「待てない親」が増えている!? 失敗に弱い、考えない、自信がないなどの悪影響も

「待てない親」が増えている!? 失敗に弱い、考えない、自信がないなどの悪影響も

「親が子どものことを待てない」と聞くと、「さっさとしなさい」「早くやって」と急かしている場面を思い浮かべるかもしれません。もちろんこれもそうですが、実際にはさまざまな心理が結果的に“待てていない”という状態を生み出しています。そこで今回は親側の待てない心理を分析しながら、それがもたらす子どもたちへの影響などについて見ていきたいと思います。

日経DUAL記事

待てない心理を5つのタイプ別で解説!

朝の支度の場面など、時間に追われて子どもを急かしてしまうことはよくあるものです。「ぐずぐずしていたら遅れちゃう。もう待っていられない」というおなじみのパターンです。ですが、親が待てないのはそのような場面だけではなく、意外と色々な状況で待てていないことがあり、むしろその方が深刻だったりします。まずはそれぞれの背後にある心理ごとに、典型的なものを5つご紹介しましょう。

タイプ① わが子の失敗を見ていられない!

子どものとまどう姿やできない状況に対し敏感で、「このままだとつまづくかも」と察知すると、すぐに動いてしまうタイプです。成長過程にある子どもたちは、実際には日々失敗の連続で、それを通して成長をしていくものですが、このタイプの親御さんは、子どもの心をまるで壊れやすいガラス細工のように捉えているため、かなり手前でアンテナが反応してしまい、先回りして子どもの失敗を未然に防いでいきます。わが子がてこずる場面に直面するのがいやなので、結果的に待たずに中に入り込んでしまうのです。「○○したらかわいそう」という思いが強いのが特徴的です。

タイプ② めんどうなことになるのを避けたい

子どもの行動を待つという行為は、ある程度の時間の余裕や心の余裕が必要です。「子どもにやらせたらあとが大変」「自分でやった方がずっと早い」というのはよく聞く言葉で、待ってあげたい思いはあるものの、それが余計な手間を生む気がして、待つことなく親が代わりにやってしまうのがこのタイプです。

タイプ③ 親の理想像を追ってしまう

子育てに明確な方針や理想を持っていて、「わが子をこうやって育てたい」という強い思いがあるため、それを前に出してソフトコントロールしてしまうタイプです。自分が歩んできた道に満足していれば「私がやってきたように」と思い、逆に自分が叶えられなかった夢がある場合は「わが子には」と動いてしまいます。いずれも、「この子のため」と思ってそうしていることが多いので、子どもの意志よりも親の理想を優先していることや、一歩引いて待つことが苦手だいうことに気づいていないことも多いと思います。

タイプ④ 子どもにはいい気分でいてほしい

1つめのタイプと重なることも多いのがこのケースです。子どもにはいつもにこにこ過ごしてほしい、ご機嫌でいてほしいと思っており、その状態が順調な育児や成長のバロメーターのように感じられてしまいます。子どもが笑っていたら、「私はいい育児をしている」「この子はすくすく育っている」という感覚です。そのため、子どもが不機嫌だったり、泣いてしまうような場面に罪悪感を持ちやすく、そうならないよう奔走するため、「待たない状態」が発生しやすくなります。「子どもの毎日を盛り上げるエンターテイナーになっている」というのは、このタイプの親御さんによく見られる状態です。

タイプ⑤ 言われる前にフライングして満たしてしまう

最後は子どもがまだ何も発していない段階で動いてしまう点で、上の4つ以上に待てていないタイプと言えるかもしれません。子どもの欲求を察し、満たしていくことは、一見、良さそうに見える対応ですが、状況によっては成長を妨げることにもつながってしまいます。たとえば、のどが渇いているとき、子どもが「お水」と言って、親がコップに注いであげる。これは望ましいコミュニケーションですが、親が先回りし過ぎている場合、子どもがまだ何も示していない段階で、「お水ほしいね」「のど乾いたね」と対応してしまうことがあります。赤ちゃん時代であれば言葉で訴えることができないので察する力は大事ですが、言葉が出始めて以降もこのような先回りを繰り返してしまうと、「お水」と子どもから発信する機会を失わせてしまいます。子どもが言うまで待てると、言語の発達やコミュニケーションの練習にもつながるわけです。

いかがでしょうか? 「私はこれだ」とばっちり当てはまる方もいるかと思いますが、少しずつ色々当てはまっている人の方が多いかもしれません。

待たない育児、子どもへの影響は?

