学校外」で参加する形式になっています。全米各地にさまざまなプログラムが用意され、ジョーンズ・ホプキンス大学・デューク大学・ノースウェスタン大学などに併設されたプログラムが有名です。

民間であるだけに、国語系(読解、エッセイ作文)、数学系(上級代数・幾何)、IT系(プログラミング・ロボット)、サイエンス系(物理・化学)、社会系(歴史、政治)、とさまざまな科目から選択できるシステム。

ただし、公立学校のGATEとは異なるので当然費用もかかってきます。例えば、3週間のサマースクールに行くとすると20〜30万円(寮に宿泊の場合はプラス10〜20万円)とそれなりに高額です。

選抜に関しては、プログラムが指定する標準テスト(中学生対象のPSAT8/9・SCAT・ SSAT・高校生対象のSAT・ACTなど)の点数要件をクリアするか、学校の成績や担任からの推薦書、家庭教師や自宅学習の内容(ポートフォリオ)を提出して審査されます。

標準テストは英語・数学のシンプルな基本問題で3〜4時間かけて行われます。日本における受験独特の『難問奇問』と言った類を解く能力は求められないので、基礎をしっかり身につけておくということが一番重要になってきます。

先取り学習とアクティブラーニングが主体

GATEといっても、内容は実にさまざまで一概に定義するのは難しいですが、基本の柱となるのは「先取り学習」と「アクティブラーニング」です。

自分の学年よりも数年上の内容に加えて、レポート作成やグループワーク、プレゼンテーションなどのアクティブラーニングを組み合わせて進められていきます。中学生であれば高校、高校生であれば大学のレベルに達することを目標にします。

例えば、筆者の子ども(小学5年)が参加したサマースクールの数学コース。5〜8年生(中学2年)向けに、9年生(中学3年)向けの数学を教えるという内容でした。

授業内容はストーリーから数学的問題を読み解き、それをまとめてレポートにする。さらにグループで数学的な題についてポスターを作ることなどが中心です。

数学のイメージにあるような難しい問題を解いていくといったような数学的な要素よりも、論理的思考を駆使し、それを文章で表すという点がチャレンジであり、かつ新鮮な体験となったようでした。


高校数学を先取り学習するコース。アクティブラーニングが取り入れられている

GATEをステップにして高校や大学で才能をどう開花させるか

GATEは高校入学後の大学受験準備につながっていきます。アメリカの高校は、多くの授業がレベル別にわかれており、成績優秀者は「AP(Advance Placement)」という大学の単位として認められる上級選択科目を履修します。

大学入学審査においてその成績が重視されるため、GATEでの先取り教育は威力を発揮してくれます。また飛び級制度がある学校であれば、早めに大学進学することもでき、優秀な学生には学費援助が多く出る制度もあります。

ただ、アメリカの大学受験は標準テストや学校の成績だけではない多面的評価であるので(壮絶なアメリカ大学受験【学力+人間力+財力+時の運】が鍵を握るシビアな事情参照)、学業成績が優秀なだけでは乗り切れないのが現実です。GATEを生かし大会での受賞、生徒会・社会活動などに発展させる必要があります。

例えば、理系のテーマ別大会「Science Olympiad」、高度なリサーチが競われる「Intel International Science and Engineering Fair」、弁論大会「National Forensic League」、高校生による疑似国会運営「Boys and Girls Nation」、ビジネスアイディアコンテスト「Diamond Challenge」など高校生向けのアカデミックな大会・コンテストが数多くあります。

社会的には、GATEが「一部の優秀者だけを引き上げて教育格差を生む」という批判もあるのも事実です。しかし、「成績優秀→GATE→高学歴」というありきたりなエリート街道だけが成功ルートではないことも、アメリカの懐の深いところかもしれません。

教育熱心な家庭がすべてGATEに向かうわけではなく、スポーツや芸術、社会活動などを教育の軸とし、それを大学進学や就職につなげるという戦略の家庭も多くあります。

今回はGATEをご紹介しましたが、アメリカの教育システムは、皆が同一の方法で一方向に向かうばかりではありません。日本で考える以上に、成功のパターンにもいろいろな選択肢が用意され、自身や家庭の教育方針などによって選べることで、子どもの可能性を広げられる大きな魅力とも言えるでしょう。

著者プロフィール

世界35カ国に在住の200名以上のリサーチャー・ライターのネットワークをもち(2017年12月時点)、企業の海外での市場調査やプロモーションをサポートしている。

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