わが子が他の子に加害されたときの対処法【未就学児編】

わが子が他の子に加害されたときの対処法【未就学児編】

子ども同士のもめごとは、常に親の悩みではありますが、もし自分の子どもが“やられた側”の場合、心穏やかにはいられません。ここでは、6歳くらいまでの幼少期に起こりがちなトラブルで、わが子が被害を受けてしまった場合にどのような対応をしていったらよいのかを見ていきます。

日経DUAL記事

未就学児の「加害」とは何を指すのか?

今回は“加害“という強い言葉をテーマにしているということもあり、まず初めにこの記事ではどのようなことを加害として捉えているかを定義しておきたいと思います。

・身体的な痛みを伴う行為
例:友だちに叩かれた、蹴られた、押し倒された、など
・心理的な痛みを伴う行為
例:傷つく言葉を言われた、変なあだ名をつけられた、など
・性的ないやがらせ
例:パンツやスカートを下ろされた、トイレのドアを開けられた、お尻を触られた、など

このような行為が挙げられると考えています。
これを見て、厚生労働省が定義する児童虐待とほぼ通じていることに気づかれた方もいるかもしれません。そこでは、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトの4つが児童虐待としてリストされていますが、ここではネグレクト以外を含んでいます。ネグレクトに当たる“無視”は、もう少し大きくなってから顕著になってくるので、ここではあえて幼稚園くらいまでに起こりやすいものをリストしました。

親が現場にいたときの対処法

「公園で遊んでいたら、よその子に叩かれてしまった!」そのようなときにどう行動したらいいのか、どこまで介入したらいいのかと迷う方は多いと思うので、まずは自分が現場にいたときに何ができるかを見ていきましょう。

何より大事なのは、子どもの気持ちを受け止めてあげることです。おそらくは泣いてママやパパに訴えたり、走って戻ってくると思うので、抱き上げるか、もしくは自分がしゃがむかして目線を合わせ、話ができるようなら、「大丈夫?」「何があったの?」と聞いてあげてください。その際は状況を公平に把握しようとすることも大事です。逆に瞬時に感情的になってリアクションしてしまうのは避けましょう。

いったん状況が把握できたとしても、親がどこまで首を突っ込んでいいものかと悩んでしまい、「過干渉になるのでは」と迷う方も多いようです。たしかに、理想は子ども同士で解決できることかもしれませんが、それは場数を踏んでからの話。8歳の子にはできることでも、3歳の子ではできないこともたくさんあります。小さい子ほど、泣く、逃げる、やり返すなどの本能的な対応になりがちなので、「こんなときはこんな風に対応したらいいんだよ」という立ち回りのお手本を、年齢に応じて伝授していくことはとても大事なことです。

自分で意志を伝えられるのは3歳から!

2歳くらいまでは、たとえイヤな思いをしても、まだ言葉で相手に「やめて」と意思を伝えるのは難しいと思うので、そこは親が入り、状況によっては相手の親御さんに伝えていきましょう。3歳以降、親が伝えてきたお手本を活かし、少しずつ現場で気持ちを相手に伝える練習を促していきます。その子の性格や言語の発達も関係してくるので、この年齢通りに進まないことも多々ありますが、いずれにしても、親がロールモデルを示す⇒子どもに少しずつやらせてみる⇒子どもが1人で伝えてみる、と徐々にステップアップさせていくことを意識してみてください。

意識したいポイント:3歳を過ぎたら、少しずつ現場で気持ちを相手に伝える練習を!
・子どもの気持ちを受け止める
・事の顛末を公平に理解するよう努める
・年齢により、親が介入する 
・できる子は自分で気持ちを伝える

親が現場にいなかった場合の対処法

保育園や幼稚園など、親から離れている場面で子ども同士のもめごとが起こることもよくあります。園から戻って、「なんだかいつもと様子が違う」と感じて気づく場合もあれば、子どもの方から直接、「○○ちゃんに~~された」と言ってくることもあるでしょう。その場にいない分、親は何が起こったのかと心配になったり、一気に怒りが湧く人もいると思いますが、意識的に気持ちを落ち着かせ、まずは子どもからの話をさえぎらずに聞いていきましょう。そしてできればそれをメモに残しておけるといいと思います。

いきなり親があれこれと質問攻めにしてしまうと、その流れで子どもが話しにくくなってしまったり、逆に話しが湾曲してしまうことにもなりかねないので、まずは子どもが感じたままの描写を受け止めてあげましょう。「うんうん」「そっか、そっか」「そうだったんだね」という受け止めがちょうどいいと思います。

