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少数精鋭のオーストラリアの私立小学校 家庭的雰囲気のなかで体験重視の教育

少数精鋭のオーストラリアの私立小学校 家庭的雰囲気のなかで体験重視の教育

オーストラリアのメルボルンにある「フィッツロイ・コミュニティー・スクール(FCS)」は、元教師の夫婦が創立した共学の私立小学校です。学校を家庭の延長と考え、自由な雰囲気のなかで教育する方針をとっています。

それぞれの生徒が関心と興味を持つことに焦点を当てて才能を伸ばす少数精鋭の考え方を基本としながらも、英語や算数などの基本科目ではプログラムを作成し、テストを通じて着実に教育します。何よりも生徒たちの明るさと活力が印象的な学校です。

日経DUAL記事

学校の成り立ちと構成

今から44年前に、当時教師をしていたフェイ・ベリーマンとフィリップ・オキャロル夫婦が自分たちの子どもを入れたい学校を見つけることができなかったため、フィッツロイの自宅に理想とする学校を開設したのがFCSの始まりです。現在は、夫婦の息子が校長を務めています。

徐々に入学を希望する生徒が増えたことから、政府の援助金を受けて2014年にはメルボルン近郊のソーンベリーにもう一つのキャンパスを設立しました。

FCSは少数精鋭に重きを置いているので、現在の在校生は2校合わせて112人です。オーストラリアには幼稚園終了後に「プレップ」と呼ばれる小学校準備期間が1年あるため、学年は全部で7学年となります。

つまり1学年あたり16人となり、キャンパスが2つあるので各キャンパスの1学年の生徒数は8人と少数です。

ちなみに学校が考える上限数は1学年10人とのことです。

教室での授業は2~3学年が一緒に学ぶに複学年制度をとっているので、学習レベルの異なる生徒同士が互いに影響を与えやすい環境で学んでいるといえます。


(ソーンベリーキャンパス)

「自立心を養う」ための教育方針を導入

FCSは身体・精神ともに健康な子どもの育成を目指し、やりたいことを本人たちに探させたうえである程度のリスクをとらせるという「自立心を養う」教育方針を重視しています。

教師が企画・計画したカリキュラムだけを生徒に実行させるのではなく、生徒自身が興味や関心を抱くものを見つけて挑戦させるために、1日の3分の2にあたる時間が使われているのです。

生徒が自ら実行していることを挙げてみると、読書、チェス、フットボール、ビデオ作り、ガーデニング、楽器の練習などです。そのほかにも学校行事として、スポーツ大会、社会見学、キャンプといった実際の体験を通して学ぶ催しも頻繁に実施されています。

学校全体で行なう発表会を通じて「人間関係力を養う」

力を入れているもう一つの教育方針が、「人間関係力を養う」ことです。人間関係力のなかで軸となるのはコミュニケーション力ですが、この力を養うため実施しているのが学期ごとに学校全体で行うミュージカルや演劇の発表会です。

決まってから発表会を開くまでには2~3カ月を要しますが、そのあいだに生徒たちは舞台装置の製作に参加したり、セリフや音楽や踊りの練習を行ったりします。こうしたアクティビティを通して、演技や音楽や踊りだけでなくチームワークやコミュニケーション力を学んでいきます。


(学校全体のスポーツ大会)

一般的に、自由精神に重きを置く教育方針は自由奔放主義に陥りやすい傾向がありますが、FCSでは当番を決めて生徒が教室を掃除するなど「責任感を養う」ことも重視しています。

生徒による掃除は日本では当たり前ですが、オーストラリアでは専門の清掃員が校内を掃除するのが普通です。その意味では、生徒による校内清掃というのはオーストラリアでは画期的な教育方針といえるでしょう。

自由主義教育を貫くも「基礎学力を養う」取り組みに高い評価

自由主義教育では重視されないことも多い学力の育成については、独自の方法を取り入れた「フィッツロイ読み&算数プログラム」という学習を英語と算数に導入しています。生徒は自分のレベルに合ったワークブックを使って勉強し、定期的にテストを受けて必要なスキル獲得の確認後、次第にレベルを上げていくという手法です。

実際にFCSの生徒の学力は、オーストラリアの各学校のレベルを調査し評価する「ベター・エデュケーション(Better Education)」という評価システムで2016年に99点、2017年と2018年には最高点の100点という高い評価を受けています。この評価は、各学校の英語と算数の学力を比較する偏差値テスト「NAPLAN」の結果を主な基準としています。

フィッツロイ・コミュニティー・スクールには、筆者の知り合いの子どもたちが通っています。そのため何度か学校を訪ねたことがありますが、とくに驚かされるのが生徒たちの明るさと活力です。大人でも同じだと思いますが、子どもは物事に興味を抱いてハッピーであるときに、最も学ぶ力を発揮するのではないかと感じさせられます。

【参考URL】
(公式サイト)
http://www.fcs.vic.edu.au/index.php
http://www.fcs.vic.edu.au/thornbury-opening.php
(概要)
https://www.sbs.com.au/news/thefeed/story/happy-schools-teaching-kids-be-happy-well-smart
https://www.smh.com.au/education/free-spirits-rule-in-this-family-affair-20120914-25x5h.html
(学校のデータ)
https://www.goodschools.com.au/compare-schools/in-FitzroyNorth-3068/fitzroy-community-school
(学校学力評価)
https://bettereducation.com.au/school/Primary/vic/vic_top_primary_schools.aspx
https://bettereducation.com.au/forum/yaf_postst167_School-Rankings-Based-on-Academic-Results.aspx
https://www.goodschools.com.au/compare-schools/in-FitzroyNorth-3068/fitzroy-community-school/naplan-score
(学校の一般的な評価)
http://www.jamesgutteridge.com.au/2012/08/6-more-points-on-fcs.html
http://www.jamesgutteridge.com.au/2012/07/5-points-on-fitzroy-community-school.html

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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