【連載2回目】STEM教育のひろがりと多様性:プログラミングだけではない!知識を越えた学びへ

【連載2回目】STEM教育のひろがりと多様性:プログラミングだけではない!知識を越えた学びへ

出典:サンフランシスコ49ers

近年、STEM教育としてプログラミングやロボット、レゴ教室などが注目されていますが、これらは、いわゆる狭義のSTEM教育です。

90年代からSTEM教育の重要性が浸透しているアメリカに目を向けてみると、スポーツを通したSTEM学習、ハチの生態系に特化した学習、芸術を通じて創造力を養う学習など、バラエティに富んでいます。

連載の第2回目では、アメリカで人気の高いSTEMスクールの最新情報とともに、従来のSTEM分野の枠を越えたユニークなプログラムについてもご紹介します。

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人気プログラミングスクールの特徴

アメリカにおいても、STEM教育のなかでより重要視されているのがプログラミング学習です。とくに、プログラミング言語を習得するコーディングに焦点を当てた教室が多くあり、ゲーム作りやロボット操作を取り入れたコースが多く存在しています。

なかでも、人気のあるスクールでは、単にプログラミングを教えるだけでなく、それを学ぶとどのような仕事ができるのか、そのためには大学で何を勉強すればいいのかといった、進学や就職を見据えた構成になっていることが特徴です。

例えば IDTechというプログラミングスクール(1)では、ハーバード、スタンフォード、マサチューセッツ工科大学など、一流大学を含む150以上ものキャンパスで授業をしています。

中学生になると自分のプロジェクトを完成させていく起業を視野にいれたコースなどもあり、グーグルやフェイスブックなどの企業訪問や第1線で活躍しているSTEM分野の専門家との交流も含まれており、より実践に近いプログラムが提供されています(2)

多くのプログラミングスクールは、対象年齢が小学生から高校生までとなっており、学習段階に合わせて長期的・継続的にプログラミングを学習できるようになっていることも特徴的です。

また、STEM分野のなかでもとくにコンピューター関連の仕事に就く女性が少ないことから、女の子のみを対象にしたコースも充実しています。

さらに、プログラミングスクールのなかには海外からの生徒を受け入れているところもあるため、夏休みなどの長期休暇に、海外から参加することも可能です。

気になる価格は、IDTechでは1週間(月から木9時〜5時 金曜は9時〜4時)で、849ドル(3)となっています。

多様化するSTEM学習


出典:San Francisco 49ers

プログラミングを学んでゲームを作ったり、ロボットを動かしてみたりといったイメージが強いSTEM教育ですが、実はその学習分野は多岐に渡っています。

例えば、世界で一つしかないと言われている、スポーツチームが運営するSTEMプログラムがサンフランシスコにあります。アメリカのフットボールチーム「サンフランシスコ49ers」の教育プログラム(4)です。

STEM教育は、スポーツとは縁がないように思われがちですが、このプログラムを体験すると、数学や工学の知識はスポーツに欠かせないことがわかります。

ここでは、建築工学の知識を使ってスタジアムの模型を作るクラス、幾何学や統計の知識が試合でどのように使われているかを学ぶクラス、ボールの力学を、フットボールに興じながら学ぶクラスなど(5)、子どもたちがスポーツを通して楽しみながらSTEM学習ができるプログラムとなっています。


出典:Planet Bee Foundation

また、最近では、E-STEMと呼ばれる環境をテーマとしたSTEM学習プログラムもあり、サンフランシスコを中心に活動するNPO団体 PlanetBee(6)では、ハチの生態をさまざまな角度から学習するSTEMプログラムを提供しています。

ここでは、「学習は考えるためにするのであって、覚えるためにするのではない」という教育理念のもと、ハチの巣はどうして6角形なのかを数学と物理から紐解いていくクラス、ハチの巣を観察し、人工の巣を作るクラス、ハチに卵を産みつけ、ハチを殺してしまうハエの分布を調査する光装置を作るクラスなどがあります。

STEM教室といえば室内学習を思い浮かべるかもしれませんが、PlanetBeeでは屋外でのSTEM教育に力をいれていることがわかります。これは環境問題を解決していくためには、幼少期から自然と触れることが重要であること、そして、屋外学習は子どもの学力の向上に大きく貢献するという調査結果に基づいています。

定期的に屋外での学習を取り入れた結果、科学、算数、言語、社会の全ての分野における学力が6割から7割上昇した(7)ということですから、屋外でのSTEM学習の重要性は無視できないといえるでしょう。

STEMからSTEAM、STREAMへ:人文学分野の見直しへ


出典: Univerity of Florida (左脳がSTEM、右脳はArts)

STEMという用語が一般に知られるようになってから10年近くになるアメリカですが、最近はSTEAMやSTREAMといった用語も目につくようになってきました。

これらの用語は、教育において理数工学分野の知識を重視するあまり、その他の学問分野が軽視されているのではないかとの懸念から生まれたものです(8)

STEAMのAは、文学や芸術の分野を意味するArt(s)を指しています。

例えば新しい技術や製品を生み出そうとする際、今までになかった斬新なデザインや機能を考えたり、アイデアを形にしていかなければなりませんが、そのためには科学や数学の知識だけでなく、文学や芸術の分野において従来から重視されてきた創造力・表現力・デザイン力も不可欠であるとの認識が高まっています(9)

また、STREAMですが、このRはReading(読解力)とwRiting(文章力)の両方を指しており、ここには、他人の文章を理解し、建設的な批判ができる力、自分の考えをまとめ、周りに伝えることのできる文章力などが含まれています(10)

このようにみてみると、IT人材の不足を解消するために導入されたSTEM教育ですが、プログラミング・ロボットといったテクノロジー中心のプログラムから、より身近なテーマを取り入れたプログラムへと広がりをみせ、現在では理系・文系分野を統合することで、理系か文系かという二分法を超えた新しい学習分野へと発展しつつあることがわかります。

日本では、2020年にプログラミングが授業として導入されることから、プログラミング教室の人気が高くなっていますが、今後は日本でも、お子さんの興味に合わせたSTEM・STEAM・STEREAM学習を選ぶことのできる環境が整っていくのではないでしょうか?

(1)https://www.idtech.com
(2)https://media.idtech.com/downloads/iDTech_Brochure2019.pdf
(3)https://www.idtech.com/tech-camps
(4)https://www.49ers.com/community/49ersedu
(5)http://www.levisstadium.com/wp-content/uploads/2017/05/17MUS_ED-PROGRAM_GUIDE-2.pdf
(6)https://www.planetbee.org
(7)https://www.planetbee.org/planet-bee-blog//why-outdoor-edu-check-out-these-numbers
(8)https://education.cu-portland.edu/blog/classroom-resources/evolution-of-stem-and-steam-in-the-united-states/
(9)https://education.cu-portland.edu/blog/leaders-link/importance-of-arts-in-steam-education/
(10)https://www.psychologytoday.com/intl/blog/imagine/201103/stem-steam-stream-writing-essential-component-science-education
http://edtechreview.in/trends-insights/insights/2968-what-is-stream-education

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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