親が待つことなく、子どもに手を差しのべると、その場は“いい感じ”に進むかもしれません。でも、それが日々のパターンとして積み重なっていけば、その子のさまざまな対応力に影響を及ぼすこともあるでしょう。

たとえば、
・失敗に弱い→できないという経験をする前に親がやってくれたから
・物事を安易に考えてしまう→うまく事が進むことが多かったから
・自ら考えない→深く考えなくても、親が手はずを整えてくれていたから
・踏ん張れない→粘る前に助け舟が出ていたから
・物事に対して受け身である→親の示した道を歩むことに慣れてしまったから
・がまんがきかない→時間をかけて取り組むことが少なかったから
・自信がない→取り組んできた経験値が少ないから

これらは、待たない子育てがもたらしうる子どもたちへの影響として考えられるものです。

子どもの行動を待てない理由は上記のとおりさまざまありますが、共通して言えることは、子どもが自ら何かに取り組む時間が短くなりがちということです。親が手はずを整えてあげることで、物事がスムーズに進むことに慣れてしまうと、それがその子にとっての「当たり前のパターン」になっていき、ちょっと負荷がかかるだけでも「大変だ」と感じやすくなってしまいます。

待てない親×受け身な子どものコンビにならないために

上記で挙げたような影響は後になって出てくるものなので、実際の待てていない場面ではそれが問題として捉えられないことが多いものです。とくに子どもからすれば、ママやパパが手を差しのべてくれるわけですから悪い気はしません。そのため、親が待てないという状況に対し、子どもから不満が出ることは起こりにくいと言えます。「すぐにやってあげる親」「すぐにやってもらう子ども」という“いいコンビ”になっていくため、なかなか気づかずにずるずると年月が経ってしまうことも少なくありません。

たとえば、工作やお絵かきなどでも、親にやってもらうことを好む子がいます。パパやママにやってもらった方がもっと“いい作品”ができることを経験で知っているとやはりそうなりやすくなるものです。親はいい作品にしたいし、子どもはすごいものを作ってもらいたい。そんな双方の思いが相まって、工作の最後の仕上げは親がやってしまうというのは、待たない育児のよくあるパターンと言えるでしょう。

このように、親があれこれとやってくれることは子どもにとってはハッピーであることも多いので、子どもの方からその状態に気づくということは考えにくいもの。ですので、親の方が、「先回りし過ぎていないか」「子ども自身にやらせる力をつけられているか」と問うことが大事になってきます。

ちょっとの踏ん張りで欲求不満耐性を上手に育もう

ここまで待てないことへの問題点ばかりをお伝えしてきましたが、ならばとことん待つ育児がいいのかと言えば、そういうことではありません。日々のリズムを狂わせてしまうほどに待ってしまっては本末転倒です。1日は24時間と限られていますから、待てない場面も当然発生します。ですので、待つか待たないかの白黒で考えるのではなく、「待つことも大事」と場面ごとに意識できると理想的です。とくに、これまであまり待てていなかったと感じる方は、その背後にある複雑な思いがそうさせていることが多いので、上に書いたタイプを参考に、自分はどういう場面が苦手なのかを分析してみると気づきが生まれると思います。

心理学で欲求不満耐性という言葉がありますが、これは言葉どおり、欲求不満への耐性のこと。フラストレーションがたまるような困難な状況はだれにとってもいやなものですが、根気よく乗り越えられる人もいれば、すぐにさじを投げてしまう人もいます。小さいうちからそこそこの欲求不満にさらされることで、耐性が高まっていくと言われているので、「うまくいかない経験を通して身につくスキルがあるのだ」というまなざしで子どもたちのことを見守ってほしいと思います。

日々の“ちょっとした踏ん張り”は、子どもたちをたくましく成長させてくれます。「失敗したらやり直せばいい」「転ぶことで学べることがある」のように、子どもの負の感情を怖がらない姿勢をぜひ意識してみてください。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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