そしてその後に、5W2H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように、どれくらい)をベースに聞けると、状況がつかみやすくなるでしょう。

その際に気をつけていきたいのは、子どもは自分の視点で説明をしているという点です。幼稚園生くらいまでは、まだ客観的に物事を見る力が成長段階のため、どうしても自分から見た情景描写になりがちです。事実の一側面ではあるものの、すべてを捉えているとは限らないので、わが子の言葉だけで、「だれが悪い」と結論づけずに、現場にいた大人に話しを聞いていくのが賢明です。園であれば、先生に相談してみてください。

意識したいポイント:子どもは自分の視点で説明をしている!
・まずは子どもからの話を聞く
・5W2Hで具体的な状況をつかむ
・それらを事実の一側面として捉える
・現場にいた大人に話しを聞いてみる

親同士の価値観が違うことが状況を複雑にする

私の相談室でも、ときおり加害された側の親御さんのご相談を受けることがあります。お話しを聞いていて、ほとんどのケースで共通しているのが、相手の親御さんとの価値観の違いで悩んでいる点です。
わが子がイヤな思いをしたという事実について悩むのは当然ですが、大人同士のやりとりで辛い思いをしている人が少なくないのです。

たとえば、
・相手の親が悪いと思っていない
・多数決で自分が悪い気にさせられしまう

など。

子どもが叩かれているという現実があるのにもかかわらず、相手の親御さんに、「子どもはそうやって成長していくものですよ」と言われてしまった。しかもその周囲の親たちも同じ意見で、「自分が間違っているのか」と子どもの1件のショックに加え、親自身も打たれた気持ちになってしまう。このようなことも起こり得ます。正しい見方をしているはずなのに、追い込まれてしまうことがあるので、そういう場合は、そこに関わっていない人(友人や自分の親・きょうだいなど)に状況を聞いてもらい、客観的な意見を求めていくこともとても大事なことです。

一方、まれではありますが、「自分が敏感になり過ぎていた……」ということもあります。わが子がほんの少しでもイヤな思いをすることが許容できず、子ども同士の関わりの中にすぐに飛び込んでいってしまう。親の価値観が1つ前の例とは逆方向に極端な場合です。

このように、親の価値観は本当に人それぞれなので、子どものもめごとに親同士が関わったことで、余計に事が大きくなってしまうことはよくあります。

意識したいポイント:感情論や多数決を避け、ニュートラルな形で状況を改善する
・年齢的に可能であれば、子ども同士で話す機会を設ける
・親が入る場合は公平に話せる場の工夫をする(中立の立場の人が場を進行する)

わが子が被害に遭わないための2つの工夫

これまでたくさんのご家庭のお話しを聞いたり、さまざまなレポートに目を通したりすることで感じているのは、被害に遭いやすいタイプのお子さんはいるということです。お友だちを叩いたりするのは、もちろんやった方が悪いので、そこを改めるべきなのですが、被害に遭いにくくするということも大事な視点だと私は考えています。

・「やめて」「やだ」と伝える練習をする
とくに性格的に消極的な子は、なかなか抵抗できずにいることが多いようです。Noと言う勇気がないということもありますが、方法として知らないということもあります。イヤなことをされたときに「やめて」「やだ」と言っていいんだよ、ということをお家で共有し、言う練習しておくと、いざというときに出やすくなります。ごっこ遊びを介してでもいいので、イヤなものにイヤと言ったり、先生に言いに行ったりする練習をしておけるといいと思います。

・過保護を避ける
イギリスのいじめに関する調査によれば、過保護な子育てはそのリスクを高めてしまうとのこと。親がわが子をしっかり支え、見守ることはいじめのリスクを減らす力になる一方で、守り過ぎてしまうと逆効果ということだそうです。

子どもがイヤな思いをしないようにと、親が先回りしてお膳立てしてあげたり、代わりに解決してあげたりというのは、小さいうちはだれもが少なからずやっていることではあります。
しかしそれがあらゆることにあてがわれ、「ちょっとでもイヤな思いをしないように」とやり過ぎてしまうと、子ども自身で、「困ったぞ」「どうしたらいいかな」と問題解決を試す機会もなく通り過ぎてしまいます。自分の育児が「過保護傾向があるかも」と感じたら、そこを見直すことも対策の1つと言えるでしょう。
子ども同士での立ち回りに強くなるためにも、小さいうちから公園などの現場で、子ども同士の関わりを増やしていくこともその子の自分力育成につながるはずです。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

  • twitter
  • はてなブックマーク
  • LINE

関連記事

新着記事