【連載3回目】全米でSTEM教育が見直しに?いま、子どもたちに必要とされる4Cスキルとは?

【連載3回目】全米でSTEM教育が見直しに?いま、子どもたちに必要とされる4Cスキルとは?

出典:Photo by Andy Kelly on Unsplash

STEM教育は、テクノロジーや理数工学分野の知識の習得として捉えられることが多いですが、昨今、知識の習得と同様に重要だとされているのが4Cと呼ばれる4つのスキルの習得です。

学校で学ぶ知識をハード面とするならば、これら4つのスキルはソフト面の学びだとされており、このソフトスキルを習得しているか否かは、子どもの将来を大きく左右すると言われています。

連載3回目では、なぜいまSTEM 教育のソフト面が注目されているのか、そして、4Cのスキルとは何かついて掘り下げていきます。さらに、4Cのスキルを育てるために導入されている「プロジェクト型学習」についてもご紹介します。

日経DUAL記事

全米が注目!新入社員に求められるソフトスキル

4Cとは、アメリカの行政・ビジネス・教育界のリーダーで組織されたNPO団体 Partnership for 21st Century Learning(1)により特定された21世紀に必要とされる4つのスキルのことです。

この4つのCは、Critical thinking、Creativity、Collaboration、Communication(批判的思考、創造性、協働、コミュニケーション)(2)の頭文字を指します。

そもそも、ここ数年でなぜSTEM教育においてソフトスキル、つまり、チームワーク、コミュニケーション、社交性といった対人関係上のスキルが重視されるようになったのでしょうか。

背景として、コンピューターや理数工学系の専門知識よりも、対人関係のスキルを身につけている人のほうが、職場では成功しやすい傾向にあることが調査によって明らかになってきたことがあります。

2017年の全米大学・雇用者協会(National Association of Colleges and Employers)の調査(3)によれば、企業が新入社員に求める能力のなかでは、チームワークが最も高く、コミュニケーション力、課題解決力、分析力と続いており、学校で習得できる知識はこれらのソフトスキルよりも重要度が低くなっていることがわかっています。

また、グーグルが1998年から現在までの社員の採用・解雇・昇進のデータを解析したOxygenプロジェクト(4)においても、最も業績をあげている社員の特徴として、上位7つまでがソフトスキルであり、STEM分野の専門知識は8番目であることが明らかになっています。

この結果を受けてグーグルでは、人文学分野や芸術分野の学生の採用枠を増やしたといいます。今後も、ソフトスキルの有無が子どもたちの就職や昇進の機会に影響を与えるであろうことは誰しもが想像できるのではないでしょうか。


出典:David J. Deming, NBER Reporter 2017 Number 4

上図は2017年にハーバード大学で行われたソフトスキルに対する調査(5)で、数学の知識と社交性の重要性を賃金の上昇率から分析したものです。これを見てみると、最も賃金の伸び率が高いのは数学の知識と社交性の両方を備えている場合であることがわかります。

また、2番目に高いのは、数学の知識が低くても社交性が高い場合であり、数学の知識が高くても、社交性が低い場合、その伸び率は大きく低下することが読み取れます。

これらの調査結果を見てみてみると、STEM分野の知識の習得が不可欠であると言われるなか、スムーズな対人関係を築くことのできる力も同程度、もしくは、それ以上に重要であることが明らかになってきているといえるでしょう。

4Cのスキル:批判的思考、創造性、協働、コミュニケーション

ここで、4Cのスキルをそれぞれ見てみましょう。

Critical Thinking (批判的思考):批判的思考というと、他人の意見を批判することのように思われがちですが、ここでいう批判的思考とは、社会規範や他人の意見に対して「本当にそうなのか?」と問いかける力、その根拠や矛盾について調べ、論理的に分析し、自ら判断する力だといえます(6)

インターネット上での情報が溢れ、簡単に多くの人の意見を知ることができる現在では、その情報が正確な事実に基づいているかどうかを判断することはますます困難になってきています。

今後もこのような傾向が進んでいくこと考えた場合、子どもたち自身が、本当にそうなのだろうかと問いかける姿勢を常に持ち、自ら考え、判断できる力を身につけていくことが必要とされているのです。

Creativity(創造性):芸術家と創造力が関連づけて語られるように、創造性は生まれながら持っている才能のように捉えられがちです。しかし、STEM教育における創造性とは、誰もが学習できるものであると考えられています。

物事を多面的な視点から捉えることができたり、既成概念にとらわれないアイデアを表現することができる力とされています(7)

また、ここでいう創造性とは、孤独のなかで生み出されるものではなく、アイデアを他人と共有することで、より高めることができるものであるとされています。そのため、自らのアイデアを積極的に他人に伝えていく姿勢が重視されています(8)


出典:rawpixel.com from Pexels

Collaboration(協働):協働とは、チームの目的を達成するために、チームの一員として他人とともに取り組むことのできるスキルです 。

私たちがある課題を解決しようとする場合、同じような考え方の人より、多様なバックグラウンドや専門知識を持った人から構成されたチームの方が、より適切な判断や決断ができると言われています(10)

現代社会では、環境問題や食糧難といったグローバルな課題から、物価や雇用といった身近な問題に至るまで、どれも一つの国や一つ専門分野のみでは解決できなくなってきています。

子どもたちにとって、自分とは異なった考え方を持つ人を尊重して、認め合い、より複眼的な視野を持って協働できるスキルは今後ますます重要になっていくとされています。

Communication (コミュニケーション):コミュニケーション能力とは自分の考えを他人に分かりやすく、効率的に伝えることができるスキルです(11)

SNSやEメールといったテキスト中心のコミュニケーションが増加するなか、対人関係におけるコミュニケーションは意識的に学習しなければ習得できないものになりつつあります(12)

このようななかで、自分の意見を主張して相手を説得できる、聞き手にわかりやすく説明できる、的確なアドバイスを提供できる、意見の衝突や対立をコントロールできるといったコミュニケーション力を持った人材はますます重要になってきています(13)

今後は、グローバル社会でのコミュニケーションスキルも不可欠になるとされており、英語ができるということのみではなく、さまざまな国・文化・宗教についての幅広い知識を踏まえたコミュニケーションスキルが求められると言われています(14)

      

4Cスキルをグンと伸ばす、プロジェクト型学習のプロセス


出典:School District of Ashland

子どもの好奇心を知識に変える、子どもたちの将来にとって必要とされる4Cのスキルですが、どのように学習することができるのでしょうか?

4Cの重要性が広く認識されているアメリカでは、これらのスキルの習得のために「プロジェクト型学習法(PBL=Project based learning)」が導入されています。プロジェクト型学習法は、生徒が日常生活で感じた素朴な疑問から解決すべき課題を特定し、自ら調べ、熟考し、その成果を発表するという学習者の主体性を中心に据えた探求型の学習法です(16)

ここでは、先生から生徒への一方通行の学びや詰め込み式の知識ではなく、生徒自身が課題解決のために必要な知識を取捨選択し、応用することに重点が置かれています。

例えば、サンフランシスコにあるSTEM教室では、教室に通う女の子の3人組から、旅行先の湖で使うカヌーを作りたいとの提案が出され、それをこの生徒たちのSTEMプロジェクトとして取り上げています(17)

素材選びから費用の計算、設計からプロトタイプ(試作品)の制作、そして、吸水率や耐久性に対する実験を重ね、女の子たちは旅行の日までに2人乗りのカヌーを作り上げることができたのです。

プロジェクト型学習では、どのような課題を設定するのかという創造力やどの情報や知識を適用するのかを判断する批判的思考が要求されるだけでなく、多くのプロジェクトはチーム単位で遂行されるため、何をどのように調べるのかという段階からプロジェクトを完成させるまでの協働力・コミュニケーション力も試されるのです(18)

STEM連載の3回目では、STEM教育における4つのスキルの重要性とその学習法についてお伝えしました。社会のAI化が進むなか、プログラミングに代表されるテクノロジーの知識は子どもたちにとって不可欠になるかもしれません。しかしながら、AI化が進めば進むほど、人間だからこそ実現できることへの重要性も同時に高まりつつあるといえるのではないでしょうか?

(1)http://lsce-mena.org/p21-partnership-for-21st-century-learning
(2) https://curriculumredesign.org/wp-content/uploads/CCR-Skills_FINAL_June2015.pdf
(3) https://www.nber.org/reporter/2017number4/deming.html
(4) https://www.washingtonpost.com/news/answer-sheet/wp/2017/12/20/the-surprising-thing-google-learned-about-its-employees-and-what-it-means-for-todays-students/?utm_term=.d74f73acf78b
(5) https://www.nber.org/reporter/2017number4/deming.html
(6) 同上
(7)https://www.aeseducation.com/career-readiness/what-are-the-4-cs-of-21st-century-skills
(8) 同上
(9) 同上
(10)https://curriculumredesign.org/wp-content/uploads/CCR-Skills_FINAL_June2015.pdf
(11)https://www.aeseducation.com/career-readiness/what-are-the-4-cs-of-21st-century-skills
(12) 同上
(13)https://curriculumredesign.org/wp-content/uploads/CCR-Skills_FINAL_June2015.pdf
(14)http://www.nea.org/assets/docs/A-Guide-to-Four-Cs.pdf
(15)https://www.ashland.k12.wi.us/Page/1290
(16)https://web.tech4learning.com/what-is-project-based-learning-and-why-use-it
(17)https://www.nap.edu/read/21740/chapter/4#17
(18) 同上

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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